27 王宮で怖ろしい本を見つけてしまったのですが、大丈夫ですか?
カインが王宮に住むことは秘匿とされた。その事実を知っていたのは、王族、王宮に住む王家直属の魔導士団団長、騎士団団長、一部の侍女、そして、デイヴィス家、グリフィス家だった。
王宮に来たものの、カイン自身、いつまで王宮で過ごすことになるのかわからなかった。
(まさかお兄様より先に王宮に住むことになるとはな・・・)
王宮に仕える侍女に案内された部屋は豪華すぎて、マリーもカインも少し引き気味だった。
「マリー、僕たちはどうやら場違いなところに来たようだね」
「本当ですね」
マリーの部屋はカインの部屋にある扉一枚で直接つながっている部屋だった。
王宮では何か起きた場合、すぐさま侍女が対応できるよう、専属侍女は隣の部屋で過ごす決まりとなっていた。
「カイン様、私がこんなに広い部屋を使ってよろしいのでしょうか?」
さすが王宮。侍女の部屋も主の部屋ほど広くはないとはいえ、全てが一級品のものばかりだった。
「マリー、こんな機会はないから流れに身をまかせよう。どうせ僕らには選択肢などないのだから」
「そうですね」
二人は冷静に物事を見ていた。
「カイン様ー!」
元気よく飛び込んできたのはアイビーだった。
「お部屋はどうですか?」
「いいお部屋です。僕にはもったいないというか申し訳ないというか」
「いいのですよ。だってカイン様は私の未来の旦那様ですから。窮屈な思いはさせたくありません」
(僕までもが王宮で贅沢をして王宮の生活に慣れてしまったら、僕がデイヴィス家を継ぐときに、アイビーに辛い思いをさせないだろうか・・・まぁ、デイヴィス家もなかなか裕福な家ではあるが)
カインは将来への不安を抱きつつあった。
「カイン様、王宮をご案内します。マリーも一緒に来てください」
「そうですね。広すぎて覚えられるかはわかりませんが、間違えて入ってはいけない部屋に入ってもいけませんので」
「お父様とお母様の寝室以外は問題ないですよ。さぁ、行きましょう」
アイビーは楽しそうにカインの手を取り、走り出した。
(まぁ・・・でも、こんな子と結婚したら楽しい生活が待っていそうだな)
カインはアイビーの無邪気で可愛らしい笑顔を見て、アイビーと結婚するのも悪くはないなと思いはじめていた。
「ここは王宮書庫室です」
「広いな」
その広さはデイヴィス領にある一番大きな図書館の二倍の広さはあった。
「この本は王宮にいる人たちだけ読むことができるのですよ」
(そういえば魔王城にも本がたくさんあったな・・・読もうと思っていた本、結局読めずにどこかに置いてきてしまったしな・・・)
カインは魔王城にいた時のことを思い出しながら適当に本を眺めていたが、ある一冊の本が目に留まった。
(神と魔族?)
カインはその本を手に取り読み始めた。
真剣な表情で本を見ているカインの姿を愛おしそうにアイビーが眺めていた。
ふとアイビーの視線に気づき、そういえば勝手に許可なく読んでしまったと思い、すぐに謝った。
「申し訳ございません。勝手に読んでしまいまして」
「いいのですよ。カイン様は私の未来の旦那様なのですから。お父様には許可を取っていますので、好きな時に好きなだけ読んでかまいませんよ」
「本当ですか?ありがとうございます」
アイビーは初めて見るカインの生き生きした目の輝きに胸を打たれていた。
アイビーの目にはそう映っていたが、マリーから見たカインのいつも通りだった。
(アイビー王女殿下の目にはカイン様がどのように映っているのでしょうかね)
マリーはこの温度差のある二人を見ながら、意外とお似合いなのかもと二人の将来を良い方向に考えていた。
カインが手に取った本『神と魔族』には、魔族が誕生したはじまりが記されていた。
何千年も前、元々は魔族など存在していなかった。
人族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族。この四種族でアースノロード大陸は成り立っていた。ある時、人族の中に突然変異でどの属性にも属さない魔法を使う者が現れた。はじまりはある一人の男。この男が善良な男であれば、そもそも魔族など生まれなかったかもしれない。いや、いずれにしてもこの男の血を引く者の中に、自分の力を過信し、魔族が生まれるのに少し時間を要しただけだったかもしれない。
この男の名はハーヴェイ・ヨーマン。どこにでもいる普通に子供だった。五歳になるまでは。




