3 第一王女に睨まれているけど、大丈夫ですか?
(人のことを言えたものではないが、第一王女ダリア様も何を考えているのかわからないな)
自己紹介をすることもなく、ただ黙ってカインを見つめていた。カインは仕方なく自己紹介をした。
「私はアーサー・デイヴィス公爵の次男、カイン・デイヴィスと申します」
ダリアは相変わらず何を考えているのかわからない顔で、カインを見つめていた。
空気を察した、アイビーが自己紹介をした。
「私は第二王女のアイビー・スチアートと申します。年はカイン様の一つ上になります・・・お姉様」
アイビーに促されて、ようやくダリアも自己紹介をした。
「第一王女のダリア・スチアートよ。年は八歳・・・」
気まずい雰囲気が流れる中、アイビーが話題を提供した。
「カイン様、お姉様は将来、カイン様の義姉になるのですよ」
「義姉?お父様、どういうことですか?」
「そういえばカインはまだ知らなかったな。アベルと第一王女ダリア様は許嫁なのだよ」
(へぇ、この年でもう許嫁がいるとは・・・お兄様もこの王女様相手だと苦労しそうだな・・・いや、待てよ)
「お父様、お兄様が第一王女様と婚姻するということは、デイヴィス領は誰が継ぐのですか?」
「何を言っている?カイン、お前がいるだろう」
「なるほど・・・そう・・・ですよね」
カインは予想もしていなかった。次男である自分は兄アベルが領を継いだ後は、家を出て、冒険者にでもなり、悠々自適な生活を送ろうと考えていた。将来に向けて考えていた人生設計が五歳で崩れるとは思いもしなかった。
(まぁ、王女様と婚姻するよりましか・・・)
「余たちばかり話しては悪いな。そろそろ、用意された食事でも食べるか」
国王たちがカインたち家族から離れようとした時、アイビーがカインの手を握ってきた。
「これからよろしくね、カイン様。私の方がお姉さんだから、わからないことがあったら、何でも聞いてね」
「あ・・・はい」
可愛い笑顔を向けるアイビーを見ていると、またもや鋭い視線が突き刺さってきた。
一人はシスコンの姉レアだったが、もう一人の視線にカインは驚いた。
(なぜダリア様が私を威嚇するように睨むのだ?もしかしてアイビー様を狙っているとでも思っているのか?)
笑顔で手を振るアイビーに無表情で手を振り返しながら、ダリアからの視線は見ないようにしていた。
「私のカインちゃんがアイビー様に誘惑されてる」
「レア、そんなことを口にするんじゃない」
アーサーは呆れていたが、ミディアンはレアの発言にくすくすと笑っていた。
「だってー」
「お兄様はダリア様との婚姻を望んでいるのですか?」
アベルは少し間を置き、いつものように優しい笑顔をカインに向けた。
「そうだね・・・王女様と婚姻できるなんて光栄なことだよ」
(そうか・・・お兄様はダリア様との婚姻を望んでいないのか。可哀想に)
カインはアベルの表情と口調で真意を読み取っていた。同情はしながらも、自分に火の粉が飛んでくるのが嫌なので、それ以上そのことについて触れなかった。
「お父様、少し外の風を浴びてきます」
ダリアはそう言って、バルコニーで星を眺めていた。
傍から見るとそう見えているが、実は違った。
(何!?カイン様は何者なの?五歳であんなにカッコイイだなんて。落ち着いて、ダリア。相手はまだ五歳よ。何で五歳の男の子にときめいているの?アイビーが羨ましいわ。カイン様の手を握って・・・もしかしてアイビー、カイン様のことを好きになったの?だめ、カイン様は私のよ。って何言っているの私は)
「お母様、お姉様はカイン様のことが好きになってしまったようですね」
「あの子ったら、何で素直じゃないのかしら。でも意外だったわ。あのダリアがカインに好意を示すだなんて」
王妃とアイビー以外は知らなかった。第一王女ダリア・スチアートがとんでもないツンデレであることを。
「お母様、お姉様とアベル様の婚姻は変えられないのですか?」
「そうね・・・国王とアーサー様が話し合って決めたことだから。それに、カインはまだ五歳で、ダリアの三つ下よ。年齢的にもアベルがよいでしょうね」
「んー・・・」
アイビーは何かいい策がないのか考えていた。
「そうだ、お母様。カイン様を私の許嫁にしてはどうですか?そうすれば、カイン様に他の女は近づかないですし、もし、お姉様がカイン様と結婚したいと言い出したら、譲ることもできますし・・・私がそのままカイン様と結婚しても、私は構いません」
六歳とは思えない提案をしてくるアイビーに、王妃は驚いていた。
「アイビー、もしダリアにそのことで恨まれたらどうするの?それにあなたはまだ六歳なのよ。カインと許嫁になったら、今後好きな相手が現れても、結ばれないのよ」
「お母様、大丈夫です。お姉様が私に危害を加えるわけありませんし、お姉様のツンデレの”デレ”を見ることができるかもしれませんよ。それに私もカイン様に好意を抱いていますし、カイン様の許嫁になりたいです」
「そうなのね・・・」
王妃から見るとダリアはわかりやすく、感情をくみ取りやすい子であった。しかし、アイビーはというと、いつも笑顔で皆に優しく、我儘を言うこともなく、典型的ないい子である。王妃にとってはアイビーがいい子過ぎることが逆に不安な要素でもあった。
「・・・わかったわ。カインとアイビーの婚姻の件、あとで国王に提案してみましょう」
王妃の心配をよそに、アイビーは姉のダリアの幸せを願いながらも、面白い展開になりそうでわくわくしていた。
「あれが兄貴の・・・。いいか、絶対に傷つけるのではないぞ」
「はい!」
王宮の外にはカインのことを観察している怪しい無数の影が潜んでいた。




