57 スチアート学院にイエッツェ王国の王女がいたようですが、大丈夫ですか?
「ゼイン神官長、どうしたのですか?」
ゼイン神官長は、眉間にしわを寄せたまま、口を閉ざしていた。
数分の間、沈黙が続いていたが、ようやくゼイン神官長の口を開いた。
「困りましたね・・・ハナとイエッツェ王国との関係は、私が安易に言えることではないのです。ですから・・・」
コンッコンッ
扉を叩く音が聞こえ、ゼイン神官長はその者を招き入れた。
「ゼイン神官長・・・あの・・・」
ゼイン神官長の補佐らしき女性が難しい表情をしながら、こそこそ話していた。
「何ですって!」
ゼイン神官長の表情は曇り、頭を抱え、何か緊急事態が起きたようだった。
「ゼイン神官長、どうされたのですか?」
ゼイン神官長は立ち上がり、カインに告げた。
「カイン様、絶対にこの部屋から出ないでください。カイン様の身の安全のためです」
「えっ?何があったのですか?」
「後からお話します。ですから、絶対にこの部屋から出ないでください」
「はい。わかりました」
ゼイン神官長の口調は怒っているようにも聞こえたが、どちらかというとカインを危険に晒したくないように忠告しているようだった。
ゼイン神官長が扉を閉めると、厳重に鍵をかけているような音も聞こえた。
「セヴァス」
カインはゼイン神官長の様子が気になり、セヴァスを呼び出した。
「カイン坊ちゃま、どうされましたか?」
「グローリー教会に誰かが訪ねてきたみたいなんだけど、ゼイン神官長の様子が気になって。様子をみてきてほしい」
「仰せのままに」
セヴァスはカインの影を通し、姿を消した。
「ゼイン神官長の様子は明らかにおかしかった。誰が訪ねてきたんだろう・・・」
「ゼイン神官長の婚約者とか元カレとかだったりして」
「マリー」
「ごめんなさい」
カインは言われた通りに大人しく部屋でゼイン神官長の帰りを待っていた。ゼイン神官長とカインの判断は正しかった。
「ほぉ、久しぶりに来たが全く変わっていないな」
偉そうな男と周りには数人の護衛らしき騎士がいた。
「私が神官長を務めています。エルシー・ゼインです」
「これこれは・・・綺麗な神官長様だね」
男がいやらし目をしながら、ゼイン神官長の頬に触れようとしたが、ゼイン神官長は上手くかわした。
「こちらにはどのようなご用件で来られたのでしょうか?」
「元気にしているかたしかめに来ただけだ。ここに余の娘がいたはずだ。名前は・・・えー・・・忘れたな」
ゼイン神官長の手は、今にも男を殴りそうなほど、怒りで震えていた。
「この数を私が一人で管理しろと?いつ寝ろっていうんだよ」
ベルネットはぶつぶつ文句を言いながら、ブレスレットを付けた者たちの位置が正確に大型画面に映されているか最終確認をしていた。この大型画面もベルネットの傑作の一部だった。
キーッ
「ここは立ち入り禁止です。出て行ってもらえますか?」
ベルネットは扉を見ずに、ぶっきらぼうな言い方で、訪ねて来た者を追い返そうとしていた。
「まさか先生が私の姉上だったとは・・・驚きましたよ」
ベルネットは振り返り、声の主の顔を見た瞬間、一瞬驚いた表情をしたが、すぐに冷静になっていた。
「私にはこんな出来損ないの弟なんていませんが」
「おい、私が誰だか知っているだろう!誰に向かってそんな口の利き方をしている!」
「私は先生で、君は生徒でしょ?何かも問題でも?」
「はっ、なるほど。父上から捨てられた理由がよくわかったよ。こんなやつが王女だったら、父上も馬鹿にされるだろうしな」
「そうね。感謝したいわね。グローリー教会に私を捨ててくれて。おかげ様で悪評高いイエッツェ王国の王族にならなくて済んだのだから。そうでしょ?弟のライラン・イエッツェ君」
「えっ?ベルネット先生がイエッツェ王国の王女様?どういうこと?」
セヴァスからの報告を聞いて、カインもマリーもベルネットの正体に驚いていた。
「なぜ、そんな人がグローリー教会で育って、スチアート学院の先生をしているんだろう?もしかしてスパイ?いや、先生に限ってそんなはずは・・・」
「詳しくはわかりませんが・・・グローリー教会を訪ねて来た男は、イエッツェ王国の国王セシル・イエッツェでした。名目は娘を見に来たと言っていましたが、とても娘を想っているような父親には見えませんでした」
(なるほど・・・ベルネット先生があれほどイエッツェ王国に嫌悪感を抱いていたのは、イエッツェ王国から捨てられた王女だったからなのか)
我が子を捨てた父親が悪びれた様子もなく、ましてや、名前まで忘れる始末。ベルネットの気持ちを考えると、カインは怒りに震え、今にでも、イエッツェ王国の国王を殴りに行きたい気持ちだった。
カインとマリーがベルネットについて話していると、外から誰かが近づいてくる声が聞こえてきた。
どうやらゼイン神官長とイエッツェ王国の国王が言い争っているようだった。
「ですから、ハナはここにはいません」
「では、どこにいるんだ?」
「それはお教えすることはできません」
「余を誰だと思っているのだ!ん?この部屋か?」
イエッツェ王国の国王セシルはカインとマリーのいる部屋を開けようとしたが、鍵がかかっているため開かなかった。それでも無理やり扉をこじ開けようとしていた。
「やめてください!」
止めようとするゼイン神官長をイエッツェ王国の国王セシルは殴ろうとしていた。
「何をしているのですか?」
そこに現れたのは騎士団団長アルフレッドだった。
「このグローリー教会は神聖な場所です。イエッツェ王国の国王といえど、この場所での無礼は許せません」
「貴様な・・・」
騎士団団長の怒りに満ちた眼差しと威圧感にイエッツェ王国の国王セシルは思わずたじろいだ。
「ふんっ、せっかくわざわざ娘に会いに来たというのに・・・帰るぞ」
ゼイン神官長はアルフレッドに小さくお礼をし、アルフレッドは敬礼をして、イエッツェ王国者たちを王宮に連れて帰った。
ゼイン神官長は震える手を押さえながら、鍵を開け、部屋に入った。
聞き耳を立てていたカインとマリーは扉の近くに立っていた。
「ゼイン神官長、大丈夫ですか?」
カインの顔を見て安心したのか、ゼイン神官長はカインに抱きつき、そのまま気を失った。




