32 魔法を学び習得しようとしていますが、大丈夫ですか?
(僕はこんな男の血を継いでいるのか?しかし、このゾーイっていう子はもしかしたら・・・)
カインは時間も忘れ、『神と魔族』の本をずっと読んでいた。窓からは鮮やかな茜色の空が見えていた。
アイビーは隣で自分な好きな本を読みながら、カインが本を読み終わるのを待っていた。
「カイン様」
マリーの声でカインはようやく我に返り、外が暗くなりつつあることに気づいた。
「申し訳ございません、アイビー。つい夢中になってしまいました」
「いいのですよ。その本は、ロクランという魔族になった方が亡くなる最期の時、娘のゾーイに託した本です。魔族にもこんな優しい心を持った方がいたのですね」
「なぜこの本がこの国にあるのですか?」
「詳しいことは知りませんが、魔族になったハーヴェイの息子や娘たちが、アースノロード大陸を支配しようとした時があったようです。神はハーヴェイを殺さずに魔族にしました。それは、悔い改める時間を与えるためでした。しかし、神の慈悲もハーヴェイたちには届きませんでした。結果、魔族に対抗するためにスチアート王国に勇者が誕生したのです。初代の勇者様がゾーイという魔族の娘から渡されたそうです。将来、魔族であっても平和を望む子が誕生することを願って」
(ゾーイはロクランとシエナとの子供だったのかもしれない・・・だから、魔族であっても心を正しく保つことができた・・・ゾーイの子孫が・・・お父様の母、つまり僕のおばあ様だったのかもしれない)
カインは確信はなかったが、直感でそう思った。この本の話に出てきたゾーイという娘がベザレルの母の人柄とほぼ同じだった。
カインはこの本を読めば母親に関する何かがわかるかもしれないと思ったが、何の手がかりも得られなかった。
「アイビー、この本借りてもよろしいですか?あと・・・この本も」
カインが目についたもう一つの本は『闇属性について』という本だった。
「いいですよ。闇属性についてはまだ何も解明されていませんが、その本はこれまでの勇者様が体験してきた闇属性魔法について書かれています。カイン様の役に立つかどうかはわかりませんが・・・」
「いえ、僕はまだ自分がどんな闇属性魔法を使えるのか理解していません。もしかしたら、この中に使える魔法があればと」
「カイン様、その本に書かれている闇属性魔法は・・・どちらかというと人を苦しめる魔法が多いですよ」
「えっ?・・・・」
カインは苦笑いしながら、読むべきかどうか迷っていた。
(でもまずは闇属性魔法について知らないと・・・もしもの時に対抗できるかもしれないし)
「一応・・・借ります。でも、安心してください。もし、そのような魔法が使えても絶対に使いませんから」
「わかっていますよ。カイン様がそんなことをする方ではないことを。カイン様は他の魔法についても学んでいたほうがいいと思いますので・・・これも読んでみてください」
「『属性と初級・中級・上級魔法』。ありがとうございます。お借りしますね」
「アイビー王女殿下、カイン様。そろそろ夕食のお時間です。食事部屋に行きましょう。カイン様、その本は侍女に部屋へ届けてもらいます」
「ありがとう」
カインはワクワクしていた。七歳のカインが魔法について学ぶのは早いが、年齢と実力があっていないため、身体にある魔力を上手くコントロールできないでいる。魔力をコントロールするためにも魔法について学ぶ必要がある。魔族に王にされそうになっている今、少しでも早く魔族に対応できる力を持ちたいと願っているカインには宝のような本に巡りあえたのだった。
「あれ?お父様?なぜここにいるのですか?」
王族一家が席に座っている中に、父アーサーの姿もあった。
「アーサーがこんなにも子供を溺愛している父親だとは思わなかったよ。カイン、アーサーはカインのことが心配で居ても立っても居られず、来てしまったそうだよ」
「いや、何だ。カインはまだ七歳だし・・・不安に思っているのではないかと思ってな」
「お父様、僕は王宮に来てまだ一日も経っていないのですよ。国王様も女王様も王宮の侍女たちも良くしてくれています。別に不安とかないですよ」
あまりにも淡々と平気な顔をしているので、アーサーは悲しくなっていた。
「カインはお父様より国王の方がいいんだな・・・」
「いや、そういう訳ではなくて」
わざと泣いているふりをしているのか、本当に泣いているのかはわからないが、カインは少し面倒に感じていた。
「アーサーもそれぐらいにしろ。せっかく王都に来たのだから、明日はスチアート学院に行って、アベルに会ってくるといい。カインもアベルに会いたいだろう?学院には余から伝えておく」
「お兄様に会えるのですか?会いたいですね」
「そうだな。明日はアベルの様子を見に行こう」
「ダリア、お前も行ってこい。一応、婚約者なのだから」
「・・・はい」
(相変わらず不愛想だな)
カインはダリアの態度を不満に思いながらも、王宮の豪華なディナーを楽しんだ。
「お父様、本当は何しに来たのですか?」
「何を言っているのだ。本当にお前のことが心配で来たのだぞ」
「お母様たちは大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。ミディアンはあぁ見えて上級魔法の使い手だ。それに護衛たちも増やしてある。問題ないさ。ほら、もう寝るぞ」
久しぶりにアーサーと共に寝ることになり、カインは気恥ずかしく感じていた。
「カインも大きくなったな」
「でもお父様、僕は他の人と比べても小さいですよ?アイビーとも同じくらいの背ですし」
「大丈夫だ。心配しなくても大きくなるさ。父様と母様の子だからな」
思わず血はつながってないのでは、と言いそうになったが、カインは空気を読んで言葉を飲み込んだ。
「お父様、グローリー教会での話の続きですが・・・なぜお兄様とダリア様が婚姻することとなったのですか?」
「あぁ、そうだったな。それはな・・・」
アーサーはため息をつき、悲しそうな声で語り始めた。




