31 神の罰が慈悲深いのですが将来的に、大丈夫ですか?
「ここは・・・どこだ?」
目が覚めたハーヴェイが周りを見渡すと、荒れ果てた土地にいた。そこには瘦せこけた木々しかなく、砂嵐が舞っていた。
途中でいなくなっていた騎士団の団員たちも同じところで倒れていた。
「その声は・・・ハーヴェイ様?・・・でも・・・」
最後まで一緒にいたハーヴェイの騎士団の一人が、目を覚ましハーヴェイを見た途端、腰を抜かし、後ずさりしはじめた。
「なぜそんなに私を見て驚いている」
ハーヴェイがふと自分の手を見ると、その手は人間の手ではなかった。
「なんだこれは・・・」
ハーヴェイが頭を抱えると、そこにはあるはずのないものがあった。
「角?はっ?えっ?」
ハーヴェイは混乱していた。夢でも見ているのかと思い、何度も頬をつねったが、夢が覚めることはなかった。
「あ゛っ・・・あ゛っ・・・」
徐々に騎士団の団員たちが目覚めていたが、ハーヴェイの姿を見るや否や、剣を構えながら後ずさりしていた。
「皆、この方はハーヴェイ様だ」
ヒューゴの変わりに副隊長となったロクランだけが、ハーヴェイを信じ、庇っていた。
その頃、スチアート、フェーズ、グレテス、そして他種族の長の協力の元、次々と奴隷の娘たちが救出されていた。ヒューゴの予想通り、ドワーフ族の者たちは脅され、他国を侵略するための武器を作らされていた。
この混乱に紛れて現イエッツェ国王は暗殺され、裏で奴隷商人とつながっていた皇太子も第二皇子により暗殺された。この国の改革を望んでいた、第二皇子がイエッツェ王国の国王となった。
「ハーヴェイ、まずは自分の姿を見てみたらどうだ?」
「ヒューゴ、貴様」
ヒューゴは口元を緩ませながら、ハーヴェイは目の前に手鏡を差し出した。手鏡に映る自分の姿を見てハーヴェイは発狂した。
「これが・・・私?」
人の姿の原型はなく、牛と獅子が混ざったような容貌をしていた。瞳の色は血のように赤く染まっていた。
「ハーヴェイ、神が天罰を下した。お前の唯一の弱点は、聖属性魔法が使えないこと。聖属性の魔法が使えれば・・・まぁ、それ以上は言わないでおこう。あの毒矢には特別な毒、いや、厳密に言うと毒矢ではない。あの先端には聖属性以外の魔法が込められている。毒を以て毒を制す。一つの属性しか持たない者にはただの矢、怪我はするが、それだけだ。ハーヴェイのとっては、まさに毒。お前は何の魔法も使えなくなったのだよ」
「そんなはずが」
ハーヴェイはヒューゴに向かって、全力の炎の矢を射ようと試みたが、身体には何の力も感じられなかった。ハーヴェイは様々な魔法を試みたが、ヒューゴに対し、何一つ攻撃することができなった。
ハーヴェイは膝から崩れ落ち、絶望していた。
「なぜ、私は獣のような姿になっている」
「それは神から罰だ。私は・・・私はお前を本当は殺したい。しかし、神はスチアート国王にこう告げた。『我は罪多きものに天罰を下す。その者は命尽き果てるまで生きる。誰にも愛されず、力を持たぬ醜い姿のまま。その子孫もその罪を受け継ぐであろう。それがその者にとっての罰だ』と」
ハーヴェイは目の前にいるもの全てを殺そうと躍起になったが、恐ろしく、いかにも力強そうな容貌とは裏腹に、小さな子供ほどの力しかなかった。
「くそー!!!」
ハーヴェイは騎士団たちのこう告げた。
「お前たちにはやり直す機会がある。イエッツェに帰れ。もしこのまま留まれば、お前たちもハーヴェイのようになるぞ」
騎士団たちは一目散に走り出した。ただ一人、ロクランだけがハーヴェイの側から離れなかった。
「ロクラン・・・いいのか?そんなやつのために・・・命を無駄にすることになるぞ」
「いいんだ・・・私がこの方から離れれば本当に孤独になる。私はハーヴェイ様から拾われた。だから、どんな姿であろうとこの方に仕えます」
「一つ忠告しておく。そいつと一緒にいると・・・ロクラン。お前もいずれ、ハーヴェイのようになる」
「えっ?・・・」
ヒューゴはその一言だけ残し、騎士団たちと共に帰っていった。
「ロクラン・・・一つだけ頼んでいいか?」
「・・・はい。何でも言ってください」
ハーヴェイがロクランに頼んだことは意外なことだった。
数十年後、力をなくしたハーヴェイは大人しく時を過ごしていた。
「ハーヴェイ様、オクタヴィアン様ですが、類まれな才能の持ち主かもしれません」
「おお、そうか・・・やっと・・・連れてこい」
ロクランは五歳になるオクタヴィアンをハーヴェイの前に連れてきた。
「オクタヴィアン、父様にロクランに見せた魔法を見せてくれ」
オクタヴィアンはもじもじしながらも右手を上に掲げた。指を鳴らすと、一瞬で多くの子供たちがハーヴェイの目の前に現れた。
「よしっ!ロクラン、シエナに褒美をやっておいてくれ」
「それはハーヴェイ様から直接されたほうが」
「あいつはただの道具だ。そんなことをする必要はない」
「・・・承知いたしました」
オクタヴィアンを抱きかかえ、喜んでいるハーヴェイの姿を、悲し気な赤い瞳でロクランは見ていた。
「シエナ様、こちらはハーヴェイ様からの贈り物です」
「そうですか・・・」
「申し訳ございません」
「ロクランさんが謝ることではありませんよ。所詮、私はあの人の道具なのですから」
「あの時、私が・・・」
「私が自らの意志で来たのです。ロクランさんのせいではありません。私がいけなかったのです。あの時、ヒューゴさんの差し伸べた手をつかまなかったので」
「私も後悔しております。あの時、ヒューゴの言葉の意味を深く考えていれば・・・」
「・・・ロクランさん、私の体はそう長くは持たないでしょう。十五人も子供がいるので、もう私の役目も十分でしょう・・・ロクランさん、最後に一つだけお願いを聞いていただいていいですか?」
一年後、十六番目の子を産んだシエナはそのまま亡くなった。
ロクランは、最後に生まれたシエナの娘にゾーイと名付け、大切に育てた。他の子供は自由奔放で我儘だったが、ゾーイだけが違った。
「この子はきっと将来、何かを変えてくれるはずだ。魔族と呼ばれている私たちの何かを」
この本を記したのはロクラン・ガルシア。心も体も魔族と化した主に仕え、後悔した男。魔族と化した己を制しながら、ハーヴェイと共に再び人族に戻ることを願っていた。しかし、死ぬまでその願いがかなうことがなかった。
「ゾーイ。どうか私の願いを引き継いでいてくれ。神に許しを請い、ハーヴェイの罪を背負った子孫が、魔族となった私たちと他種族の仲間たちが笑いあえる未来を。この願いをどうか受け継いでくれ」




