26 親し気に名前を呼んで、大丈夫ですか?
「マリー、今更だけど、何で僕たち王宮にいるんだろう」
「そうですね・・・すべて私のせいですね」
カインとマリーは王宮の前で呆然と立ち尽くしていた。
「何をしているのですか、カイン様。行きますよ」
アイビーはうれしそうにカインの手を引き、走りだした。
(カイン様、いろいろとごめんなさい)
カインが王宮に来ることになった原因の一つでもあるマリーは、心の中でカインに謝罪していた。
「あなた、何しているの?カイン様の侍女なのでしょ?」
「はい、申し訳ございません」
マリーから見たダリアの印象は、いつも不機嫌でカインのことを目の敵のように睨み、アベルに対しては作り笑顔を振りまいている、カインとは別の意味で子供らしくない王女様だった。
しかし、馬車の中でカイン、ダリア、アイビーの会話を聞いてダリアへの印象が変化した。ダリアは感情を出すことが上手くできない不器用な王女様なのだとマリーは感じた。それと同時に、カインへの辛辣な態度は好意を隠していた表われであったことも理解した。
「よく国王様も許可しましたね。僕を王宮に住ませるなんて」
カインは王家の家紋がついた馬車に乗り、ダリア、アイビー、マリーと共に王宮に向かってたが、少し疲れていた。
馬車に乗る前、レアとアイラがカインをなかなか解放せず、抱きついたまま離さなかった。
「あなたたち、カイン様はこの国の第二王女アイビーと婚約しているのよ。その第二王女アイビーからカイン様を奪おうとしているの?いい度胸ね」
ダリアの凍り付くような視線と毒の利いた言葉は二人には効果覿面だった。
二人は泣く泣くカインを放し、見送ることとなった。
「お父様もカイン様のことは大歓迎ですよ。元々カイン様は保護対象として国の監視下に置くつもりだったみたいです。全属性使いの子供がいるだなんて知られたら、カイン様は魔族だけではなく、いろんな種族からも狙われますよ。とりわけ東のイエッツェ国はどんな手を使ってでも手に入れようとするでしょうね。人族の四国で一番力を持たない国ですから。カイン様、むやみに魔法を使ってはいけませんよ。私はずっとカイン様の側にいたいと思っていますから」
「ありがとうございます、アイビー王女殿下」
「その王女殿下はやめてください。アイビーでいいですよ」
「しかし・・・」
アイビーが頬を膨らませ、可愛らしく怒っていた。
これが世に言う愛でたいと思う女の子なのかと思いながら、カインは返事をした。
「そんなに可愛らしい怒り方をされたら、受け入れるしかありませんね。わかりました、アイビー」
「はい、カイン様」
アイビーはうれしそうにカインの腕にまとわりついていた。
「ダリア王女殿下、そんなに僕のこと睨まないでください。これは、アイビーが提案してきたことなのですから」
カインはダリアからの鋭い視線に耐えられなくなっていた。
「別に睨んでいるつもりはないわよ・・・ただ・・・羨ましいなと・・・」
ダリアは段々と小声になっていき、最後の方はぼそぼそと何かを言っていた。
「うん?」
「カイン様、お姉様も名前で呼んでほしいのですよ。ねぇ、お姉様」
「別にそんなんじゃないわよ」
「カイン様、お姉様のことも名前で呼んであげてください」
アイビーはダリアをデレさせようとカインにダリアの名を呼ばせようとした。
「えっ・・・そうですね。では、・・・ダリア?」
アイビーの名を呼ぶ時より、妙な緊張感をカインは感じた。
ダリアは名前を呼ばれてうれしかったのか、恥ずかしかったのかはわからないが、顔を背けたまま返事をした。その顔はリンゴのように耳まで真っ赤になっていた。
(やっぱりお姉様もカイン様のことが好きなのね)
ダリアの反応を見たアイビーは喜ばしい事のはずなのに素直に喜べない自分がいた。
(お姉様、ごめんなさい。これからは、本気でいきます)
全てを我慢し、スチアート王国の女王になろうとしているダリアが、初めて好意を示した相手がカインだった。最初の頃は姉に本当の幸せをつかんでほしいと願っていたアイビーだったが、自分自身もカインに対し好意を抱いていることに気づいた。今までは譲れるものは全て譲り、姉のために尽くしてきた妹だったが、カインのことだけは譲れなかった。
(カイン様・・・七歳にしてこの国のツートップの女性の心を奪うとは・・・将来が恐ろしいですね)
マリーは三人のやり取りを見ながら、将来、カインに女たらしの悪名がつくのではないかと、変な心配をしていた。




