45 研究馬鹿・・・研究熱心な先生に連れ去られたのですが、大丈夫ですか?
「結論から言いますと・・・何もわかっておりません」
ゼイン神官長の言い回しから、かなり期待をしていたため、カインはガッカリしていた。
「でも、一つだけわかったこともあるのです」
「それは何ですか?」
カインはテーブルに身を乗り出す勢いで、前のめりになっていた。
「カイン様のお母様は魔族ではないということです」
「どうしてわかるのですか?」
「私も魔族の血が入っていますので、闇属性が使えます。しかし、魔族は特有の瞳の色をしています。赤い瞳です。私の瞳の色は空色です。赤い瞳は劣性遺伝子だそうです。私も詳しくはわかりません。知り合いの研究馬鹿・・・いえ、研究熱心な先生が教えて下さったのですが、魔族と他種族の間に子が生まれた場合、魔族側の瞳の色は遺伝されないそうです。カイン様の瞳の色は金色です。他種族で、金色の瞳は見たことも聞いたこともありませんが、カイン様のお母様が魔族ではないことはたしかです」
カインからすると母親が魔族でも人族でも他種族でもどうでもよかった。ただ知りたかったのは、今も生きているのか、それとも、すでに亡くなっているのか、生きているならば、なぜ母親だと名乗り出ないのかということだった。
「あと、生きておられる可能性があります」
「本当ですか?」
カインはうれしさを隠せなかった。
「カイン様が笑顔を見せるなんて、珍しいですね。ただ、可能性があるということだけで、生きておられるとは断言できません」
「それはどういうことですか?」
ゼイン神官長はあの日のようにカインの頭に触れようとした。しかし、やはり、手は跳ね返されていた。
「二年前にカイン様の母親が誰なのか鑑定しようとした時、今回と同じように跳ね返されました。このことも例の先生に話したのですが、その先生曰く、カイン様の魔力が反射的に跳ね返しているのと、もう一つは、カイン様が意図的に守られるようになっている、つまり、お母様から引き継がれた魔力がカイン様を敵味方関係なく守ろうとして跳ね返されている可能性があるということでした。これが、事実ならば、カイン様のお母様は魔王ベザレル以上の魔力をお持ちの方であるということです」
「あの・・・そんな方は実在するのでしょうか?」
マリーは恐る恐るゼイン神官長に尋ねてみた。
「・・・そうですね。現時点では、魔王ベザレルを超える方はどの種族にもいないでしょう・・・しかし・・・」
ゼイン神官長はある可能性が頭によぎってはいたが、口にすることはできなかった。その名は安易に言える名ではなかったからである。
「しかし、何ですか?」
カインは聞きたそうな顔でうずうずしていたが、ゼイン神官長は笑顔で首を横に振った。
「いえ、ただ、カイン様のお母様は立派な方だと思いますよ。きっと会えますよ」
カインは頭をなでられ、誤魔化されているような感じがしたが、これ以上は聞いても答えてくれないと悟っていた。
「それで、ゼイン神官長。その先生とはどなたですか?ぜひお会いしたいのですが」
「そうですね、あの研究馬鹿・・・あの先生は研究熱心な方ですが、放浪癖がありますので、一応スチアート学院の先生ではありますが」
「もしかして、ベルネット先生ではないですか?」
「そうですよ。カイン様、ご存じなのですか?」
「名前だけなら・・・」
(それにしてもベルネット先生とはどんな人なのだろう。あのゼイン神官長が何度も研究馬鹿って言っていたし、あまりいい顔していなかったから、気難しい人なのかな)
カインはゼイン神官長とベルネット先生の関係を聞きたかったが、何となく、聞きづらい雰囲気だったので、またの機会に聞くことにした。
「では、ゼイン神官長、僕たちはもう帰りますね」
カインとマリーがグローリー教会を出ようとした時だった。
扉を開けたのと同時に、誰かがカインにぶつかってきた。その反動で、カインは後ろにひっくり返ってしまった。
「カイン様、大丈夫ですか?」
マリーの手を借りながら立ち上がったカインの目の前には、眼鏡をかけた若い女の人が立っていた。
「君がカイン君だね。興味深い」
眼鏡の女の人はカインの頭からつま先まで食い入るように見ていた。
「ハナ、カイン君が怖がっているでしょう」
「これはこれはすまない。それにしても、美男子だな。私の犬にしたい」
「ハナ、勇者アーサー様のご子息に何を言っているの?カイン君、マリーさん。驚かせてごめんなさい。この方が、スチアート学院の種族と属性の研究をしている、ハナ・ベルネットよ」
(この人が噂の・・・)
噂通り研究しかしていないような女性だった。髪の毛は天然パーマが爆発したようにぼさぼさしており、牛乳瓶の底のような分厚いレンズの眼鏡をかけていて、白衣は所々汚れている。ただ、漂ってくる香は柑橘系で、最低限のことはしているようだった。
「じゃあ、行こうか、カイン君」
「えっ?」
何の説明もないままカインはベルネットに手を引かれ、連れて行かれた。
(相変わらずね、ハナは)
ゼイン神官長はベルネットの強引さに苦笑しながらも、笑顔で手を振っていた。




