60 大事な日に恋バナで盛り上がっているようですが、大丈夫ですか?
初対面したハナ・ベルネットとイエッツェ王国第一王子ライラン・イエッツェだったが、嫌味や悪口ではベルネットが上手だった。ベルネットは作業をしながら、適当にライランの相手をしつつ、あしらっていた。ライランはベルネットの態度に腹を立てていた。
「結局はイエッツェ王国の王族の血が流れているんだ。お前は父上や私の駒としか使われないんだよ」
その言葉を放った後、ベルネットは無言だった。そのため、調子に乗ったライランはさらに追い打ちをかけ、言い負かそうとしていた。
「父上たちもスチアートに来ている。まぁ、父上と母上に跪いて懇願すれば、また、王女として、イエッツェ王国に帰れるかもしれない。もし私に懇願したら、私から父上と母上に説得してもいいけどな。実は、姉上に婚姻話が出ている。グレテスに大金持ちの商人がいるんだが、今、婚姻相手を探しているらしい。父上がその商人と関係を持ちたいから、姉上との婚姻を持ち出したら、考えてもいいと言ってくれたそうだ。もし、この話が決まれば、グレテスはイエッツェのものになったも同然だ。姉上、良かったな。捨てられた王女がイエッツェ王国の役に立てて」
ベルネットは今にもライランを殴り倒したかったが、冷静に堪えていた。
(ライランが言っている人は、もしかして、グレテスの自称悪徳商人のバーディのことかしら。あの男、たしか五十過ぎのおじさんでしょう?冗談じゃない。それに、その話はたぶん・・・)
「一つ聞いていいかしら?もしかして、契約金か何か事前に払ったんじゃない?」
「当り前さ。手付金といったらいいのかな。金額は知らないけど、父上が払ったと言っていた。これからイエッツェ王国に入る金額を考えたら、はした金だよ」
「・・・イエッツェ王国の奴隷売買の話もしたの?」
「あぁ、イエッツェ王国の奴隷を買い取ってくれると言っていた。イエッツェはイエッツェの貧民だけでなく、エルフ族や獣人族も奴隷として買っている。実は私にも一人いて。これがまた素晴らしいエルフの奴隷なんだ」
(やっぱり・・・イエッツェ王国は馬鹿の集まりだ。腐っている)
ベルネットはクスクス馬鹿にしたように笑っていた。
「本当に馬鹿な人たち」
「何だと!」
ライランは怒り狂いそうになっていたが、自分が正しいと思っているので、振り上げた手を下ろし、鼻で笑った。
「姉上、何を言っているのですか?あの変態男に嫁ぎたくないからって、無駄な抵抗はしないほうがいいですよ」
「あなたたち完全に騙されているわよ。ただでさえ、国庫がすっからかんなのに。その男の名前、バーディとかいう名前でしょ?それにあの男はイエッツェ王国に初めから協力する気はないし、私と婚姻するつもりはないと思うわ。それに奴隷のことを話したのはうかつだったわね。つくづくイエッツェ王国の王女でなくてよかったわ。私まで馬鹿になるところだった」
「ふんっ、何も知らないやつが何を言っている。父上からの命令がくるまで楽しみに待っててください。姉上」
「はいはいはい。早く帰って。わずらわしい」
ライランは時期にベルネットが自分たちの思い通りの駒になると思っているのか、勝ち誇ったような顔で出て行った。
(馬鹿なガキ。私はフェーズもグレテスも他種族の国も網羅しているのよ。イエッツェ王国ももうすぐ終わるわね。一応、バーディおじさんに手紙でも送っておくか)
ベルネットとグレテスの自称悪徳商人バーディが裏でつながっているとは、イエッツェ王国は考えもしていなかった。
「うわぁー、初めてこんなに間近で魔族を見た。普通に人族と変わらないじゃん」
早朝、バルチャが始まる前に、カインは事前にセヴァスをベルネットに紹介していた。ゼイン神官長もすでにベルネットの研究室にいた。
「セヴァスは本当のお父様、つまり、魔王ベザレルの側近だったのです。おじいさんだけど強いから安心してください」
「よろしくお願いします。エルシー様。ハナ様」
ベルネットは戸惑いながらも、セヴァスのことを興味津々に見ていた。
「僕はお父様たちとお兄様の試合を見に行きますので。セヴァス、あとはよろしく」
「承知いたしました」
カインとマリーが研究室を出た後、セヴァスはベルネットの質問に答えられる範囲で応えていた。
「そうですね・・・一番困っていることは、やはり、カイン坊ちゃまは女性から好かれているという点でしょうか?エルシー様のその一人でしょうから」
「えっ?」
「エルシー、そうなの?」
「違うわよ。そんなはずないでしょ。カイン様はまだ七歳よ。私は二十。いくつ年が離れていると思っているの」
「エルシー、恋に歳の差なんて関係ないのよ」
「恋もしたこともないハナには言われたくないわ」
「カイン君が十六の時は・・・私たちは二十九歳か・・・行き遅れているけど、子供は産めるわよ」
「私たち?もしかしてハナも・・・」
「ハナも・・・って、ようやく認めたわね、エルシー」
「違う、その」
(カイン坊ちゃまは罪なお方ですね。果たして、何人もの奥方を迎えられるのでしょうか)
一人は顔を真っ赤にしながら否定し、一人はそれを面白がっていじめている。もうすぐバルチャが始まるというのに、緊張感もなく恋バナをしている二人を、セヴァスは穏やかな目で見守っていた。
ベルネットの研究室を出たカインはワクワクしていた。
「マリー、バルチャって今の国の戦力がわかると言われているほど、重要な試合らしいよ。今の国の強さで言うと、スチアート、グレテス、フェーズ、イエッツェの順かな。ただ、今回、セヴァスの報告ではイエッツェ王国の代表の人たちが事前練習で異常な強さを発揮しているらしい。もしかしたら、魔族が一枚絡んでいるのかもしれない。実際は戦いを見ないと何とも言えないけど」
「カイン様も気を付けてください」
「わかっている。まぁ、とりあえずはお父様の側にいれば多少は大丈夫かな」
何事も起こらないことを願っていたカインだったが、そんなわけもなく、糸で引っ張られるように、事件に巻き込まれるのであった。




