4 勇者の子が魔族に連れ去られて、大丈夫ですか?
五歳の誕生日パーティーも終わり、このまま王宮に泊まるか、帰るかのどちらかと思っていたが、カインは父アーサーから馬車で連れ出された。
「お父様、今からどこに行くのですか?お母様たちは?」
「ミディアンたちは先に家に帰ったよ。今から行くところがある。五歳になると魔法の属性がはっきりわかるようになるのだ。今からそれを調べに行く」
(そうだった。忘れていた。僕は一体どんな属性の魔法が使えるのだろうか?)
楽しみにすべき事柄なのに、なぜかアーサーは緊張していた。
(もしカインにあの属性の適正が出てしまったら・・・)
アースノロード大陸では種族を問わず誰しもが魔法を使うことができる。
下位属性は火、水、風、土、光。この属性の上位属性は炎、氷、嵐、地、聖となる。
大抵の種族は、基本的には属性を一つしか持つことができない。せいぜい使えても二属性で王宮魔導士であっても片手ほどの人しか使うことができない。上位属性の魔法は主に貴族が使うことができ、上位属性同士の二属性持ちは誰一人いない。特に貴重な属性は聖属性で人族では王族しか受け継ぐことができないが、その中でも使うことができるのは国王ダタン・スチアートと第一王女ダリア・スチアートだけである。
勇者アーサーは炎属性、妻ミディアンは氷属性、アベルは氷属性、レアは炎属性である。
アースノロード大陸にはもう一つの属性が存在する。それは、唯一魔族にしか使うことができない、闇属性である。この属性は不可解な点が多く、いまだにどんな魔法が使えるのか解明されていない。
カインはアーサーの心配をよそに楽しみにしていた。
(僕はどんな魔法が使えるのかな)
急に馬車が止まり、御者が慌ててアーサーに助けを求めた。
「アーサー様、魔族が!」
「魔族だと?」
アーサーが外の様子を見ると数体の魔族が馬車に向かって襲いかかろうとしていた。
「カイン、いいな。絶対に動くな」
「はい、お父様」
カインは怯える様子もなく、アーサーを家から送り出すかのように手を振りながら見送った。
カインは馬車の中から父アーサーに戦闘を見ていた。アーサーにとっては数体の魔族など相手にならなかった。
(お父様、すごいな・・・)
ふと背後に気配を感じ、振り向くと、いつの間にか若い男が馬車の中に座っていた。
カインはその男の気配に全く気づかなかった。
「・・・あなたは誰ですか?」
見た目は三十ぐらいの背の高いやせ型の男だった。カインは男の目を見て気づいてしまった。
「もしかして・・・魔族ですか?」
魔族の男は魔族だとわかっても声一つ上げないカインに驚いていた。
「お前がカインか?」
「はい、そうです」
「そっくりだな。その淡々とした物言いは・・・」
(そっくり?誰と?それにしてもこの人何をしに来たのだろう?僕を殺そうとする素振りも見せないし)
カインが不思議な顔で男を見ていると、やっと本題を話しはじめた。
「カイン、あれはお前の育ての親か?」
(育ての親?)
「僕の父です」
カインは男の言い回しに引っかかりながらも正直に答えた。
「親父ねぇ・・・俺はあの雑魚どもと違い、お前の親父を一瞬で殺すことができる。でも、なんだ・・・もしお前が俺に黙ってついてくるなら、お前の親父の命は見逃してやろう」
何となくではあるが、男が嘘をつくとはカインは思えなかった。
(たぶん、この男はお父様より強い・・・)
「わかりました。でも、絶対にお父様は殺さないでくださいね」
「約束しよう。では、行くぞ」
男がカインの手を握り、指を鳴らすと、一瞬で二人とも姿を消した。
ようやく魔族を倒したアーサーは興奮しながら、カインが待っているはずの馬車の扉を開けた。
「カイン、待たせてすまない。カイン、見てたか?父様はな・・・カイン?カイン!」
馬車の中にいたはずのカインが消えていた。
近くの木の陰に隠れ怯えていた御者の胸ぐらを掴み、アーサーは御者を激しく問いただした。
「カインはどこだ!」
「申し訳ございません、アーサー様・・・私は怖くて、隠れていましたので、カイン様は見ていません」
「くそっ!」
アーサーは慌てて、カインの名を呼びながら、馬車の周りを捜した。
「カインー!、カインー!」
アーサーがいくら呼んでもカインからの返事はなかった。
(しまった・・・まさか・・・)
アーサーの顔は青ざめていた。




