17 魔族の兄弟喧嘩が激しいようですが、大丈夫ですか?
魔族の青年の名はガヴィンといい、瞳の色が赤いだけで、それを除けば、長身で筋肉がしっかりついている空色の髪が似合う美しい青年だった。
ガヴィンはエスメからの世話を受け、魔族特有の強靭な身体であることもあり、一日で回復した。
「さすが回復が早いですね」
「エスメの世話のおかげさ」
「いえ、私は大したことはしていません。ガヴィンさんの回復力がすごいからですよ」
エスメの優しい笑顔にカヴィンは胸の高まりを感じていた。
(だめだ・・・俺は魔族なんだ)
カヴィンは高鳴る鼓動を必死に抑えていた。
「ところで、どうしてガヴィンさんは王都にいたのですか?」
「・・・俺は兄貴に嵌められたんだ」
「お兄様に?」
「最近、人族から勇者が選ばれたのではないか?」
「はい、選ばれました」
「やっぱり・・・」
ガヴィンは教会で生き倒れになった経緯を話しはじめた。
「我が弟よ、やっと我が時代が来たぞ!」
ガヴィンの兄エドモンドは前魔王の父が亡くなって早々、自分が次期魔王だと思い、元々横暴な性格だったが、その性格が輪をかけたように横暴さが増していた。
実は魔族には正式に魔王になるためにやるべきことがあった。
皆の前で王座に座り、王座に認めてもらうことで初めて魔王だと認められる。
エドモンドはまだ正式な魔王ではなかったにも関わらず、すでに魔王のように振舞っていた。
エドモンドの側近グレゴリーは小声でひそひそと何かを提案しているようだった。
「確かにそうだな・・・ガヴィン、後は任せる」
エドモンドとグレゴリーは慌てた様子でどこかに向かっていた。
(何だろう・・・怪しいな)
「ガヴィン様!ガヴィン様!」
「あぁ、すまない・・・ウォーレン、ちょっといいか?」
ガヴィンは自分の側近であるウォーレンにある頼みごとをした。
言葉を理解できるが話すことができないウォーレンはしっかりと頷き、その場から去った。
(俺の思い過ごしだったらいいが・・・)
この時のことを振り返ると、ガヴィンはウォーレンではなく自分が行けばよかったと後悔していた。
ガヴィンの使える魔法は大雑把に言うと感知魔法である。
誰がどこで何をしているのか、把握できる魔法である。一度会った人や行ったことある場所ならば、全てを把握できる。
(ウォーレン遅いな・・・)
ウォーレンのことが心配になったガヴィンは感知魔法によりウォーレンの居場所を突き止めた。
ガヴィンの目にはとんでもない光景が広がっていた。
「ウォーレン!」
ガヴィンは一目散にウォーレンのもとに走った。
「ウォー・・・レン」
王座のある部屋を開けたすぐそばでウォーレンが血を流して倒れていた。すでに虫の息だった。
「ガ・・・ン・・・ご・・・あ・・・り・・・が・・・がっ」
話すことができなかったウォーレンが最初で最後、話した言葉だった。
「お前はそんな声をしていたのか・・・ウォーレン!!!あ゛ー!!!エドモンド!!!」
「遅かったな、ガヴィン。もうちょっと早く来れば、ウォーレンも生きていたかもな」
ガヴィンはエドモンドが王座に座っているかと思ったが、王座に上がる階段の前で立ち往生しているようだった。
「なぜウォーレンを殺した!」
「だって、なぁ・・・ガヴィン、なぜ私が王座に座っていないと思う?」
「えっ?」
ウォーレンが殺されたことで頭に血がのぼっていたガヴィンだったが、冷静になって考えてみた。
(この王座は次期魔王の資格がある者しか座れない・・・まさか)
ガヴィンは大きく深呼吸をして、エドモンドのペースの飲み込まれないよう、正気に戻った。
「選ばれたのは兄貴ではなく・・・俺ですね」
「その通りだよ、ガヴィン」
気味の悪い笑みを浮かべていたエドモンドが急に怒りに満ちた表情に変わった。
「何でお前何だ!私は正妃の子だ。お前は所詮二番目の女の息子だ。私が魔王になるべきなんだよ!なのに、この階段さえのぼれない。私を馬鹿にしているのか!でも、落ち着いて。わかっている。ガヴィンも私が王になるのがふさわしいとわかっているだろう。一つだけ解決策がある」
ガヴィンも昔、魔王である父から聞いたことがあることを思い出した。
(たしか・・・!!!)
カヴィンは父の言葉を思い出した瞬間、扉から離れた。扉には槍が突き刺さっていた。
「カヴィンも思い出したか・・・そうだよ・・・お前が死ねばいいんだ」
カヴィンは全力で走り、窓を突き破って、外へ飛んだ。
「馬鹿か、あいつ」
ガヴィンに使える魔法の中で身を護る魔法はなかった。
(一か八かだったが何とか生きてたな・・・)
生い茂った草をクッションにして、ガヴィンは上手く着地していた。
エドモンドは割れた窓の上から叫んでいた。
「ガヴィンを殺せ!」
(早く逃げないとまずい)
ガヴィンはなりふり構わず、逃げ、魔族領から脱出した。
ガヴィンの話を聞いたエスメはハンカチで涙をぬぐっていた。
エスメは何の言葉をかけるわけでもなく、ただそっとガヴィンを抱きしめた。
(抱きしめられたのは久しぶりだな・・・亡くなった母さん以来だ)
久しぶりに感じた温いもりにガヴィンの涙は止まらなくなった。




