41 王女殿下がお兄様の弟愛に引き気味なのですが、大丈夫ですか?
部屋に戻ったダリアは相変わらず心にここにあらずの状態で、ルーシーは心配で仕方がなかった。
「ダリア王女殿下、学院で何かあったのですか?」
「・・・何もないわよ」
「でしたら、そういうお顔をなさらないでください。心配になるではありませんか」
ルーシーはそう言って、手鏡をダリアの前に差し出した。
(私・・・こういう顔で学院を出て来ていたの?こんな顔をカイン様に見せていたなんて)
ダリアは鏡に映った自分の顔を見て、死人のような青白い顔をカインに見せていたのかと考えると恥ずかしくて死にそうだった。
「それで、何があったのですか?ダリア王女殿下のご様子がおかしくなったのは、アベル様とお会いしてからですよね?私は部屋の外にいましたので、詳しくは聞こえませんでした。部屋から出てきた時のダリア王女殿下の表情は何と表現したらよいのでしょうか・・・大変驚かれたお顔をされていましたが・・・」
その時のことを再び思い出したのか、深くため息をつき、暗い表情のまま、ルーシーにアベルとの間に何があったのか、話しはじめた。
「アベル様、わざわざ会いに来てくださり、ありがとうございます」
ダリアはいつも通り微笑みながら、アベルに挨拶をした。
「ルーシー、ダリア王女殿下と二人だけでお話をしたいのですが、よろしいですか?」
ルーシーはダリアに確認し、ダリアが頷いたため、部屋の外に出た。
「それで、わたくしに何のお話があるのでしょうか?」
アベルはダリアの向かい側に座り、じっとダリアを見つめながら、口を開いた。
「ダリア王女殿下は・・・カインのことをどこまでご存じなのでしょうか?」
ダリアは一瞬、動揺しそうになったが、いつも通りの作り笑顔で答えた。
「どこまでと言われましても・・・勇者アーサー様の息子で、アベル様の弟、魔法の属性は母ミディアン様と同じ氷属性。それぐらいでしょうか?」
アーサーがカインについてアベルにどこまで話しているかわからなかったので、当たり障りのない答えを言った。
「私は・・・」
アベルが何を言い出すのか、部屋中に漂う張り詰めた空気に、ダリアは息を飲んだ。
「私は・・・カインは・・・神の子だと思っているのです」
意外な言葉にダリアは拍子抜けしてしまった。
「か・・・神の子?」
「はい。ダリア王女殿下も見てたでしょう、あのゴーレムとの戦い。カインはまだ七歳なんですよ。それなのに、すでにあんな魔法を使えるだなんて。たとえ、お母様の血を継いでいるにしても、カインほどではなかったはずです。私の弟は天才なのですよ」
(そうだった・・・たしかデイヴィス家って、カイン様を異常に溺愛しているのだったわね。そして、アベル様は誰よりも弟と妹を愛しているのだったわ・・・)
普段は穏やかで、優しく微笑んで、女子の心を鷲掴みにしているアベルだが、弟、妹の話になると人が変わったように饒舌に語り出す。その溺愛ぶりは見た者全員引くレベルである。しかし、アベルもよく人を見て、話しているため、この事実を知る者は数少ない。
「それほど優秀で才能あふれるカイン様が・・・この国の王帝となれば、スチアート王国は安泰でしょうね」
ダリアは遠回しにカインを王帝にしたいと思っている自分の願望を伝えてみた。
「それはなりません」
「ど、どうしてですか?」
「カインにそんな重荷を背負わせるわけにはいきません」
「重荷?王帝になることは名誉なことです。それを重荷とおっしゃるのですか?」
アベルは言葉の選択を間違ったことに気づき、丁重に謝った。
「申し訳ございません。言葉を間違えました。わたしが言いたかったのは、カインには好きなように生きてほしいのです。ただでさえ、目立つ容姿をしているカインです。魔法の才能に注目が集まれば、各国も放ってはおかないでしょう。実は言うと、アイビー王女殿下との婚姻が決まったと聞いた時は安心しました。政略結婚させようと貴族たちが自分の娘をカインに近づけたり、カインが他の国に奪われなくてすむと。私は弟と妹には自由に生きてほしいのです」
「アベル様自身は王帝となることを望んでいないのですね?」
アベルは苦笑しながら、否定した。
「いいえ、私は心から王帝になることを望んでいます。それが、デイヴィス家、弟、妹のためになるからです。動機は不純ですが・・・私はダリア王女殿下のことも愛そうと思っています。今は友人関係のような感じですが、まだ、結婚するまで、八年あります。それまで、ゆっくりと愛を育んでいくのはどうでしょうか?」
アベルはダリアに手を差し出したが、ダリアはその手を取ることができなかった。
(アベル様・・・ごめんなさい)
ダリアは立ち上がり、一礼をして、部屋から出て行った。
(ダリア王女殿下は・・・きっとカインのことを・・・)
アベルは幼い頃からダリアがカインのことが気になっていることに気づいていた。しかし、カインを王帝にはさせたくなかった。あくまでもアベルは自分が王帝となることが、デイヴィス家の皆にとっての幸せだと考えてた。これからはダリアとの時間を作り、距離を縮めていけば、心を通わせてくれると信じていた。




