54 王女殿下の視線の先にいるのはお兄様ではないようですが、大丈夫ですか?
「やっぱり、ゴーちゃん二号もだめだったか」
カインはマリアと共にベルネットの研究室に来ていた。
ベルネットは通称ゴーちゃんと呼んでいる機械を改良し、それをゴーちゃん二号と名付け、カインの過去をもう一度覗いて見たが、やはり、カインの母親に関する新たな手掛かりは得られなかった。
「エルシー、私、頑張ったんだよ・・・ショック・・・」
「はいはい、ハナは頑張ったわよ」
ベルネットに会いに来ていたゼイン神官長は、わざとらしく泣いているベルネットの頭を雑に撫でていた。
「ハナ、その機械が悪いわけではなく、カイン様の記憶が操作されているのではないの?」
「うーん・・・そうかもね・・・エルシーがここに来たってことは何か新たに分かったことがあるの?」
「結論から言うと、特に進展はないわ」
ベルネットは多少期待していたため、残念な表情をしていた。
「それで、カイン君の記憶が操作されているってどういうこと?」
ベルネットは膝枕されていたゼイン神官長の膝から起き上がり、真剣な表情をしていた。
「ハナのゴーちゃん二号?を私でも試したでしょう?でも私の時は機械は正常に動いていたし、問題はなかった。カイン様の母親の種族だけど、調べても一切何も情報が出てこないの。それが、逆におかしいのよ。金色の瞳はただでさえ目立つ存在になるはずなのに、どれだけ遡って調べても何一つわからない。そして、ルキナという名前。どこかで聞いたはずなの・・・まだお父様とお母様が生きていた時だと思うのだけれど・・・」
「あの、一ついいですか?」
カインは右手を上げ、ある提案をした。
「ゴーちゃん二号でゼイン神官長の記憶を辿れば、おのずとルキナという名が記憶のどこかで出てくるではないですか?」
「名案ですね」
ゼイン神官長はカインに拍手をしていたが、ベルネットの顔は曇っていた。
「んー、それは難しいかな。ゴーちゃん二号は基本的に一部の記憶しか見れないから、スキップすることもできないし・・・その、エルシーが赤ちゃんの時の記憶から遡って、そこからその名が出て来るまでエルシーの記憶を見るのは、すごく時間がかかるし、エルシーの身体にも負担がかかる。現実的には無理かな」
「そうなの?カイン様の提案は名案だと思ったんだけどな。また、振出しに戻ったのか」
ベルネットとゼイン神官長はカインよりも落ち込んでいた。
「ベルネット先生、ゼイン神官長。そんなに落ち込まないでください。僕はお母様の声が聞けただけでも満足しています。それに今の僕のお母様はミディアン・デイヴィスです。ちゃんとお母様はいます。僕が魔王の子だと知っていても、お父様もお母様も僕を大切に育ててくれました。それだけで十分です」
カインが初めて見せる、はにかんだ笑顔に、ベルネットとゼイン神官長は胸がキュンとしてしまい、思わずカインを抱きしめた。
「お二人ともどうされたのですか?」
「カイン君、絶対に笑ってはだめよ」
「そうです。カイン様が笑うと女子全員がカイン様に恋に落ちてしまいます」
(何を言っているんだろう、この二人は)
カインの微笑みは、まるで天使のようで破壊力が凄まじかった。
「あの・・・お二人とも何をなさっているのですか?」
二人の大人がカインに抱きついている光景を冷めた目で見ていたのは、ダリアだった。
「これは・・・その・・・胸を撃たれまして」
「気になさらないでください」
ゼイン神官長は慌ててベルネットをカインから引きはがし、赤くなった顔に手で風を送りながら、ソファーに座った。
「ダリアはどうしてここに来たのですか?」
二人の女性から抱きしめられても平然としているカインの態度に、イラつきながらダリアはカインの隣に座った。
「カイン様はここで何をしていらしたのですか?」
「何って、僕の本当のお母様が誰なのか知るために、ベルネット先生とゼイン神官長に協力してもらっているんです」
「カイン様のお母様・・・それで、何かわかったのですか?」
「いえ、ゴーちゃん二号を使って僕の記憶を辿っているのですが、お母様の顔は見れなくて」
「ゴーちゃん二号?何それ?」
「これでーす」
ベルネットはそう言いながら、ダリアにゴーちゃん二号を被せ、スイッチを押した。
「ハナ、何しているの!」
ゼイン神官長は止めようとしたが、ベルネットが阻止した。
「シーッ、エルシー、黙って」
ゼイン神官長とカインは呆れながら二人を見守っていた。
ダリアの侍女ルーシーはどうすればいいか分からず、あたふたしていた。
「ちょっと、何これ!」
ダリアは無理やりゴーちゃん二号を外した。ダリアの頬は赤く染まっていた。
「なるほど・・・そういうことですか」
ベルネットはニヤニヤしながら、ダリアを見ていた。
「ルーシー、帰るわよ」
「はっ、はいっ」
「えっ?僕も?」
なぜかカインもダリアに手を引っ張られ、ベルネットの研究室から出て行くこととなった。
「ちょっと、ハナ。王女殿下に何したの?」
「えっ?何もしていないわよ。ただ、なぜ王女殿下がここに来たのかはわかったわ」
「どういうこと?」
「これはエルシーに言っても大丈夫かなー」
「何よ」
ゼイン神官長はもったいぶっているベルネットの頬をつねって、無理やり言わせようとしていた。
「わかった、わかったから」
ベルネットは赤くなった頬をさすりながら、確信を込めて言った。
「ダリア王女殿下はカイン君の兄アベル君の婚約者だけど、ダリア王女殿下が好意を持っているのは、アベル君ではなく、カイン君だね」
「えっ!?どういうこと?」
ベルネットがゴーちゃん二号で見たダリアの記憶の視線の先には常にカインがいたのであった。




