21 僕の魔法のせいで訓練場が更地になっていますが、大丈夫ですか?
それから二年が経ち、カインは七歳となっていた。あの事件以来、魔族がカインをさらいに来る気配もなく、穏やかに過ごせていた。
十二歳になった兄のアベルは今年から王都にあるスチアート学院初等部に入学した。
アベルは侍女のリリーを伴い、家を離れ、スチアート学院の寮に住むこととなった。
スチアート学院はスチアート王国の者であれば、平民から上流階級の貴族まで、身分関係なく入学することができる。十二、十三歳は初等部、十四、十五歳は中等部、十六、十七歳は高等部と年齢により分かれている。国の学資金と資産家の貴族の寄付により運営しているため、例え貧しい平民であっても入学することができる。スチアート王国だけが平民の子たちも学ぶ機会が与えられており、これが国王ダタンが民から慕われる理由の一つでもある。
「セヴァス、僕のお母様って本当に誰なんだろう」
カイン自身は自分が異常な子供であることは理解していたが、その異常さが予想をはるかに上回っていた。
「カイン坊ちゃまの魔法はお庭で訓練できるレベルの魔法ではありません。こうして私が何もない土地に連れてこないと今頃はデイヴィス家は塵になっていたでしょうね」
カインの魔法の訓練の場として、セヴァスが連れてきている場所は、カインの度重なる魔法の訓練のせいでもはや原型をとどめていなかった。生い茂っていた木々や、そびえ立つ大きな岩があったはずの場所が更地になりつつあった。
大抵の子供は五歳で自分の魔法の属性を知り、それから訓練し、初等部に入学する頃には初期魔法はマスターしているかどうかぐらいのレベルである。
カインは七歳にしてすでに全ての属性の上位魔法まで習得しており、さらに上のレベルまでいける勢いだった。しかし、闇属性に関しては未だにどんな魔法が使えるのかわからないままだった。
「セヴァス、使える闇属性の魔法はどうやってわかるの?」
「そうですね・・・魔族の場合は啓示されると言いますか、頭の中で勝手に思い浮かぶのです。魔王様の魔法は多岐にわたってましたから、カイン坊ちゃまも使える闇属性魔法は一つだけだはないかもしれませんね」
「そうか・・・」
「そう焦らなくても大丈夫ですよ。むしろ、人族に溶け込むには闇属性魔法が使えない方がいいですよ」
「たしかにそうだね・・・セヴァス、ごめんね。本当はお父様とお母様にもセヴァスのことを紹介したいのだけれど、魔族に対する警戒がすごくてね」
「仕方がないですよ。カイン坊ちゃまは一度さらわれているのですから」
「ねぇ、叔父様は今何をしているの?よくよく考えたら、僕を殺して王座につけばいいのに、なぜ僕のことは殺さないで王にしようとしているの?」
「それはですね。カイン坊ちゃまが魔王ベザレルの子だからですよ」
「そういうこと?」
セヴァスは意外な魔王ベザレルとガドの兄弟関係について話しはじめた。
魔王ベザレルとガドは十歳ほど離れており、ガドはベザレルを尊敬していた。ガドは悪戯好きな子供で昔から両親を困らせ、怒られていた。そのたびに庇ってくれたのがベザレルだった。
「ガド様はベザレル様を愛しすぎたのです。ベザレル様の死を知った時は大変でしたよ。それこそ、魔王城か壊れるかと思ったほどですよ。数年後にようやく立ち直って、魔王になる決心をしたのですが、王座から認められなくて。それで、ガド様は知ったのです。魔王様に子供がいることを」
「えっ?それまで僕の存在を知らなかったの?」
「はい、実はカイン坊ちゃまの存在を知っていたのは私だけでしたので」
「なぜお父様は僕を隠していたのかな」
「それはわかりませんが、きっと奥様、つまり、カイン坊ちゃまのお母様が関係しているのでしょう。私は初めてカイン坊ちゃまを見た時、驚きました。魔王様はどちらかというとそういうことは疎い方でした。ですので、まさか子供を作るような相手がいたとは私も知らなかったですので。カイン坊ちゃまの顔立ちを見る限り、綺麗な奥様だったということだけはわかりますね」
アースノロード大陸には五種族いるが、基本的には他種族同士で結婚することはない。なぜならば、他種族で結婚した場合、他種族同士で交わっても子供が産まれないからである。それゆえ、他種族同士で恋に落ちた場合、駆け落ち同然で家を出なければならない。ただし、魔族に関してはそうとは限らなかった。現に、ゼイン神官長は魔族と人族の混血の子孫である。
(僕はもしかして他種族との間にできた子だから、お父様はお母様が誰なのか言えなかったのかな。お母様を守るために)
「セヴァス、僕は望まれて生まれた子ではなかったのでしょうか」
セヴァスはカインの目線まで屈み優しく微笑みかけた。
「そんなことはありませんよ。魔王様が初めてカイン様を私に紹介してくださった時、魔王様の顔は今まで見たこともないほどの笑顔を見せていました。本当に初めて見ました。あの笑顔は一生忘れられません。カイン坊ちゃまのことを本当に愛しておられましたよ。カイン坊ちゃまがそんなことを言ったら、魔王様が悲しまれます。それに、お母様はまだどこかで生きておられるかもしれません。きっと、カイン坊ちゃまに会いたいと思っておられるはずですよ」
「うん。そうだよね。ありがとう、セヴァス」
セヴァスは優しく頭をなでながら、カインを抱きしめた。
たぐいまれな魔法の才能を持ち、普段は一ミリも表情が変わらないカインではあるが、まだ七歳の子供である。カインは表情にこそ現れないが、実の父と母のことを恋しく思っているのだろう。セヴァスはそう感じ愛情を与えるように抱きしめたのであった。




