62 思い込みが激しい魔族がいるようですが、大丈夫ですか?
「よく来たね、カイン君」
盾の後ろに隠れながらもベルネットは楽しそうにはしゃいでいた。反対に、ゼイン神官長は盾ですっぽり全身を隠すように隠れながら、興奮しているベルネットに苦言を言っていた。
グレイス・リーはカインを見ると血の付いた口を大きく開け、喜んでいるように見えた。普通の子供ならばあまりの恐怖で卒倒しただろう。
「やっと会えた・・・私の息子・・・」
皆、この女が何を言っているのか分からず、変な空気が流れていた。
「あの・・・何と言いましたか?」
「カイン、やっと会えた。私の息子、カイン」
(本当だ。セヴァスが言っていた通りだったな)
セヴァスはカインの父ベザレルとグレイス・リーに扮したウィロウの関係の話した時、カインにこう忠告していた。
「カイン坊ちゃま、もしかしたらウィロウがこんなことを言うかもしれませんが、信じないでくださいね」
「???どんなことを言ってくるの?」
「おそらく、カイン坊ちゃまのことを自分の息子だ、と言ってくるでしょうが、全くもって嘘ですから」
「えっ・・・?そんな嘘を?」
「はい・・・絶対に言います」
「本当に違うよね?」
「はい、絶対に違います」
「わかった。本当にそんなことを言ってきたら、僕が豪華な贈り物をあげよう」
(さて、どんな贈り物をお見舞いしようか)
セヴァスはカインの表情を見て、カインは逃げるつもりはなく、むしろ、今の自分の実力を試せると思い、喜んでいることを悟った。
「カイン坊ちゃま、ほどほどにしてくださいね」
「それは保証できないな」
「お、カイン君やる気だね。やれやれ!」
「ハナ、やめなさい」
カインはマリーを扉の外に残し、扉を閉めた。
ベルネットとゼイン神官長はコソコソ小声で話していた。
「この人、カイン様の母親なの?」
「そんなわけないでしょ。全く似ていないし。それに、カイン君の母親はカイン君と同じ金色の瞳なはずよ。どっからどう見てもあれはただの魔族でしょ。カイン君とは何かしらの関係がありそうだけど」
「ではなぜ、あの魔族はカイン様を息子だと?」
「さぁ、カイン君の親父さんは魔王ベザレルだしね。カイン君の親父さんだよ?それなりにモテていたんじゃない?カイン君だってそうだし」
「なるほど・・・」
「カイン君はあの人の騙されないだろうから、大丈夫でしょ。それより、カイン君の今の実力が気になる」
「たしかに」
ベルネットに乗せられて、ゼイン神官長もカインと魔族の対決を興味津々に見ていた。
「僕が息子?冗談はやめてください。僕の母親は美しくて綺麗な人なはずです」
カインの言葉にウィロウは過剰に反応した。
「違う、違う、違う!あんな女にベザレルが・・・そんなはずはない!」
「あんな女・・・?もしかして僕の母親のことを何か知っているのですか?」
思わず口走りまずいと思い焦ったのか、グレイス・リーの容貌だったウィロウが本当の姿を現しはじめた。
人族から見ると魔族と化したなったウィロウの容貌は醜く、お世辞でも美しいとは言えなかった。小さい二本の角が頭から生えており、肌の色は黒に近い藍色をしていた。
「魔族でも服は着るんだ」
ベルネットは変な所に興味を持ち、感心していた。
「カイン・・・一緒に帰ろう」
カインは反応に困った。目の前にいる魔族が母親ではないことは、たしかなのだが、その声や表情からは、本当に自分のこと息子だと勘違い、いや、信じていることを感じた。きっと実父の弟ガドからの命令でここに来たのだろうということはわかっていたが、ただ、自分を魔族領に連れて帰りたいという想いは本物だということは理解できた。そのため、妙に同情していた。
「気持ちはわかりますが、僕は魔族領には行きません。今の僕の父は勇者アーサーで母はミディアンです。兄も姉もいます。今の僕は幸せなのです」
「違うよ。カイン。カインは騙されているんだよ。本当の家は魔王城だよ。カインは魔王になって、母さんと幸せに暮らすんだよ」
カインが何を言っても、ウィロウはカインが自分の息子であることを信じ、一歩も引かなかった。
「セヴァスさん、どういうことですか?」
ベルネットとゼイン神官長はセヴァスのこの状況の説明を求めた。
「そうですね。詳しくお話しますと、時間がかかりますので、簡潔に言いますが・・・思い込みが激しいだけです」
「随分手厳しい事を言いますね」
ゼイン神官長はセヴァスの言葉に苦笑していた。
「ただ、ウィロウはどうやらカイン坊ちゃまの実の母親を知っているようですね。捕まえて尋問しましょうかね」
「セヴァスさん、穏やかな口調で物騒なことを言いますね」
「忘れていませんか?私は魔族ですよ。本質は戦いを好む種族です。ベザレル様のおかげでそれを制御できる力を教えていただいただけです。カイン坊ちゃまも本質は魔族です。お二人は知らないでしょうけど、カイン坊ちゃまはすでに怖ろしい力を有しています。あのウィロウもカイン坊ちゃまが本気を出せば、一瞬で灰になります」
「一瞬で灰に?まさか・・・」
ベルネットとゼイン神官長はセヴァスが冗談を言っていると思い、軽く笑っていたが、セヴァスの奇妙な笑顔から、それが事実であることを知った。
「もう話しても埒が明かないので、とりあえず、大人しくしていただけますか?」
カインがウィロウを指さすと、ウィロウは動けなくなり、話すこともできなくなった。
「ベルネット先生、ロープのようなものありますか?」
「えっ?あぁ、あるよ」
一瞬の出来事だったので、ベルネットとゼイン神官長には何が起こったのかわからなかった。
「この人を縛ってください。動かなくなるようにしているので安心してください」
ベルネットは恐る恐るウィロウに近づき、ロープで体を縛った。
「カイン様。どこで覚えたのですか?」
「王宮に闇属性の魔法の本があるんですよ。今まで人族が把握している闇属性の魔法なら、僕は使えるのです」
「驚いたー。カイン君は本当にすごいな」
「カイン坊ちゃま、いくら強いとはいえ自重してください。魔族の中には表立って使う魔法と隠している魔法、二つを操る者もいるのです。カイン坊ちゃまに万が一のことがあれば、ベザレル様に顔向けできません」
「大丈夫だよ、セヴァス。何かあったら、セヴァスが守ってくれると信じているから」
「全く・・・その通りですが」
解決ムードに包まれている中、マリーとアルバートがノックもせずに、慌てて入ってきた。
「カイン様、アベル様が!」
マリーは目の前に起きている状況をある程度把握できていたが、一緒に来たアルバートが状況がつかめなかった。
「魔、魔族?カイン様、これは一体・・・」
隠れる暇がなかったセヴァスがアルバートの目に留まった。
「魔族の執事?」
カインとセヴァスは目を合わせ、ついにばれてしまったと頭を抱えていた。




