51 魔王の子が正式に王女殿下の婚約者となったのですが、大丈夫ですか?
カインは朝から正装に着替えさせられていた。
「マリー、今日は何か特別な催し物あるの?なぜ、僕は正装させられているのかな?」
「私も詳しくは聞いていません。カイン様を正装に着替えさせてくださいと言われて、この衣装を渡されましたので」
「何だろう・・・・思い当たる節は何もないんだけどな」
「そうですね。カイン様はいつも通りで良いと思いますよ」
「そうだね。気にしてもしょうがないよね」
鏡の前に立ったカインを見て、マリーは拍手していた。
「カイン様、とても素敵です。今日はお洋服に合わせて前髪をあげてみましたが、綺麗なお顔立ちがはっきり見えてカッコいいですよ」
「ありがとう、マリー」
(でもこれって、王子とかしか着れない衣装のような気がするけど・・・まぁ、この国には王子はいないし、誰も咎めはしないだろう・・・いいか)
カインの正装は他国の王子が国王に謁見するような仰々しいものだった。
「カイン様、国王様がお待ちです」
扉の外から王宮の騎士がカインを招く声が聞こえた。
「マリー、行ってくるね」
「はい、お帰りをお待ちしております」
カインは扉を開け、騎士の案内の下、堂々とした足取りで国王のもとへ向かった。
「デイヴィス侯爵家次男、カイン・デイヴィス様です」
護衛の騎士たちが扉を開けた先には、多くの大人たちが左右に集まり、整列していた。
(えっ?何?僕は本当に何で呼ばれたの?)
カインは不信な目で左右を見ながら、王座と続く赤い絨毯の上を歩いていった。
大人たちの中には父アーサーと母ミディアン、そして、兄アベルの姿もあった。
(何で僕の家族がいるの?)
カインは訳が分からないまま、国王ダタンの前に跪いた。
「デイヴィス公爵家次男、カイン・デイヴィスが国王様に拝謁いたします」
(女王様に王女殿下たちも・・・宰相もいる・・・集まっている人たちは貴族の家督の者たちか・・・ということは・・・なるほど・・・何だ?)
カインは必死に国王に呼ばれた理由を考えていたが、何も思い浮かばなかった。
「カイン、面を上げよ」
カインは立ち上がり、真っすぐ国王の顔を見ていた。
宰相のハワードが手に持っていた巻物を読み上げた。
「デイヴィス公爵家次男、カイン・デイヴィスを正式にスチアート王国第二王女アイビー・スチアートの婚約者とする」
(そうか・・・まだ正式に婚約者ではなかったな。思い出した。あの時、二年後に発表するって言っていたな)
二年前、ゼイン神官長と王宮を訪ねた時に国王に言われた言葉を思い出していた。
カインがアイビーを見ると、アイビーはうれしそうにカインに笑顔を向けていたが、ダリアは相変わらずカインを睨んでいるかのような鋭い目つきをしていた。しかし、よく見ると、眉間にしわをよせ、下唇を噛み、悔しそうな表情を見せていた。
(ダリアは一体何を考えているんだ?)
周囲の者たちは拍手で祝福していたが、一部の者たちは好意的ではないようだった。
「お母様、お久しぶりです」
「カイン、会えてうれしいわ」
ミディアンはカインを抱きしめたまま、しばらく離さなかった。
「お母様、お姉様は?」
「レアは別室にロッテイといるわよ。あのような正式な場では十二歳以上しか入ることができないのよ。それにしてもカイン。その正装、とても似合っているわ。どこかの王子様のようだわ」
「ありがとうございます。お母様もお兄様も素敵ですね」
「ありがとう、カイン」
「というかなぜ教えてくれなかったのですか?僕はあの場所ではじめて婚約発表のするために呼ばれたことを知ったのですから」
カインは不服そうな態度で三人を見ていた。
「王族の婚約発表は家族以外には知らされないんだよ。今日集まった者たちもきっと寝耳に水の話だったと思うぞ。ダリア王女殿下との婚姻は決まっているが、アイビー王女殿下の婚姻は決まっていなかった。貴族の者たちがこぞって息子を王族の婚約者にしようと躍起になっていたからな。今頃、皆落胆しているだろうな。本人に知らされないのも、王族との婚姻を餌に裏で取引が行われないようにするためでもある。まぁ、国王が選ぶ者にそういう者がいるはずはないのだが、念のために」
(そうだよな・・・)
よく考えたら、普段当たり前のように接しているダリアとアイビーはこの国の王女殿下である。誰もが憧れている二人が今やデイヴィス公爵家の息子たちの婚約者だ。カインは特に深く考えてこなかったが、改めて自分の今の立場を考えると、自分の行動が王族に影響することを悟った。
(もしかしてアイラと結婚したほうがいろんな意味で楽だったのかも・・・)
公に発表されたことを今さら取り消すこともできなくなり、運命を受け入れるしかないと冷静に考えるカインであった。




