43 教師の中に魔族が紛れているようですが、大丈夫ですか?
「呼び出して申し訳ない、アーサー」
「そりゃ国王の手紙でスチアート学院に呼び出されたら、来ないわけにもいかないだろう」
スチアート学院の理事長室に呼び出されたアーサーは、小言を言いながら椅子に座った。ジェイダンは申し訳なさそうにアーサーに頭を下げていた。
「それで、俺を呼び出して頼みたいこととは何だ。こういうことはスチアート学院の中にいる監視官の役目じゃないのか?」
スチアート学院には生徒及び教師たちの間で不正やスパイ活動をしているものがいないか、監視専門の教師が数人紛れ込んでいる。誰がその役目を担っている教師なのかは、理事長であるジェイダンも知らない。知っているのは、国王と宰相の二人だけである。
「それはそうなのだが、私たちもその監視役が誰なのかはわからない。ダタンも私たちに教えるわけにもいかない。今の段階で怪しい先生は一人だけなのだが、仲間がいる可能性もある。それでだ。確実に信用できて、もし、大事件になりそうになってもそれを止められるのは、勇者アーサーしかいないだろ?」
「それはそうかもしれないが」
「それにアベル君も危険に晒されるかもしれないんだぞ。次に仕掛けてくるとしたら、バルチャの時だ。あの日は我が国の貴族はもちろん、他国の貴族たちも集まってくる。スチアート学院の名に懸けても、何も事件を起こしてはならない。じゃないと・・・ダタンは私の首を飛ばすだろう」
「それは俺には関係ないなー」
「裏切り者め!」
二人は顔を見合わせ大笑いしたかと思ったら、再び真剣な表情になった。
「それで、バルチャの指導のための特別教師としてアーサーを招くことにする。もちろん、生徒たちを指導してもらうが、それと同時に、アーサーには囮になってもらう。アーサーに注目が集まれば、あの先生もアーサーを警戒するはずだ。その間に、コール先生にその先生の監視をさせる」
「なるほどな・・・、で?その肝心な先生は誰なんだ?」
「その先生は・・・」
「わかった。その話引き受けよう・・・というかわざわざダタンが俺に手紙をよこしてきたんだ。断れるわけないだろう」
「だよな。元々そのつもりだ」
(さて・・・特別教師になったからには、思い切り目立ってやらないとな。なんせ、メインは囮要員だからな)
アーサーは皆の歓迎に笑顔で応えていた。
「カイン坊ちゃま、父君がスチアート学院で特別教師をすることになったようですよ」
「へぇー」
カインはセヴァスの話を聞き流しながら、王宮書庫から借りた本を読み漁っていた。
「お父様が先生に?僕も学院に行きたいな・・・でも、なぜお父様が先生に?」
「カイン坊ちゃま、おそらく学院に魔族が紛れ込んでいます」
「へぇー、魔族が学院に・・・魔族が学院に?」
カインは読んでいた本を閉じ、セヴァスの話を真剣に聞きはじめた。
「スチアート学院の先生の中にいるようです」
「セヴァスでもわからないの?」
「誰が潜んでいるかはわかりますが、相手が相手ですので」
「どういうこと?」
セヴァスはいつも通り、空になったカインのティーカップに紅茶を注ぎながら、話しを続けた。
「これは私の推測に過ぎないのですが、ウィロウという魔族の女だと思われます。ウィロウの得意魔法は擬態化。生き物であれば何にでも擬態できます。それもかなり精巧な作りですので、魔族でも見分けることが難しいほどです」
「じゃぁ、本物の先生はどうなっているの?」
「すでに殺されているかと。ウィロウは擬態するものを殺さなければ擬態化できません」
「そうなのか・・・悲惨だな」
人を平気で殺すことができる魔族に、自分も同じ血が流れているのかと考えるとカインはなぜか心が苦しくなった。
セヴァスは優しくカインの頭をなでながら、微笑んだ。
「セヴァスは魔族なのに人を殺したいと思わないの?」
セヴァスは大笑いしながら、首を横に振った。
「私は長年魔王ベザレル様に仕えてきました。あの方は命をとても大切に扱っていました。魔族だけでなく、人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族。私も魔王ベザレル様と同じ考えです。安易に命を奪おうなどと思いません。もちろん、カイン坊ちゃまに危険がせまったら、わかりませんが」
「そうか・・・よかった」
「ベザレル様がお命を落とされたのは、人族、いえ、全種族の命を守るためでもありました。わたくしはカイン坊ちゃまがベザレル様と同じ思いでいてくだされば、ベザレル様もきっと喜ばれていると思いますよ」
「うん・・・、僕は何かできないだろうか?」
スチアート学院に行きかねないカインをセヴァスは優しく諭した。
「カイン坊ちゃま、魔族の狙いはあなたです。スチアート学院に忍び込んだのも、王宮には忍び込むことができず、カイン坊ちゃまのお兄様のアベル様を利用しようとしているのではないかと思われます。今は、相手も何を仕掛けようとしているのかわからない状況です。しばらくは、王宮にいたほうが安全ですし、相手もまだ目立ったことはやって来ないでしょう。わたくしが、随時様子を見てきますので、安心してください。お父様とお兄様には手出しさせないようにはいたしますので」
「ありがとう、セヴァス」
「いいえ、私はカイン坊ちゃまの執事ですから」
到底魔族とは思えないほど優しい微笑みに、カインは呆れながらも、セヴァスがそばにいてくれ感謝の思いでいっぱいだった。




