53 小太り王子がお兄様に喧嘩を売っているようですが、大丈夫ですか?
「今日もアベルは凄かったな」
アベル、ライリー、ティリーの三人はアーサーとの訓練が終わり、食堂で三人で昼食を食べていた。
「いえ、ライリーもすごかったですよ。後半、あのお父様が苦戦していましたので」
「そうかー。ティリーも上達してきたな。さすが、元騎士団の血筋だな」
「いえ、まだまだです。剣術に特化している私が、アーサー様の足元に及びません。まだまだ鍛錬が必要です」
「アーサー様はやっぱりすごいな。勇者が父親とか羨ましいよな。おまけに婚約者はあのダリア第一王女殿下。弟はアイビー王女殿下の婚約者。伯爵家の俺には到底手が届かない存在だからな」
「私たちがこうやってアベル君と話していること自体、恐れ多い事なのかもしれないね」
「そんなことを言わないでください。それに凄いのは父と王女殿下であって、私ではないのですから。それに、スチアート学院に通っている以上は身分は関係ありません。友人の一人として普通に接してください」
「わかったよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
スチアート学院では身分は通用しない。勇者の息子だろうが、特別扱いはされない。スチアート学院は初等部、中等部、高等部、それぞれ四クラスに分かれている。下位クラスから順にCクラス、Bクラス、Aクラス。そして、Sクラス。Sクラスは勉学の成績、魔術、武術、剣術の実技の成績、上位属性の者の上位二十名の生徒たちが選ばれる。他のクラスに比べて、学ぶ事柄が難しく、かつ高度であるため選ばれたものしかSクラスに在籍することはできない。中等部、高等部へ上がるたびに、クラス替えはあるが、Sクラスの生徒が変わることは滅多にない。スチアート学院でSクラスに選ばれることは、将来が約束されていると言っても過言ではない。
その中でもアベルは首席で入学している。周りの生徒たちは勇者アーサーの息子だからとか、ダリア王女殿下の婚約者だからとかアベルの実力を軽視するものが多かった。しかし、アベルの実力は本物で、次第に周りも生徒たちも陰口を叩く者は少なくなっていた。少なくともSクラスの生徒はアベルの優秀さを認め、一人の友人として仲良くしてくれていた。その中でも、ライリーとティリーとはバルチャの訓練を共に耐えていることもあり、友情関係が強まりつつあった。
「さぁ、教室に戻るか」
三人は昼食も食べ終わり、食堂から教室に戻っていた。
「わぁ、嫌な奴が来た。アベル、無視しろよ」
「大丈夫です」
三人の進路を塞ぐように、三人の男子生徒が目の前に立っていた。
「おい、ライラン、どけよ」
ライリーがあしらうような身振りで、ライランを追い払おうとしていた。
「おい、貴様は私が誰だか知らないのか?」
「こちらはイエッツェ王国第一王子ライラン殿下ですぞ」
「耳にタコができるくらい聞いたさ」
ライランの両隣には腰巾着のような男子生徒がいた。
一人はイエッツェ王国宰相の長男ベッグ・ロペスで、背が高く、鼠のような容姿をしており、もう一人はイエッツェ王国最大の領土を持つマイヤーズ公爵家次男ネヴィル・マイヤーズで、ベッグより少し背が低く、長髪で狐のような細い目をしているが、スタイルはよく、一番まともな容姿である。二人はライランの見守り役として一緒にスチアート学院に入学してきた。
「ここでは身分も国も関係ない。何度も同じことを言わせるなよ」
ライリーにかかれば、三人など秒で倒せるが、そうすると、後々どうなるのか理解できていた。それゆえ、理不尽に何度も突っかかってくる三人にライリーは一切手を出すことはなかった。
「どうせ、アベルが成績優秀な上、バルチャの代表にも選ばれ、ダリア王女殿下の婚約者だから悔しがっているのだろ」
「貴様!」
痛いところを突かれ頭に血が上ったライアンは、ライリーを殴ろうと拳を振り上げた。
「そこまでです!」
「・・・ダリア王女殿下?なぜここに?」
アベルたちは咄嗟に跪いて挨拶をしようとしたが、ダリアが止めた。
「ここはスチアート学院です。今の私は王女でも何でもありません。それで、そちらの殿方は一体何をしようとしていらしたのかしら?」
久しぶりに見るダリアが、初めて会った時以上に美しく成長していたため、ライランは頬を緩ませ、気持ちの悪い笑顔を見せながら、ダリアから視線を外せなかった。
「あの、聞いていますか?」
少しきつい口調のダリアの問いかけで、ようやく我に返ったライアンはダリアに触れようと手を伸ばした。
「ダリア王女殿下に触れないでいただけますか」
ライランはアベルを睨みつけながら、つかまれた手を振りほどいた。
「アベル、婚約者だからって調子に乗るなよ。覚えておけ、ダリア王女殿下はいずれ私のものになる」
捨て台詞を吐きながら、ライアンたちは立ち去っていった。
「ありがとうございます。アベル様」
「いえ、こちらこそご迷惑をおかけしました。ダリア王女殿下はなぜこちらに?」
「・・・えっと・・・まぁ、いろいろありまして・・・」
「殿下、もうそろそろ」
「わかっているわ」
ルーシーの一声でダリアは軽く頭を下げて、どこかへ去って行った。
「いやー、近くで見るダリア王女殿下はやっぱり美しいな。アベルが羨ましいぜ」
「私もダリア王女殿下は綺麗だと思う」
ライリーはそう言いながらも、怪訝な顔でアベルを見ていた。
「ライリー、私の顔に何かついていますか?」
「いや、何だ。こんなこと言うのは失礼かもしれないが・・・アベル、ダリア王女殿下と上手くいっているのか?」
「・・・どうしてそう思ったのですか?」
「いや、その・・・ダリア王女殿下、アベルを見ているようで、見ていないというか・・・笑っていても心から笑っていないというか・・・」
「ライリー、失礼ですよ」
「すまん、今のは忘れてくれ」
「・・・はい。大丈夫ですよ。今のところは問題はありませんよ」
アベルにもわかっていた。ダリアが最初から自分のことを婚約者として一度も見たことない事を。




