38 お兄様のクラスの授業参観をしているのですが、大丈夫ですか?
「おーい、みんな静かにしろー」
勇者アーサーを見て興奮している生徒たちを、アベルのクラス担任のイーサン・スミスが注意していた。
「皆はもう知っているとは思うが、こちらはアベルの父で勇者のアーサー・デイヴィス様だ」
「アーサー・デイヴィスだ。アベルがいつも世話になっているな」
生徒たちはアーサーの登場に盛り上がっていたが、隣にいる小さな子供にも興味を持っていた。
「スミス先生、勇者様の隣にいる子供はどちらのご子息ですか?」
おそらくクラスでリーダー的な存在の令嬢がイーサンに尋ねてきた。その質問にアーサーが答えた。
「この子は私の二番目の息子で、アベルの弟、カイン・デイヴィスだ。カイン、挨拶しろ」
「初めまして。カイン・デイヴィスと申します」
七歳とは思えないほどの落ち着きと佇まいにクラスの女子たちは早くも目を輝かせていた。
「可愛いー」
「カッコイイわね」
「さすがデイヴィス家ね。アベル君もカッコイイけど、私は弟君が好みだわ」
今度は女子たちが騒ぎ出したので、もう一度イーサンは注意した。
「女子、静かにー。気持ちはわかるが、カイン君もびっくりするだろう。勇者アーサー様はここの卒業生でもある。今日は君たちの授業を見てもらう。いいか。勇者様にいいところ見せたいからって猫を被るんじゃないぞ。イザベラ」
「失礼ですね、先生ー。公爵令嬢の私がそんなことをするはずがありませんよー」
イザベラは子供のように可愛らしい声をしており、カインの耳にも媚びているような甘い声にしか聞こえなかった。
イーサンとイザベラのやり取りに教室は笑いに包まれていた。
アベルはうれしいような、少し恥ずかしいような表情でアーサーとカインを見ていた。
「アーサー様、教室の後ろに椅子を用意していますので、そちらにお座りください」
アーサーとカインは教室の後ろに移動していたが、カインはアベルの目の前に来ると立ち止まった。
「お兄様、お久しぶりです。会いたかったです」
周りから見ると、言葉とは裏腹に全くうれしそうには見えなかったが、アベルは微笑みながら、カインの頭をなでていた。
「久しぶりだな、カイン。兄様もカインに会いたかったよ」
微笑ましい光景にアベルのクラスは癒されていた。
「カイン、授業が始まるから、こっちに来なさい」
「はい、お父様」
カインが小走りでアーサーのところに向かい、授業が始まった。イーサンが話しはじめようとした時だった。
「先生、質問です」
先程も積極的に発言をしていたフレシティ・プライスが手を挙げていた。
「フレシティ、どうした?」
フレシティは立ち上がり、例の出来事に関する疑問を投げかけた。
「スミス先生、あのゴーレムの氷魔法は・・・もしかして、カイン君ですか?」
皆の視線はカインに集まった。アベルはカインを見つつ、不安な表情をしていた。
答えに困っていたイーサンを見て、その疑問にアーサーが答えた。
「その通りだ。カインは氷属性だ」
「でも、アーサー様。カイン君があれほどの魔力を持つにはまだ早いと思うのですが。私たちでさえ、苦戦していたあのゴーレムを、一瞬で凍らせるだなんて」
「この子は妻ミディアンに血を濃く引き継いでいる。妻も幼い頃からカインと同じだった。だから、珍しいことではあるが、才能が早く開花する子はいないわけではない」
(まぁ、実際には、ミディアンは中等部でカインの半分ほどの魔力だったがな)
カインとアベルも初めて聞く話だったので、二人も母親の卓越した才能に関心していた。
「さすが、勇者様の子供だ。さて、フレシティ、問題が解決したから、授業をはじめてもいいかい?」
「はい!」
(父様はあぁ答えたけど、お兄様も氷属性。お兄様、何か言われたりしないかな)
現時点で同じ氷属性でもカインの魔力はアベルの魔力より、比べなくてもわかるほど桁違いに魔力量が多い。それによって、アベルがクラスの者から馬鹿にされるのではないかとカインは考えていた。
「カイン君、いくつ?」
「家でのアベル君はどんな感じなの?」
「綺麗な瞳だね」
授業が終わり、カインはアベルのクラスメイトから質問攻めにされ、少々困惑していた。
しかし、弟の方が勝っている兄アベルを誰一人馬鹿にすることなく、いつも通りに接していため、カインは安心した。アベルも特に気にすることなく、普段通りクラスメイトと楽しく話していた。
「みんな、カインが困っているよ」
アベルはカインの側に自然に近づき、優しく頭をなでていた。
「私の弟は優秀なんだ。カインは感情を表に出すことが苦手だから、不愛想に見えるかもしれないが、優しい子だ。みんな、これからもカインと仲良くしてやってほしい」
何人かの女子は弟を溺愛する兄のアベルの姿にときめいていた。アベルもそれなりに顔立ちが整っているが、それよりも綺麗な顔をしているカインに、また別の女子がカインに心を奪われていた。立っているだけでも絵になる兄弟に女子は勝手に盛り上がっていた。
数人かの男子はその光景を冷めた目で見ていたが、あの二人に勝てるわけもなく、なんだかんだで、女子が騒いでいることに納得していた。
(お兄様のクラスの人たち・・・いい人たちだな)
学院というもの自体にはそれほど興味がなかったカインだったが、実際に来て、アベルのクラスの雰囲気を目で見て、早く通ってみたいなという想いが芽生えていた。




