58 子供を捨てるような人が国王?大丈夫ですか?
「あれ・・・私・・・」
「ゼイン神官長、目が覚めましたか?」
ゼイン神官長は目覚めると、自分のベットに寝ていた。
「教会の方には話しています。今日はゆっくり休んでくださいとのことでした」
「ありがとうございます。マリーさん。ここまで運んでくださったのですね」
「えぇ、まぁ・・・そうですね」
(本当はセヴァスに運んでもらったんだけどね)
そんなことは言えるはずもなく、カインとマリーは苦笑しながら誤魔化していた。
「あの・・・実は聞こえてしまっていたのですが、ベルネット先生はイエッツェ王国の王女様なのですか?」
マリーからハーブティーをもらい飲んでいたゼイン神官長は、カインの言葉に思わず噴き出してしまった。
「ごめんなさい」
カインはマリーからハンカチを受け取り、濡れたところを拭いていた。
「なぜイエッツェ王国の王女様がグローリー教会に捨てられたのですか?」
ゼイン神官長は大きなため息をつき、悲し気に瞳を潤わせながら、語り出した。
十五年前の真夜中、グローリー教会の門を叩く一人の男がいた。
「どうされましたか?」
門と開けたのは、エルシーの父、マウリッツ・ゼインだった。
「この子を育てていただけませんか。お願いします」
男は体格が良く、護衛の仕事か何かしているのかと思うほど逞しい体つきだった。
男に手を引かれている子供は五歳くらいの女の子だった。
粗末な服装だったが、使っている生地は高価なものであることは一目でわかった。
「あなたはこの子の父親なのですか?」
「違います。私は殿・・・いえ、この子の叔父です」
(殿?殿・・・もしかして、殿下?)
「どうしてこの子を教会に連れてきたのですか?」
「この子をこの国に連れてこないと・・・いずれ、利用され、殺されてしまうかもしれません」
深い事情があることを悟ったマウリッツは教会の中に招いて話を聞くことにした。
「あなたのお名前は?」
「私はサヤード・ガニョンと申します」
「私はここの神官長をしております、マウリッツ・ゼインです。ここでお話しすることは一切誰にも公言しません。安心してください。ガニョンさんはこの国の方ではないですよね?」
人族には四つの国があるが、顔立ちは国によって多少異なる。スチアートは色白で鼻立ちがはっきりしており、美男美女が多いと言われている。フェーズは彫の深い顔立ちが多い。グレテスは肌の色が黒いためわかりやすい。
「あなたはイエッツェ王国の方ですね?」
ガニョンは細目でシュッとした顔立ちをしている。まさに、イエッツェ王国の者の特徴のお手本のような顔だった。
「はい・・・本当に内密にしてくださいますか?」
「はい。もし約束を破ったら、私の命を捧げます」
「・・・わかりました。全て、お話ししましょう」
ガニョンの言葉一言一言に、イエッツェ王国の非情さを痛感し、マウリッツは絶句していた。
イエッツェ王国の国王には二人の夫人がいた。先に生まれたのは第一夫人の子だった。国王も第一夫人も王子の誕生を望んでいた。しかし、生まれたのは王女だった。
王女も他国との関係で利用することができるため、それなりに育てられていた。しかし、第一王女ハナ・イエッツェは興味のあること以外には関心を向けることがなく、王女としての教育もなかなか進まなかった。そんなハナに国王も実母である第一夫人は辛くあたっていた。
ハナの唯一の味方は第二夫人ケーテ・イエッツェだった。ケーテはハナを自分の娘のように可愛がっていた。しかし、それが第一夫人からの妬みを買い、ケーテは毒を盛られた。ガニョンが気づいた時には、今にも命の灯が消えそうになっていた。次に殺されるのはハナだとケーテは確信していた。ハナを守るため、ケーテは弟に手紙を送っていた。
『ハナを守ってほしい』その一言だけだった。
ガニョンは手紙でやり取りをしていたため、大方の事情は知っていたが、まさか、自分の姉が毒を盛られ、亡くなるとは夢にも思っていなかった。
姉のケーテが葬られたその日、ガニョンはハナを連れて、イエッツェ王国から逃亡した。
たどり着いたのは、名君として名高い国王がいるスチアート王国だった。
町の人に尋ねながらたどり着いたのが、グローリー教会だった。グローリー教会は孤児を引き取り、大事に育て、その子たちは立派な大人に成長していると聞いた。ここならば、ハナを大切に育ててくれると、ガニョンは直感で感じた。
「何と言ったらいいのでしょ・・・」
ハナは疲れたのか、ガニョンの膝の上でスヤスヤと眠っていた。
「わかりました。私が大事育てます。安心してください」
「ありがとうございます・・・本当に・・・ありがとうございます」
ガニョンは涙を流しながら、マウリッツにお礼を述べていた。
「それで、ガニョンさんはどうされるのですか?私が国王様に頼んで、雇ってもらえるところを探しましょうか?」
「いいえ、私はイエッツェ王国に帰ります。これでも、公爵家の長男ですので、父と母が大変な目に遭ってしまします。どうか、ハナのことをよろしくお願いいたします。あっ、そうだ」
ガニョンは懐からあるものを取り出した。
「これは生前、姉が肌身離さず身につけていた指輪です。これは代々ガニョン家の娘が引き継ぐものです。姉には子がいませんでした。しかし、姉はハナを実の娘に可愛がっていました。ですから、これは、ハナが大人になった時、ハナにあげてください」
「わかりました。その日が来るまで、大切に保管します」
「ありがとうございます」
ガニョンは眠っているハナを抱きかかえ、抱きしめた。
「ハナ・・・元気でな」
ガニョンはハナをマウリッツに渡し、後ろを振り返ることなく、教会を出て行った。
その後、サヤード・ガニョンがハナを連れ去ったことが国王に知られ、ガニョン公爵家は辺境に地へ流刑となった。しばらくして、ガニョン一家の消息は不明となった。




