52 いまだに根に持っているようですが、大丈夫ですか?
アイビー王女殿下とカインとの婚姻が正式に発表され、その日の夜、晩餐会が行われた。
晩餐会にはレアも出席することができ、久しぶりに会えたカインにくっついて離れることがなかった。アベルも二人を見守りつつ、貴族の大人たちに大人顔負けの爽やかな挨拶をしていた。家族で来ていた令嬢たちはアベルの微笑みに心を射抜かれていた。
そんな中、カインに対して純粋に祝福の言葉を述べるもいれば、やっかみにも近い言葉を浴びせる者もいた。しかし、それに気づいたアーサーが近づくと勇者アーサーとしての迫力に押されるのか、皆逃げるように立ち去っていった。いつものレアならば、毒舌を吐いて相手を蹴散らすのだが、今日は令嬢として淑やかに振舞わないといけない。そのため、グッと堪えていた。
「レア、偉かったぞ。お前のことだから、噛みつくかと思っていたよ」
「本当は噛みつきたかったですが、カインちゃんのために我慢しました」
レアは鼻息を荒げながら、怒りを露わにしていた。
「カイン、あんなことを言うやつは追い返していいぞ。どうしようもない男爵連中だから」
「そうは言ってもアイビー王女殿下の婚約者になったのですよ。変なことは言えないですよ」
「さすが、カインね。あなた、カインに言われてどうするのよ」
「たしかに、カインの言うとおりだな」
「さすがカインちゃんね」
「お父様、しっかりしてくださいよ」
久しぶりの家族の会話にカインはうれしさが込み上げていた。
(やっぱり・・・家族といると落ち着くな)
カインが家族との時間を噛みしめている時、後ろから頭を軽く叩かれた。
「痛っ・・・アイラ?どうして頭を叩くんだよ」
アイラは拗ねた様子でカインの質問に答えなかった。
「ごめんね、カイン。アイラ、カインに謝りなさい」
「嫌だ!」
アイラは頬を膨らませたまま、どこかへ走っていった。
「こらっ!アイラ!」
「お父様、私が追いかけます」
アイラの兄ライアンはデイヴィス一家に一礼し、妹のアイラを追いかけていった。
「すまない、アーサー、カイン。妻と子供たちに会うのは久しぶりだよな」
バシャンには妻エヴィアン、長男ライアン、長女マイラ、次女レイラ、三女アイラの四人の子供がいた。
「お久しぶりですね。アーサー様、ミディアン様。アベル様、レア様、カイン様もすっかり大きくなりましたね。アベル様、お会いすることはないかもしれませんが、ライアンは高等部、マイラとレイラは中等部にいます。何かわからないことがありましたら、お気軽に訪ねてくださいね」
「ありがとうございます、グリフィス夫人。お久しぶりです、マイラ様。レイラ様。相変わらずお綺麗ですね。左がマイラ様で右がレイラ様ですかね」
「さすが、アベル様。正解です」
マイラとレイラは一卵性双生児の双子でほとんど見分けがつかなかった。親でも見分けがつかない時があるが、なぜかアベルはいつも正確に二人を見分けることができていた。
「カインはアイラとレイラに会うのは初めてだったかな?二人とも挨拶を」
(たしかにそっくりだな・・・アイラに全然似てない)
アイラはおてんば娘だが姉の二人は物静かで独特な雰囲気を持っていた。どうしたら、あんな妹が出来上がるのだろうとカインは二人を見ながら考えていた。
「初めましてカイン様」
「そしてご婚約おめでとうございます」
「私たちはてっきりカイン様はいずれ弟になると思っていましたので残念です」
「アイラはいつも言っていたのです。大人になったらカイン様と結婚すると」
「相手が王女殿下ならば、諦めるしかないですね」
「非常に残念です」
「マイラ、レイラ、この場でそういうことは言うもんじゃないぞ・・・たとえそうであってもな」
アーサーは顔を引きつらせながら、苦笑していた。
グリフィス夫人は呆れた顔をしながら、アーサーとミディアンに謝っていた。
「アイラ!アイラ!」
アイラに追いついたライアンは庭の長椅子にアイラを座らせた。
「だって・・・」
ライアンはアイラを優しく諭していた。
「アイラ、グリフィス家は男爵家だけど、その中でも地位は最下層。男爵家に中には平民上がりのグリフィス家を良く思っていない者もいるんだ。言動には気を付けないと。そうしないと、カイン君とも遊べなくなるよ」
「それは嫌だ」
「アイラの気持ちもわかるけど、カイン君はもうアイビー王女殿下の婚約者になってしまった。その事実は変えられない・・・けど・・・アイラはカイン君と結婚したいのか?」
「はい、したいです」
「アイビー王女殿下がいても?」
「・・・アイビーがいてもカインのそばにいられるなら、それでもいいです」
ライアンはアイラの一寸の曇りもない眼を見て、アイラにあることを教えた。
「アイラ、それならば・・・」
「そんなことできるのですか?」
「法律的には問題ないよ」
「そうですか。お兄様、ありがとうございます。アイラ、頑張ります」
兄ライアンは純粋に妹のことを想ってアドバイスをしたのだが、後々このことが王族との関係で問題になるとは夢にも思っていなかった。




