56 先生が他国と何らかの因縁がありそうなのですが、大丈夫ですか?
バルチャまであと一週間となり、続々と他国の代表者たちがスチアート王国に集まってきていた。
バルチャの代表者たちはスチアート学院の学生寮に併設されている、仮設寮で寝泊まりすることとなる。仮設とはいえ、寝食や休息、訓練には最適な寮であり、一部の生徒は除いて、スチアート学院の配慮に感謝していた。
それぞれの国の代表生徒と先生にはブレスレットが配られた。このブレスレットはベルネットが作成したもので、一度つけるとバルチャが終わるまで外すことができない。ベルネットは常に全員の位置を把握し、監視役を任されている。ブレスレットのカラーは国旗のカラーとあわせており、スチアートは青、グレテスは緑、フェーズは黄、イエッツェは紅である。
訓練場は二カ所あり、時間ごとにそれぞれの国が使用でき、作戦が露呈しないよう防音もされており、関係者以外は入れないように工夫されている。ベルネットがブレスレットを作成したのはこのためでもあった。訓練場の各所にはゲートとセンサーが設けられており、使用する国以外の者が侵入するとブレスレットに反応し、警告音が鳴る仕組みとなっている。
三日前にはそれぞれの代表者たちの顔合わせがある。その日にあわせて、それぞれの国の国王、王子や王女たちもスチアート王国に入国していた。
カインはベルネットに呼び出され、ベルネットの研究室にいた。
「これはのブレスレッドですか?なぜ僕に?スチアート王国のブレスレットの色はたしか青だったはずです。僕のはどう見ても金ですよね?」
「だってこれは私が特別にカイン君のためにだけに作ったものだから」
「なぜですか?僕はバルチャに出場しないですし、お兄様の試合を見るだけですよ」
「カイン君はわかっていないな。君、狙われているんでしょ?今は各国の国王、王子、王女たちも集まっている。カイン君は魔王の子だよ?カイン君の力を知らない人たちは、まだ子供の君なら捕まえやすいと考えるはずだ。カイン君を手に入れて、他国を乗っ取って、天下を取ろう、なんて考える良からぬ者もいるはずだよ。特に・・・イエッツェ王国は・・・あの国は腐っている」
「ベルネット先生?」
ベルネットは鬼のような形相をしており、その目には積もり積もった恨みが表れていた。両手の拳は怒りで震えていた。
(ベルネット先生はイエッツェ王国を憎んでいるんだろうか・・・なぜ?)
ベルネットはカインの視線を感じ、大きく深呼吸をした。
「ごめん、カイン君。つい、考え事を。とにかく君はこの国にとって強みであり、同時に弱点でもある。バルチャが終わるまでは気を付けて」
「わかりました。心配してくださり、ありがとうございます」
ベルネットがカインを見つめる目は、心配しすぎて今にも泣きそうな母ミディアン目とそっくりだった。
王宮に戻る馬車の中で、カインはベルネットの表情が引っかかっていた。
「ねぇ、マリー。ベルネット先生はなぜあんなにイエッツェ王国を敵視しているんだろう。いつもへらへらしているのに、あの時に目はつり上がっていて、まさしく鬼のようだったよ」
「そうですね。イエッツェ王国を良く思う者はあまりいませんが、あの表情は個人的に何か恨みがあるようでしたね・・・ベルネット先生と仲が良い、ゼイン神官長なら知っているかもしれませんが」
「そうだね。マリー、グローリー教会に行こうか?」
「今からですか?奥様とレアお嬢様が待っているのですよ。心配されますよ」
「うーん。気になって今晩眠れなさそうだし」
「ゼイン神官長が話してくれるかわかりませんよ」
「わかっているよ。でも、一応行ってみようよ」
普段あまり何に対しても興味を示さないカインだが、一度興味を示すと、とことん追究する。今のカインをマリーには止めることができなかった。
「わかりました。申し訳ございませ、ドミニクさん、グローリー教会までお願いできますか?」
「承知しました」
(ベルネット先生とイエッツェ王国・・・一体どういう関係なのでしょうか・・・)
カインを止めるようなことを言っていたマリーも、実はベルネットのことが気になっていたのであった。
「もうすぐ終わると思いますのでここでお待ちください」
ゼイン神官長は今日も五歳になった子供たちの属性鑑定をしていた。
カインとマリーは出されたケーキと紅茶を堪能しながら、ゼイン神官長を待っていた。
「カイン様、お待たせしました」
(やっぱり、ゼイン神官長って綺麗な人だな)
カインはゼイン神官長の花のような微笑みに見惚れていた。
「カイン様、私の顔に何かついていますか?」
「いえ、申し訳ございません。ゼイン神官長が本当にお綺麗な方ですので。何度も会っているはずなのに、毎回見惚れてしまします」
「カイン様、女性には誰にでもそう言っておられるのでは?」
「そんなことはありません。僕の中では、ゼイン神官長が一番可憐で綺麗な女性だと思っています」
カインの言葉にゼイン神官長は顔が真っ赤になり、頭から湯気が出ていた。
「カイン様・・・」
「マリー、僕、何か変なこと言った?」
「何でもありません」
マリーは少し頬を膨らませつつ、ゼイン神官長に同情し、頭の湯気が消えるよう、手で扇いであげていた。
カインだけがこの状況の意味が分からず、怪訝な顔をしながら、紅茶を飲んでいた。
「ゴホンッ。失礼しました。それで、カイン様は何をしに来られたのですか?」
「あの、ベルネット先生のことなんですけど」
「ハナがどうかしたのですか?」
「いえ、その、先程までベルネット先生とお話していたのですが、一つ気になることがありまして・・・ベルネット先生はイエッツェ王国と何か関係があるのですか?」
カインの言葉に、ゼイン神官長の表情は一瞬で凍り付いた。




