50 あの王女殿下がわざわざお礼を言いに来たので大雪でも降るのではないかと思うのですが、大丈夫ですか?
グローリー教会では、ゼイン神官長とベルネットがティータイムを楽しんでいた。
「エルシー、面白い子を紹介してくれてありがとう。久しぶりに研究しがいのある研究材料に出会えたよ」
「研究材料って・・・ハナも相変わらずね」
ゼイン神官長は呆れながら、ハーブティーを飲んでいた。
「それで、カイン様について何かわかったの?」
「そうだね・・・今のところ言えることは、カイン君の母親は隠された種族だということ」
「隠された種族?」
「ゴーちゃんでカイン君の赤ちゃんの時の記憶を辿ったんだけど」
「ゴーちゃん・・・あのインチキそうな機械ね」
「失敬な。ゴーちゃんは有能な子だよ。それは置いといて、カイン君の母親の顔はなぜか黒い影のようなものがかかっていてわからなかったんだよ。それに、魔王が名前を呼ぶ時も雑音が入って聞き取れなかった・・・でも、カイン君の母親の出産を手伝った人が・・・なんとカイン君と同じ金色の瞳だったんだよ」
「本当に?」
「間違いないよ。名前はルキナ。年齢は私たちぐらいに見えたよ」
「ルキナ・・・」
ゼイン神官長は何か思い当たる節があるのか、記憶を辿っているようだった。
「エルシー、何か知っているの?」
「・・・聞いたことあるような・・・ないような・・・だめだ、思い出せない」
「そうか・・・」
ベルネットはあからさまに残念な表情をしていた。
「私も調べてみるわ。カイン様のことは気になるし・・・」
「それで、なぜ断ったのさ」
「何のこと?」
「とぼけないで。国王様直々に婚約者を選んでくれたのに、丁重にお断りしたって・・・イングラム侯爵家の次男だろ?噂では誠実で優しく、女性に人気って聞いたよ。エルシーの気持ちもわかるけど、エルシーは鑑定魔法を受け継ぐ子を残さないといけない。早くしないと手遅れになるぞ・・・それとも、気になる人がいるのかな?」
「・・・たしかにセオドア・イングラム様は素敵な方ですが・・・」
「もしかして・・・カイン君のことが気になるとか?」
「えっ?カイン様?そんなわけないでしょう。だって、まだ七歳ですよ。カイン様が成人する頃には私は三十超えるのですよ。そんなまさか」
ゼイン神官長は明らかに動揺していた。ハーブティーを注ぐ手は震え、ベルネットに対しては普段敬語を使わないのに、敬語口調になっていた。
(ははーん・・・図星だな。まぁ、なくない話だな。成人は十八歳だけど、婚姻は十五歳から許されているし・・・カイン君が十五の時は・・・エルシーは・・・二十八。ありだな・・・)
「まぁ、そういうことにしとくわ」
「ハナもどうなの?あなたは一応・・・」
「いいの。捨てたのはあっちなんだから。私はもうこの国の者なの。自由にさせてもらうわ。それに、弟たちは私の存在を知らないはずだから・・・この話は終わり。カイン君の研究を進めないと。ハーブティーありがとう。また来るね」
「えぇ、私も調べてみるわ。またね」
ベルネットはいつものように明るく振舞っていたが、ゼイン神官長にはわかっていた。ベルネットが無理やり自分の過去を捨てようとしていることを。
(ハナ、私は自分の幸せよりもあなたの幸せを願っているわ。学院にはあの方がいるから気を付けてね)
ゼイン神官長はベルネットの幸せを誰よりも願っていた。
「さて、どの本を読もうかな・・・」
カインは王宮書庫室で暇つぶしになるような本を選んでいた。
その時、誰かが扉を開けて入ってくる音が聞こえた。
「ダリア?」
「カインもここにいたのね」
普段カイン以外ほとんど来ることがない王宮書庫室にダリアが現れた。
「ダリアも何か本を読みに来たのですか?」
「えっ?あっ、そうよ・・・」
そう言ったのも関わらず、ダリアはなぜかもじもじしながら、その場から動かなかった。
「ダリア?」
カインは具合でも悪いのかとダリアの顔を覗き込むと顔を真っ赤にしながら、カインを突き放した。
「どうしたのですか?具合でも悪いのですか?」
「その・・・何度も助けてくれて・・・その・・・ありがとう」
「???もしかしてわざわざお礼を言うために僕に会いに来たのですか?」
「違うわよ。たまたまいたから・・・そうそう、ルーシーが王女殿下としてお礼を言わないとって言ったから。そうよね、ルーシー」
「はい、そうですね。わたくしからもお礼を言わせてください。守っていただきありがとうございました」
「いいえ、僕は男ですから。女性を守るのは当然のことですよ。ダリア王女殿下を失いたくありませんから」
カインはあくまでも国民の声として王女殿下を失いたくないと言ったのだが、ダリアはそうは捉えていなかった。
(今、カインが私を失いたくないって言ったわ。つまり、私のことが好きってことよね)
マリーとルーシーはダリアが大きな勘違いをしていることに気づいてはいたが、体中から幸せオーラが溢れ出ているダリアに、事実を告げることができなかった。
「お礼は言ったからね、ルーシー、帰るわよ」
ダリアは真っ赤な顔でニヤニヤしながら、王宮書庫室から出て行った。
「マリー、あれ、何だったんだろう?」
「・・・そうですね。カイン様にお礼を述べたかったのだと思いますよ」
「王女殿下を守るのは国民の義務でしょう。別にお礼なんてよかったのに。あのダリアがお礼を言うなんて。明日、大雪でも降るんじゃない?」
「カイン様、失礼ですよ」
「素直に受け取っておくよ」
コロコロ表情も態度も変わるダリアにこれからも振り回されるのだろうなと思いながらも、カインは面白いおもちゃを見つけたかのような目をしていた。




