39 学院内に不穏な空気が流れているようですが、大丈夫ですか?
馬車の中でアーサーとカインは学院の話で盛り上がっていた。
珍しくカインも興奮しており、笑顔はなかったが、饒舌に話していた。
そんな二人をマリーはうれしそうに見つめていたが、ダリアは明らかに不機嫌そうだった。
ルーシーは御者の隣に座り、周囲を警戒し、万が一の敵襲に備えていた。そのため、ダリアをフォローする大人がいなかった。
「ダリアはお兄様にお会いしなくてよかったのですか?婚約者のお兄様がどんな学院生活を送っているのか、気にならないのですか?」
ダリアは冷めた目をしたまま、カインのことを見ていた。
「・・・会ったわよ。あなたたちが私のところに来る前に」
「そうだったのですか?」
「たぶん、ジェイダンが気を利かせて、アベルにダリア王女殿下がどこにいるのか教えてくれたのだろう」
「お兄様と話せたのならよかったです」
「・・・心配してくれているの?」
「そうですね。将来、お兄様と結婚するのですから、僕の義姉になるんですよね?家族になるのですから、心配するのは当たり前かと」
カインの言葉はダリアを喜ばせるどころか、逆に傷つけた。カインにとってダリアは兄の婚約者でそれ以上でもそれ以下でもなかった。カインへの恋を自覚しているダリアにとっては、カインの言葉は鋭い刃のようだった。
「そう・・・」
ダリアはまた静かに馬車の外の眺めを見ていた。王宮に戻るまでの間、ずっと心ここにあらずの状態だった。
「ハイブリッジ理事長、まだ原因がつかめていません」
ジェイダンはコールが魔法で作り出したゴーレムが暴走した原因を調査していたが、何の手がかりもつかめなかった。
「あの後、もう一度試してみたのですが、ゴーレムには異常は見られませんし、私の誘導からそれることもありませんでした」
ジェイダンは顎に手を当て、理事長室をうろうろしながら、原因となり得ることを考えていた。
「ダン副理事長、今年、新しく入ってきた先生たちがいましたよね?」
「はい、三人います。カイ・フォスター先生、オークリー・マレー先生、グレイス・リー先生です」
ジェイダンは理事長の椅子に座り、引き出しに中を探り始めた。
「あった、あった」
ジェイダンは三人の経歴書を確認したが、不審な点は何もなかった。
「ハイブリッジ理事長、その三人の先生のことを疑っているのですか?」
「うーん・・・コール先生のあのゴーレムを操り、生徒を襲わせることができる人は、そうそういないはずだ。あの場では・・・そうだな、カイン君ぐらいかな?」
ジェイダンは冗談を言って笑ったかと思ったら、急に真面目な顔をして言った。
「あのゴーレムの目的はおそらく・・・カイン君の実力を試すために操られていたのだろう。相手は相当の強者だろう。あの勇者アーサーでさえ手こずっていた。あれは、カイン君にしか倒せなかった。実はあの時、新任の三人の先生にはあの訓練の授業を見てもらっていたんだ。他の先生は研究室か授業で教鞭に立っていた。可能性があるのは三人の先生になる。私は授業が始まると席を外したので、先生たちがあの授業をどう見ていたのかはわからない・・・そうだな・・・とりあえず、三人に感想でも聞いてみるか」
ダンとコールに不安を与えないようにするため、明るく振舞ってはいたが、内心は気が気でなかった。
カインは魔族に狙われ、魔王にされようとしている。ということは、すでにこの学院内に魔族が紛れ込んでいる可能性が高い。
(早く解決しないと・・・)
焦る気持ちを抑えながら、放課後、三人の先生を呼び、話しを聞くことにした。
「ハイブリッジ理事長・・・特に不審な点はなかったですね。三人とも若くて、やる気にあふれていて」
「そうだよな・・・」
ジェイダンは三人を呼び出し、一人ずつ、ゴーレムとの訓練の授業の感想を聞いたが、三人とも興奮しながら話、この学院で先生をできることを誇らしく思っていた。特に不審な点はないように思えた。
「コール先生、お願いがあるのですが」
ジェイダンがコールに話した内容は意外なものだった。
「えっ?あの先生をですか?なぜです?」
「先生たちは気づかなかったのですか?私はカイン君の名前を一度も出してなかったのですよ?」
「・・・あー!」
ダンとコールは同時に大声を上げ、お互いの驚いた顔を見ていた。
「あの先生はカイン君のことを知っています。まだ、断言はできないですが、ただ、カイン君と何らかの関係があることは確実でしょう」
「わかりました」
「コール先生、危険な時は身を引いてください。先生の身の安全の方が大事ですから」
「お気遣いありがとうございます。ハイブリッジ理事長。わかりました」
(問題が大きくなる前に、早く解決しないとな)
ジェイダンは、この学院でどんなことが起きようとも、生徒たちだけは何があっても守り抜くと心に誓っていた。




