61 バルチャの開会宣言の裏で何かの企みが動いているようですが、大丈夫ですか?
「ではここにバルチャの開会を宣言します」
スチアート王国国王ダタンの宣言によりバルチャが始まった。
試合会場の四方の上の方には四国の国王と王妃、王子、王女たちの席が用意されてた。国の位置の通りに観覧席が用意されており、北はスチアート、南はグレテス、西はフェーズ、東はグレテスである。代表者の父母たちはそれぞれの国王のいる場所の下方にある一般観覧席で観戦していた。
デイヴィス一家も北の観覧席でアベルの登場を待っていた。
「お父様、お兄様たちの調子はどうですか?」
「まず、間違いなくアベルは優勝するだろう。選抜戦も今年は優秀な生徒が多い。訓練しているところを見たが、なかなかな強者揃いだ。期待していいだろう。ただ、イエッツェには警戒した方がいい。万年最下位の国だが、今年は国王の様子も違った。三日前の顔合わせの時、変に自信満々で。あたかも、すでに優勝したかのような発言をしていた。各国の国王も指導者も聞き流してはいたけど、何か裏がありそうな・・・。まぁ、安心しろ。俺がいる限り、お前たちは守るからな」
(グローリー教会にベルネットを訪ねて来た件といい、お父様から聞く国王の態度・・・嫌な予感しかしない・・・セヴァス、二人の事を頼むよ)
国王ダタンの開会宣言は波乱の幕開けだった。
バルチャは武術部門の新人戦から始まった。総当たり戦で行われ、、相手が倒れる、もしくは負けを認めれば勝ちとなる。試合時間は七分間。延長三分。最長十分の試合時間である。
ポイント制で勝てば三ポイント。引き分けで一ポイント。負ければゼロポイント。
「新人戦。グレテス王国代表、エイデン・グエン。イエッツェ王国代表、マテオ・ペレス。前へ!」
最初の試合はグレテスとイエッツェの新人戦だった。グレテスは武術を得意とする国だったため、グレテスの圧勝だろうと思われていた。しかし、試合展開は全く反対だった。
グレテスの新人戦代表エイデン・グエンは一方的に攻撃され、遊ばれているような試合だった。
「おかしい・・・イエッツェにこんな優秀な生徒がいるはずがない。何だ、この違和感は・・・」
(たしかにおかしい・・・グレテスの新人代表の人、驚いた顔で何か訴えているように見えたけど、それを阻止されるように攻撃されていたしな)
アーサーは側近アルバートを呼び、真剣な表情で何かを頼んでいるようだった。
アルバートは頷くと、どこかに走っていった。
「あなた、どうしたの?」
「いや、ちょっと気になってな。大丈夫だ。心配するな」
言葉ではそう言っていたアーサーだったが、雲行きの怪しい表情をしていた。
「お母様、勇者のお父様がいるから何があっても大丈夫ですよ」
「そうね、レア。アベルの試合を楽しみに待ちましょう」
カインはベルネットの研究室で皆の監視をしている、ベルネットとゼイン神官長のことが気になっていた。
「お父様、僕、トイレに行きたいです」
「寄り道するんじゃないぞ。マリー、カインを頼む」
「承知いたしました」
マリーはカインの手を引き、トイレに向かった。
「カイン様、トイレに行くのではなかったのですか?」
途中から手を引いていたはずのマリーが、逆に手を引かれ、トイレとは反対方向のどこかに連れて行かれていた。
「ベルネット先生とゼイン神官長のことが気になって」
「旦那様に怒られますよ。それにセヴァスさんが護衛してくれているので大丈夫だと思いますけど」
「大丈夫だよ。お父様は僕に甘いから。セヴァスがいるから大丈夫とは思うんだけど・・・一応この目で確認しないと」
マリーはため息をつきながらも、従順にカインに手を引かれつつ、ついていった。
カインがベルネットの研究室をノックしようとした時、誰かが倒れるような大きな音がした。
(やっぱり何かあったのか?セヴァスがいるから大丈夫なはずだけど・・・)
カインはノックをせずに、ゆっくりと扉を開けた。
「カイン坊ちゃま、お逃げください!」
カインが扉を開けた先には、嬉しそうに自分の流れた血を啜っている女の姿があった。目は真っ赤に染まり、黒髪の長髪で、セヴァスからの攻撃で全身血だらけになった、人間のような魔族のような姿をした、グレイス・リーだった。
セヴァスの後ろでは、ベルネットが開発したと思われる盾を掲げ、隠れているベルネットとゼイン神官長がいた。




