2 王宮で誕生日パーティーして、大丈夫ですか?
勇者であり、公爵家の長男であるアーサー・デイヴィスは王族の次の地位を得ていた。しかし、アーサーはその地位に甘んじることなく、国王と国を支えるため戦ってきた。そのため、勇者アーサーに直接文句を言う者はいなかった。アーサーはわかっていた。皆が皆、自分を良く思っているわけではないことを。アーサーのことを妬み、くだらない噂を流す者もいた。
「勇者アーサーの一番下の息子は、デイヴィス夫人の不義の子らしいぞ」
誰が言い出したかは知ることはできない。そもそもアーサーの息子カインはまだ屋敷の外へ一歩も出たことがない。その噂が悪意である以外何ものでもなかった。
アーサーもミディアンも国の一部でカインについての噂が流れていることを知っていた。
「あなた・・・誕生日パーティーは大丈夫かしら」
「大丈夫だ。誰が何を言おうとカインは私たちの子だ」
アーサーはミディアンが不安を抱いている理由がわかっていた。
(誰が何を言おうとカインは私が育てた、私の子だ)
「カイン様、カッコいいですよ」
マリーはそう言いながら、優しい眼差しを向けていた。
(本当に皆に僕のことを紹介していいのだろうか?)
カインは鏡で自分の姿を見ながら、考えていた。
「カイン様、どうかされましたか?」
「なぁ、マリー・・・僕は本当にお父様とお母様の子なのかな?」
「な、何をおっしゃいますか、カイン様。カイン様は旦那様と奥様の子ですよ」
「だって・・・」
「旦那様たちがお待ちですよ。早く行きましょう」
いつも丁寧にカインをエスコートし、カインの歩幅に合わせてゆっくり歩くマリーが、今日はなぜか急いでいるように見えた。
(やはり違うのかな・・・)
カインはため息をつきながら、いつもの無表情のまま、マリーに手を引かれつつ、階段を下りて行った。
「カイン、似合っているわよ」
母ミディアンはカインを見るなり、抱きしめた。
「ありがとうございます。お母様」
言葉では感謝を述べているが、相変わらず表情一つ変わらなかった。
「カッコいい!私のカインちゃんはやっぱり最高だわ」
「ありがとうございます。レアお姉様」
カインの姉レアはデヴァイス家で一番カインを溺愛していた。
嫌がるカインのことを気にせず、一緒にお風呂に入ったり、一緒に寝たり、抱きついてきたりと。最初の頃はカインも抵抗していたのだが、抵抗する気も失せ、姉レアの好きなようにさせていた。
(この姉は公爵令嬢としての自覚があるのだろうか・・・)
父アーサーも姉弟が仲が良いことはいい事だと言って、レアの行動を止めることもない。
「レア、わかっているだろうが、今回はカインが主役だ。いつもみたいに暴走するではないぞ」
「わかっていますよ、お父様。私はデイヴィス公爵家令嬢、レア・デイヴィスですから」
「アベル、レアを見張っていてくれよ」
「はい、お父様」
アベルは十歳で長男らしく、いつも温かい目でレア、カインを見守っていた。兄として二人の事を大切に思っており、常に自分のことより妹、弟のことを優先している。
「では、行くぞ」
デイヴィス公爵一家は王宮に向けて出発した。
人族の国は四つの国で成り立っている。
デイヴィス公爵領は北側を占めるスチアート王国の東側に位置する。アーサー・デイヴィスは国王ダタン・スチアートに信頼されており、王立スチアート学院に通っていた頃の友人でもある。カインの五歳の誕生日パーティーを王宮でするようすすめたのはダタンであった。
馬車に揺られながら、カインは柄にもなく緊張していた。
「カイン、緊張しているの?こちらにおいで」
ミディアンが両手を広げカインを待っていたが、カインは大丈夫ですと断った。
ミディアンは頬を膨らませながら、無理やりカインを抱き寄せた。
「カイン、心配しなくても大丈夫よ。父様と私が何があってもカインを守るから」
ミディアンの豊満な胸に顔をうずめながら、カインは小声でお礼を言った。
「本日、五歳になりました。カイン・デイヴィス様でございます」
カインはアーサーとミディアンに手を引かれながら、階段を下り、階段の先で拍手していたのは初めて見る人ばかりであった。
(なぜ皆私を見て驚いているのだろう・・・やはりお父様とお母様に似てないからかな?)
カインは注目を浴びながら、一言も発さない周りの者たちの態度に、ドキドキしていた。
「なんて美しい子なの」
「さすが勇者アーサー様の子だ。五歳にしてもう気品にあふれている」
あちこちで聞こえる称賛の言葉にカインはどう対応すればよいかわからなかった。
しかし、心のどこかでほっとしていた。物心ついた時から、自分が両親と似ていないことに気づいていたからだ。
父アーサーは赤髪に緑の瞳、母ミディアンは金髪に青の瞳、兄アベルは髪色はミディアン、瞳の色と顔立ちはアーサー、反対に姉レアは髪色はアーサー、瞳の色と顔立ちはミディアンの生き写しだった。しかし、カインだけが違った。髪は老人のように白髪で、瞳の色は金色だった。どう考えても、二人の子ではないことは明らかだった。
「アーサー様、国王様がお見えです」
国王は王妃、そして王妃の隣にはレアと同じ歳くらいの女の子とカインと同じ歳くらいの女の子を引き連れて、カインの前に来た。
「大きくなったな、カイン。余はこの国の国王ダタン・スチアートだ。実はお前が赤子の時に一度会ったことがあるのだ」
国王は本当に国王なのかと思うほど優しい目でカインを見ていた。
「この度はわざわざ私のような者のために足を運んでいただき誠にありがとうございます」
カインは片膝を跪き、右手を胸に当て、敬意を表した。
「アーサー、本当にカインは五歳なのか?それにしてもアーサー、よくここまで立派に育てたな」
「いえ、まだまだこれからです」
国王はアーサーの肩に手を置き、労うように優しく叩いていた。
「カイン紹介しよう。余の王妃リビア・スチアート。そして、第一王女ダリア・スチアートと第二王女アイビー・スチアートだ」
「お目にかかれて光栄です。王妃様、ダリア様、アイビー様」
(・・・ダリア様、なぜ僕の事ずっと見ているんだろう)
カインが顔を上げると、ダリアからの鋭い視線が突き刺さっていた。




