44 執事と内緒で魔法の訓練をしていることがバレそうなのですが、大丈夫ですか?
「カイン坊ちゃま・・・」
セヴァスは呆れた顔で、頭を抱えていた。
「どうしたのセヴァス?」
カインは楽しそうにあちこちに炎や氷、竜巻などさまざまな魔法を同時に使いこなしていた。
「王宮書庫にあった本を読んで勉強したら、こんなにも魔法のレベルがアップしたよ。闇属性は本に書かれてあったものは一通りマスターしたけど、僕が元々持っているはずの魔法がいまいちわからないんだよな」
「カイン坊ちゃま、あなたって子は・・・くれぐれもここ以外で魔法は使ってはだめですよ」
「わかっているよ」
(この子は本当に自分が異次元な存在であることに気づいているのでしょうか・・・カイン坊ちゃまが蛇の道に進めば、悪魔にだってなれるでしょうな。本当に怖ろしい子だ・・・この子の母親は一体誰なのでしょうか・・・)
カインがいとも簡単に放っている魔法は、何年もかけ訓練し、やっと自分のものにできる魔法である。王宮の魔術の最高峰と言われている魔法師団団長といえど、カインに比べたら赤子のような魔法のレベルに過ぎない。
「カイン坊ちゃま、今日はこれくらいにしましょう。それに、どこかにお出かけされるのではなかったでしたか?」
「そうだった。グローリー教会に行くんだ。ゼイン神官長が僕の様子を見たいと。ゼイン神官長もきっと驚くだろうな。僕がここまで魔法を使いこなしているとは思っていないだろうし。それにゼイン神官長は僕の本当の母親について調べてくれているから」
「そうですか。母君について何かわかるといいですね」
(きっと神官長様も驚かれるでしょうね。二年間でここまで成長する子はそうそういないでしょうから・・・それにわたくしもカイン坊ちゃまの母君に関しては興味がありますしね)
魔王ベザレルのことは何でも知っていたセヴァスが、唯一知らない事。カインの母親は誰なのか。一つ言えることは、カインの母親が普通ではないことだ。魔王ベザレルも魔族の中で魔王にの名にふさわしい実力があったが、カインはすでにその魔王を超えている。母親がカインの異常さを解く鍵となっていることは確かだ。
「カイン坊ちゃま、どうされたのですか?」
カインは急に物思いにふけ、あちこち土埃が舞っている空を眺めていた。
「僕の本当のお母様・・・生きているのか死んでいるのかもわからないけど・・・ずっと見守ってくれているような気がするんだよね・・・僕の気のせいだと思うけど・・・そう思いたい。いずれ会えるって・・・信じたい」
「そうですね・・・会えるといいですね。わたくしもぜひ、ベザレル様の奥方様にお会いしてみたいものです。あの方がどんな方をお選びになったのか。きっと素敵な方だったでしょね」
「僕もそうだと思う」
珍しくカインの口角が上がっていた。
七歳にしてこの世を支配できるほどの魔力を持つカインであるが、本質はまだ七歳の子供である。同年代の子が母を恋しく思うのと同じようにまたカインも母のことを恋しく思っているのだと思うと、一層愛おしく思うセヴァスであった。
(僕一人なのになぜ騎士団総出で護衛を?逆に目立たないか?)
王宮からグローリー教会に向かったカインであったが、物々しいぐらいに騎士団の護衛がついていた。その中には騎士団団長アルフレッド・ガルシアの姿もあった。
「カイン様、もうすぐグローリー教会に着きますから」
「はい、ありがとうございます」
カインの護衛が厳重なのは、スチアート学院に件があるからだった。王宮内ではカインの扱いはまさに王族レベルだった。本人は堅苦しく思っていたが、そうでもしないと魔族がどんな魔法を使い、狙ってくるのか、わからない以上目立つとはわかってはいても優秀な人材で護衛をするしか他なかった。
「カイン様、着いたようですよ」
久しぶりのグローリー教会にカインは胸を躍らせていた。ここで、属性鑑定をしたとき、不思議な夢を見た。あの夢で、後ろから抱きしめられた温かい感触は今でも記憶に残っていた。
(また・・・あの夢を見たいな)
聞いたこともないはずの女の人の声のはずなのに、カインにとってあの時の声は、心が安らぐ声だった。あの日以来、夢に一切出てこなかったので、ここなら再び会えるような、ほのかな期待をしていた。
「お久しぶりです。ゼイン神官長」
「カイン様。お久しぶりですね。大きくなられましたね」
二年前も十分大人な雰囲気を醸し出していたが、二十歳になり、より一層大人の女性に変化していた。
幾分か柔らかさが増したような気がした。
「今日は属性鑑定もございませんので、ゆっくりしていってください」
そう言うとゼイン神官長は二階にある自分の部屋に案内してくれた。
ゼイン神官長の部屋はどちらかというと殺風景で置いてある家具などもシンプルだった。しかし、清潔感があり、微かにラベンダーのいい香りが漂っていた。
「今、紅茶を入れますね」
ゼイン神官長は隣にある小さなキッチンでお湯を沸かし、紅茶を入れ、持ってきてくれた。
「マリーさんもお座りになったらどうですか?」
「お気遣いいただきありがとうございます。私は侍女ですから」
「ここでは身分は関係ありませんよ。皆が同じ立場です。よろしいですよね、カイン様」
「はい、マリー?」
マリーは戸惑いながら、カインの隣に座って、一緒に紅茶を飲んだ。
「カイン様、最近は、魔法もかなり習得されているのではないですか?」
「やっぱり・・・わかりますか?」
「バレバレですよ。隠匿の魔法も使っていますね」
「ゼイン神官長の前では全てがお見通しなのですね」
マリーはカインの発言に咳込みながら、驚いていた。
「ゼイン神官長、どういうことですか?」
「マリーさん、カイン様の魔力は身体から溢れ出ています。体内にとどめられないほどの魔力を見たのは初めてです。どんな訓練をしたら七歳でこれほどになるのか・・・」
ゼイン神官長は半ば呆れているような表情だった。
「実は私も不思議に思っていたのです。王宮内では特に変わったことはしておりません。カイン様は本が好きですので、王宮書庫室に行っては、本を借りてきて読み漁っております」
「それだけでは、ここまでにはなりませんよ。きっと何か特別な訓練をしているはずです・・・よね?」
「さぁ、ただ僕は本を読んでいるだけですが」
カインはいつものポーカーフェイスで誤魔化していた。間違ってでも魔族であるセヴァスと空間移動魔法を使って、更地で訓練し放題だったとは言えるはずもなかった。
「それはあとで追求するとして・・・カイン様の母親の件ですが」
ティーカップをテーブルに置くカインの手が震えていた。緊張が走っていた。




