35 ゴーレムを倒してしまったのですが、大丈夫ですか?
ダリアの侍女ルーシーは笑うのを我慢しながら、ダリアが落ち着くまで待っていた。
ルーシーがダリアの侍女になったばかりの時は、ダリアのことをあまり好ましく思っておらず、仕事と割り切ってダリアの世話をしていた。しかし、カインと出会ってからは、少しずつダリアの残念な部分が垣間見えてきた。最近は、カインに冷たい態度を取っては、裏で後悔している姿が愛おしく思えていた。
「ダリア王女殿下、なぜ素直に話すことができないのですか?ただでさえ、アイビー王女殿下の婚約者となっていますのに、そんな態度ですと、カイン様に本気で嫌われますよ」
「わかっているわよ・・・でも、どうしてもカイン様の前だと照れて、その・・・ひどい態度を取ってしまうの」
ダリアは正直になれない自分のことが許せなかった。
「なぜカイン様は七歳なの?私が遅く生まれるか、カイン様が早く生まれさえすれば・・・いや、そもそもあのイエッツェ王国の鼻水皇子が婚約したいとか言わなければ・・・はぁ・・・過去のことはどうにもならないわね。ルーシー、戻るわよ」
不器用な王女を見て、カインにダリアの気持ちを伝えることを考えたルーシーだったが、ダリアがそうすることを望まないと理解していたので、ただ優しく見守っていた。
「どうしたの?」
ダリアが戻って来ると訓練場は騒がしくなっていた。
「ダリア、あのゴーレムの様子が変なのです」
「ゴーレムがどうかした・・・あのゴーレムって・・・あんなに大きかったかしら?」
はじめ見た時よりゴーレムの大きさがさらに巨大化しているように見えた。
「実は一度お兄様の攻撃で倒れたのです。それで、訓練も終わりかと思っていたのですが、再び動き出して・・・あの先生も止めようとしているのですが、制御できないみたいで」
「どうなっているの?制御できない」
スチアート学院魔法指導専門カーラ・コールは自分が生み出したゴーレムを必死に止めようとしていた。
「だめだ。私たちの力では敵わない」
アベルと氷属性、地属性、炎属性の者たちが協力し、皆で一斉に攻撃しても歯が立たなかった。
他の生徒は走って、先生たちを呼びに行った。
「これはまずいぞ。カイン、ダリア王女殿下を守れ」
アーサーはアベルたちを救うべく、五メートルはある高さから、飛び降りた。
アーサーが向かっている間にも、ゴーレムは巨大化していた。
「みんな、下れ!」
「お父様!」
アーサーは炎の剣をゴーレムに振り下ろしながら、地面に下りてきた。
「勇者アーサー様だ!」
初めて見る勇者アーサーの姿に生徒たちは興奮していた。
「アベル、みんなを連れてここを離れろ!」
「はい」
アベルは皆が逃げる時間稼ぎのために、頑丈ではないが氷の壁を作り、安全な場所へと非難させた。
「コール先生、何しているんですか?」
「アーサー、久しぶりね。こんな形で再会するとは思っていなかったけど」
「そんなことより、はやくこいつを土に返してくださいよ」
「やっているわよ。でも、おかしいのよ。何度魔法で止めようとしても止められないのよ」
(おかしい・・・コール先生はこの国の中でも五本の指に入る地属性魔法の使い手だ。そんな先生が自分で生み出したゴーレムを止められないなんて)
アーサーは必死に剣を振り回し戦っていたが、想像以上にゴーレムが硬かった。
「何だこのゴーレムは?俺の剣がボロボロになってしまう」
「お父様が意外と苦戦していますね」
「何冷静に見ているのよ。あなたの父親でしょ?」
「はい、そうですよ。でも、お父様が負けるはずないので」
カインは父アーサーの強さを知っていた。カインにとってはその強さは憧れでもあった。
ダリアは目を輝かせながら食い入るようにアーサーの戦いを見ているカインの姿に、心臓が高鳴っていた。
(こんな表情をするなんて・・・ずるいわ)
顔を赤くしたダリアから見つめられていることに、カインが気づくはずもなく、アーサーとゴーレムの戦いを分析していた。
(あのゴーレムって・・・)
ゴーレムはカインの視線に気づいたのか、カインとダリアに向かって攻撃を仕掛けてきた。
「カイーン!逃げろー!」
カインは咄嗟にダリアと侍女ルーシーに防御結界を張った。
「何これ・・・?」
初めて見る防御結界にダリアとルーシーはただただ驚いていた。
カインは何も言わずにただゴーレムに向かって手をかざした。
ゴーレムはカインを見て怯えていた。後ろから見ていたダリアとルーシーには何が起きているのか理解できなかったが、アーサーとコール先生からははっきり見えていた。
「カイン・・・」
カインの瞳は赤く光っていた。
脚から頭にかけ、一瞬でゴーレムは氷に覆われていた。
「お父様ー!」
何かを悟ったアーサーは剣に魔力を込め、炎に包まれた剣でゴーレムを頭から斬った。
すると、ゴーレムは粉々に砕け散った。
「アーサー、あの子は何者なの?」
「はっはっはっ・・・あの子は・・・私の・・・息子ですよ」
カインは知らなかった。逃げたはずのアベルのクラスメイトと呼ばれてきた教師が一部始終全て見ていたことを。




