18 綺麗なお姉さんに見惚れてしまったのですが、大丈夫ですか?
「二人が恋に落ちるまでそれほど時間はかかりませんでした」
ゼイン神官長は遠い目をしながら、哀愁を漂わせていた。
「でもエスメさんのお兄様が帰って来た時はどう説明したのですか?」
「ジョエル様は本当に心が清く、優しく、どんな種族でも差別するような人ではなかったのです。ですから、エスメ様からガヴィン様を紹介された時、はじめは驚いたようですが、ここに来た経緯をエスメ様から聞いた後はジョエル様はガヴィン様を受け入れ、国王にすら黙っていたそうですよ。まぁ、妹想いの方だったそうですので、二人の雰囲気を見て、関係性を悟ったのだと思いますよ。そして、エスメ様とガヴィン様との間に生まれた子が今の私の血につながっているのですよ。もう何世代も前なので魔族の血は薄くなってはいますが、闇属性だけは受け継がれています」
エスメとカヴィンの子の中に闇属性鑑定魔法を使える娘が生まれた。後に、グローリー教会に闇属性鑑定魔法を使える者がいると国王に知られることになったが、国王はジョエルとエスメの人柄を評価していたので、国益も考え、二人を咎めることなく、グローリー教会には特別に五歳になる子どもたちの魔法属性を鑑定する役割を与えた。
しかし、一つだけ条件があった。国王からの招集以外はゼイン一族は教会の外へ出ることはできなかった。魔族の血を引く者が人族と交わらないようにするためである。鑑定属性を引き継ぐ者が必要だったため、エスメとガヴィンの子孫は国王が決めた者としか婚姻すことができなかった。
「あの、そういえば、魔王は結局どうなったのですか?次の魔王はガヴィンさんで、ガヴィンさんが亡くならないとガヴィンさんのお兄様も魔王にはなれなかったのですよね?」
「ガヴィン様とエスメ様が結ばれた日にガヴィン様は魔王ではなくなったのです。それで、兄のエドモンド様が魔王になったのですが、他種族に攻めるどころか、魔族内で内輪もめして・・・次の魔王の代になるまで、魔族の内の戦争のおかげで人族を含め平和だったのですよ」
「なるほど・・・」
意外な結末にカインは肩透かしを食らったかのように感じた。
「カイン様ほど魔族の血は濃くありませんが、私も一応魔族の血が入っています。ですので、カイン様には親近感が湧いてしまいます」
ゼイン神官長が見せた笑顔は聖女とか見間違うほど美しかった。カインは思わず見惚れてしまった。
(カインが女性に見惚れるなんて・・・珍しいこともあるんだな)
「お父様、その顔は何ですか?」
「いや、何もないぞ」
カインは怪訝な顔をしながらアーサーを見ていた。アーサーは隠そうとはしていたが、ニヤニヤした笑みを隠しきれなかった。
「カイン様の鑑定結果を国王様に報告されると思いますが、私も報告しなければなりません。もしよろしければ同行させていただいてよろしいですか?」
「あぁ、もちろんですよ。なぁ、カイン」
「はい、喜んで」
言葉とは裏腹にとても喜んでいるような表情ではないカインだったが、そんなカインをゼイン神官長は温かい眼差しで見つめていた。
(ゼイン神官長はたしか・・・二十手前ぐらいだったか・・・さすがに歳の差がありすぎだな)
アーサーはゼイン神官長がカインを見つめる眼差しに何か特別なものを意味しているように感じていた。
「ゼイン神官長が教会を離れても大丈夫なのですか?」
「大丈夫ですよ。基本的には私の主な役割は属性鑑定です。カイン様の鑑定の後は王宮に行くことになるだろうと予測はしていましたので、今日明日、五歳になるお子様がおられる方々には、前もって私が教会にいないことを知らせていましたので。問題はありません」
「さすが、ゼイン神官長ですな。先見の目も持っておられるのですね」
「いえ、何となくそう思っていただけですので」
(それにしてもやっぱりゼイン神官長は綺麗な人だな)
カインは突き刺すよな目つきでゼイン神官長を見ていた。
「あの・・・カイン様、私の顔に何かついていますか?」
「申し訳ございません。ゼイン神官長があまりにも美しい方なので・・・つい見惚れてしまいました」
「ありがとうございます。カイン様こそ五歳にには見えないほど、かっこよくて、紳士的で、素敵な方ですね」
「ありがとうございます」
(何だ・・・この空気は)
五歳の子供とと二十前の娘の会話とは思えないほど甘々しい会話だった。
「失礼ですが、ゼイン神官長は年はいくつになったのですか?」
アーサーは甘ったるい空気を入れ替えようとゼイン神官長に尋ねた。
「十八になりました。アーサー様と初めてお会いしたのは十三の時でしたね」
「そうだったな・・・よくよく考えると大人になりましたね」
「はい」
ゼイン神官長は十二の時に両親を亡くした。ゼイン神官長は一人っ子でゼイン神官長以外グローリー教会を継げるものはいなかった。子供の時からグローリー教会を仕切ってきたため、年齢よりはやや大人びて見える。アーサーが初めてゼイン神官長と会った時もすでに成人していると思われるほどだった。
「ゼイン神官長、大変だったでしょう」
ついアーサーは娘を見るような目でゼイン神官長を見てしまっていた。
「いえ、私には血はつながってはいませんが、多くの弟や妹がいましたので、辛くはなかったです。鑑定をするたびに皆が私を必要としてくれていることを実感していましたので、幸せですよ」
ゼイン神官長の笑顔は噓偽りない笑顔だった。
「あとの私の役目は跡継ぎを作ることですかね・・・カイン様、その時はよろしくお願いいたしますね」
「えっ?どういう意味ですか?」
「さぁ、どういう意味でしょうかね?」
ゼイン神官長は悪戯っぽい笑みを浮かべていた。




