42 そんなつもりはなかったのにお父様が教師をさせられているようですが、大丈夫ですか?
「以上がお二人が話していた内容になります」
「お兄様がそこまで僕たちのことを想ってくれていたんないんて・・・」
弟妹のために王帝になる覚悟を決めている兄アベルの想いにカインも胸を熱くした。
「しかし・・・ダリアはお兄様に何が不満なのでしょうか?優しくて、頼れて、家族思いで、責任感もあって、なおかつ、かっこよくて・・・僕がダリアの立場だったら喜んで婿になってもらうけどな」
カインはアベルに対するダリアの反応が納得できなかった。
(カイン坊ちゃま・・・色恋沙汰には相変わらず疎いようですね。哀れな・・・)
ダリアとルーシーの会話からダリアのカインへの想いを悟ったセヴァスは、カインの鈍感ぶりに、思わずダリアに同情していた。
「それで、カイン坊ちゃま。アイビー王女殿下にはどのように報告するのですか?」
「うーん・・・難しいな・・・お兄様とダリアの問題でもあるし」
(カイン様の問題でもありますよ)
セヴァスはカインにツッコみそうになったが、言わずにきちんと言葉を飲み込んだのだった。
「アーサー様、国王様よりお手紙が届いております」
(何だろう・・・嫌な予感がするぞ)
アーサーは早速手紙の封を開け、読みはじめた。
「なるほど・・・あれは単なる暴走ではなかったのか・・・」
アーサーはすぐさま返事を書き、アーサーの側近アルバートに渡した。
「アルバート、すぐに王宮にその手紙を送ってくれ。明日、朝、スチアート学院の向かう。準備を頼む」
「かしこまりました」
(厄介だな・・・)
アーサーは頭を抱えながら、もう一度手紙を読み直していた。
「さて、今日の授業はバルチャについてだ。今年は何と、このスチアート学院で開催される」
イーサンは生徒たちにバルチャについて説明していた。
バルチャとは二年一度、スチアート王国、フェーズ王国、グレテス王国、イエッツェ王国の四国の王立学院で選抜された生徒たちが日頃の訓練を国で競う模擬戦である。魔術部門、剣術部門、武術部門の分かれており、団体戦では国の代表が五名選ばれる。
各国には特色があり、スチアート王国は魔術、フェーズ王国は剣術、グレテス王国は武術を得意としている。イエッツェ王国は万年最下位であり、たとえ国の中では優秀な生徒ではあっても、他国と比べると力の差は歴然なため、毎回、特に目立つ生徒もなく、あっけなく負け、生徒たちは泣きながら帰っていく。
個人戦は新人戦と選抜戦の二部門があり、魔術、剣術、武術、各部門各国代表が一人ずつ出る。スチアート学院では、バルチャが始まる三ヶ月前から、代表の選考が行われる。基本的には授業を担当する教師が理事長に推薦し、何人かの候補の中から、理事長が最終的に選ぶ。団体戦は魔術、剣術、武術の指定はなく、国の戦略で優秀な五名が選ばれることになる。
「先生、もうすでにバルチャまであと三ヶ月ですよね。初等部でバルチャに出る人は誰なのか、もう決まっているのですか?」
「そうだ。初等部は新人戦に出ることになる。このクラスはSクラスだからな。このクラスから出ることになる」
生徒たちはひそひそ話はじめ、誰が選ばれたのか予想をしていた。
「武術はライリーじゃないのか?」
「そしたら・・・剣術はもしかしてティリー?」
「魔術は・・・」
「静かに!では、発表するぞ」
騒がしくなっていた教室が静まり返った。
「まずは、武術。スチアート王国はこの部門を最も苦手としているのだが、魔法はそこそこだが、力自慢が一人いるな」
イーサンの紹介の仕方に、皆、クスクス笑いながら名前を呼ばれるであろう男子の顔を見ていた。
「ライリー・ヴィンセントファン」
「はい!」
ライリーは立ち上がり、力こぶを皆に自慢していた。
ライリー・ヴィンセントファンは十三歳で、身長は二メートル弱、体重は百キロを超える大柄な少年である。ヴィンセントファン伯爵家の三男で、属性は地。魔力はそれほどでもないが、身体を岩のように固くすることができ、ミスリル並みの硬さだと言われている。
「次は、剣術。これは名前を言わなくてもわかるよな。ティリー・マクレガー」
「・・・はい・・・」
とても剣を振るようには見えない、か弱そうな女の子の名が呼ばれた。
ティリー・マクレガーは十二歳で、ライリーとは反対に、身長百五十センチメートルにも満たない小柄で内気な少女である。マクレガー侯爵家の次女で、属性は炎。魔法も優秀ではあるが、母が元騎士団に所属していたためか、その血を引き継いで、魔法と剣術を組み合わせた技を得意とする。見た目は細身に見えるが、腕力は大剣を持てるほどである。
「最後は魔術。これは、スチアート学院では絶対に負けられない部門でもある。これを託せるのは一人だけだろう・・・」
生徒の熱い視線はある人物に注がれていた。
「・・・アベル・デイヴィス」
「はい」
アベルは凛々しい面持ちでイーサンを見ていた。
「アベルは勇者アーサー様の息子だ。プレッシャーもあるとは思うが、アベルなら大丈夫だ」
三人は温かく、力強い拍手に包まれていた。
「三人はこれから特別授業を受けることになる。今回は特別な先生が来てくれた。先生!どうぞ!」
教室の扉が開いた瞬間、先程よりも大きな拍手と歓声に包まれていた。
「お父様?」
「えー、今回特別にバルチャに出る生徒を教えることになったアーサー・デイヴィスだ。三人ともよろしくな」
(おかしいな・・・俺は別に教師をするために学院に来たわけじゃないのになぁ)
アーサーがこの学院に来た本当の目的は別にあった。




