19 僕が魔王の子であることを王族が知って、大丈夫ですか?
王宮についたカインたちはすぐに謁見の場に通された。
「失礼いたします」
部屋の中に入ると国王ダタン、王妃リビア、第一王女ダリア、第二王女アイビー、そして宰相ハワードも同席していた。
ゼイン神官長がいるせいか、カインの目から見るとダタンがいつもより国王らしく見えた。
アイビーは他の人の目を気にすることなく、カインに向かって笑顔で手を振っていた。
手を振り返すべきかカインは迷っていたが、ふと隣にいるダリアを見ると目の下に酷いクマができていた。
ダリアはカインと目が合うとわざと視線を逸らした。
(態度があからさまだな。それにしてもあのクマは・・・寝てないのか?)
ゼイン神官長が話しはじめようとしたが、ダタンが一旦ゼイン神官長が話すのを止めた。
「リビア、ダリア、アイビー、ハワード。今から聞くことは他言無用だ。いいか、ここにいる者以外に絶対に話してはならないぞ」
ダタンが深刻な表情で重苦しく言葉を発したので、皆無言で頷いた。
「よし、ゼイン。全てを話せ」
「はい、かしこまりました」
ゼイン神官長はカインの属性鑑定の時、起きた出来事や間違いなくカインが全属性持ちであることを話した。
「全属性?」
リビアたちは聞いたこともない言葉に驚いていた。いまだかつてどの種族においても全属性持ちなど存在したことがなかった。しかし、ダタンにとっては予想の範囲内であった。
「やはりそうだったか・・・予想はしていたが。それで、カインの母親はわかったのか?」
「いえ、鑑定しようとしましたが、跳ね返されてしまいました」
「そうか・・・」
ダタンは少し残念そうな顔をしていた。
「ちなみに闇属性の魔法はどんな魔法が使えるのだ?」
「それについても不明です・・・普通の子ならば、属性と魔力量、どの程度の魔法がどこまで使えるのか大体わかるのですが、カイン様に至って今のところ全てが未知数です」
「お父様、発言してもよろしいですか?」
アイビーが恐る恐るダタンに尋ねた。
「何だ、アイビー?」
「あの・・・カイン様ってアーサー様の息子ですよね?」
「そうだよ」
「・・・闇属性ってどういうことですか?」
「あぁ、そうだったな。すっかり言ったつもりでいたよ」
(国王がそんなんで大丈夫なのか?)
カインは先程までは威厳のある国王に見えていたが、そそっかしさが垣間見れて、少し呆れていた。
「アーサー、話してくれ」
「はい。かしこまりました・・・実は五年前に・・・」
(そういえば・・・僕も初めて聞くような・・・)
アーサーはカインがデイヴィス家の次男として育った経緯を話しはじめた。
「勇者アーサー、この戦争は・・・私は・・・私は望んでいなかった。この戦争を引き起こしたのは私ではないのだ」
魔王の告白に、勇者アーサーは魔王の言葉を信じることができなかった。
「何だって!この戦争を引き起こしたのはお前ではないのか。嘘だろう」
「いや、本当だ。この戦争を引き起こしたのは我が弟ガドだ」
信じられない話だったが、魔王の目を見る限り、嘘をついているようには見えなかった。
「私の願いは魔族の者たちも他種族と交流を持ち、この大陸が一つになることだった。私が人族の領にガドを送った。和解するために」
「和解だと?でも、実際は多くの人を殺しているではないか」
「私が悪いのだ。ガドに任せたから。ガドは人族に、いや、魔族以外の全ての種族を恨んでいた。私たちの兄弟の母は先代の勇者たちに殺された。私たちの母は私と同じ考えだった。魔族も人族も関係なく平和に暮らせるようにしたいと。父はそれとは真逆を生きていた。母は父を説得していた。でも、結局父は人族の領を攻めようとした。それを止めようとした母は巻き込まれて・・・母は誰一人殺さなかった。なのに・・・殺された。ガドはずっとそれを憎んでいた。私は母の意志を継ごうとガドを説得した。納得したと思っていたのだが・・・」
ガドは結局母を殺された恨みを断ち切ることができず、なりふり構わず人族を殺していった。
「勇者アーサー・デイヴィス・・・一つだけ願いを聞いてもらえないだろうか?」
「わかった。何だ」
「セヴァス!」
魔王ベザレルがセヴァスの名を呼ぶと、魔王の影から老人の執事が出てきた。
セヴァスの手には生まれたばかりの赤子が抱かれていた。
「この子は私の息子で・・・カインだ。可愛いだろう・・・可愛いんだよ」
魔王は急に親馬鹿のように惚気はじめた。
「たしかに・・・可愛いな」
白髪に光り輝く金色の瞳。とても魔王の子どもには見えなかった。
「本当にお前の子か?」
「あぁ・・・私の宝だ。今から全ての魔族を魔族領に引き戻す。カインとアーサーとその仲間たちには欺きの魔法をかける。魔族の者には見えない。一時間だ。それまでに・・・カインを連れて人族の領に帰ってくれ」
「えっ?何でだよ。俺が国王に直談判してやるから、一緒にスチアート王国に来ればいいじゃないか」
「だめだ・・・もう手が付けられなくなっている。これを止めるには私が使える最大の魔法しかない・・・これは一度しか使えない・・・それに、この魔法を使ったら・・・私の身体は消える」
「だめだ、だめだ!お前のような魔王が死んだら、お前の母の願いは一生叶わないぞ」
「これ以上、人族も他の種族も傷つけられない。お願いだ。逃げてくれ。カインを・・・立派に育ててくれ。きっとカインは私に似て・・・だから・・・逃げてくれー!!!」
魔王の身体が変化しはじめた。人族のような見た目だったのが、獅子のような、牛のような何ともいいがたい猛獣に変化していた。
(くそっ!!!)
アーサーはセヴァスからカインを受け取り、走り出した。
「セヴァス・・・カインを・・・見守って・・・くれ・・・これは・・・命令だ」
「かしこまりました。魔王様。この命に代えてでも一生カイン様をお守りします」
セヴァスは涙を流しながら、影に消えていった。
「アーサー、どういうことだよ。その子は何だ?」
アーサーは勇者パーティーの者たちと合流すると、ただ一言、『走れ!!!』とだけ言った。
勇者パーティーの者たちはなぜアーサーが涙を流しながら、赤子を抱えているのかわからなかった。
その後、アーサーたちが走りゆく背後で大きな光が音を立てながら落ちてきた。
その光に魔族たちが吸い込まれ、光ごとどこかに消えていった。
(安心しろ、魔王ベザレル。カインは俺がお前のような男になれるよう育ててやるからな)
アーサーは振り返ることなく、デイヴィス家へと帰っていった。




