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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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「お前、何かしてるのか?」


一か月ぶりに宮本家へ来た皓兄が、訝しげな顔をしながら亜妃に声をかけた。


「別に?どうして?」


いきなり自室に現れた皓兄に、視線をちらっと向けて答えると、すぐに視線を目の前に広げているノートに戻した。


「学校、行ってないんだろ」

「でも、勉強はしてるよ」


亜妃は座ったままの姿勢で、ノートを皓兄の方へ向けて見せた。

机の上に広げた教科書と、ノートを見比べて授業の範囲を覚えている最中だったらしい。


「学校だけ悠衣に行かせて、あっちの家にはお前が帰ってるって聞いた」

「そうだね。学校は…この前見ただろ?悠衣の生活っぷり。アレはもう俺には出来ないよ」

「だからって…このまま行かないつもりか?」

「別に困る事も無いよ。学校の授業なんか、何も特別な物はない。それに…」


亜妃はペンを置いて、皓兄に顔を向ける。


「どうせ一族の仕事が有る」


皓兄はその言葉を聞いて、眉間に皺を寄せた。


「確かに…そうだが」

「話はそれで終わり?悠衣が戻る前にこれ、やっときたいんだ」


「他にもしたい事は沢山あるし…」と、言葉を続ける。

亜妃の部屋の棚に、見覚えのあるファイルの背が並んでいた。

背表紙には人名が書かれている。

どれも皓兄は知らない者達だった。が、ふと視線が一つのファイルに止まる。


「どうした?」

「お前、コイツを知って居るのか?」

「通ってた園の園長だよ」

「…だから…間島はお前を見つけられたんだな」

「どういう事?」


皓兄がファイルを開けて亜妃に向けると、見慣れた顔写真が無表情で亜妃を見た。


「こいつ、子供のリスト提供者だ」

「は?子供のリストって?」

「身内が居ない、生活保護、関係が悪く行方不明になっても大丈夫な子供のリストだ」

「いち園長が、んな事出来ないだろ」

「繋がりがあんだよ。そう言う繋がりが」


亜妃は皓兄の声に席から立ち上がり、ファイルを奪う様にして手に取った。


「そんな事、書いてない」

「意図的に隠されてんだよ、…と言うか、教えなくて良いだろうと思ったか、知って居ると思ったか…なんにせよ、子供のリストを寄越す人間の一人だ」


亜妃のファイルを持つ手が震えた。

皓兄にファイルを押し付けると、携帯を取り出し黒子を呼んだ。

「どうして書かなかったか」と責め立てる為に。


「知っていらっしゃるかと…」


黒子が良い訳をした瞬間、銃声が部屋に響いた。

亜妃が机の引き出しに仕舞われていた銃で、黒子を撃ったのだ。


「亜妃!お前…」


後ろに倒れ、床に血を広げる黒子を見下ろしながら、皓兄は『亜妃が撃った』事に心底驚いていた。


「ははは…」


亜妃は銃を握りしめ笑う。


「アイツか…アイツが…根源」


自分の居場所になった、亜依や悠衣には感謝をしていた。

楽しくお茶をし、家に居なくてもいい状況をくれた二人に。

しかし、恨みもしていたのだ。


自分勝手に目の前で死んで、その後も記憶として苦しめる亜依。

自分を身代わりにして、学校で楽しそうにして…居場所を奪った悠衣。


二人が悪い訳じゃない。と、思っていても、モヤモヤは出る。

船で守る為に奔走してくれ、自転車の乗り方を教えてくれた間島。

悠衣への愛情と同じ愛を、亜妃に向けてくれないお母様。


「そう…アイツが…」


アイツがそんな事をして居なければ…。


何がどう変わっただろうか。それは誰も分からない。

しかし、一つだけ言える事は『あの船』に乗る事は無かった。


「そっかぁ…」


ふふふと笑い独り言を呟く亜妃に、銃声を聞きつけた家の者達の足音は聞こえない。

「大丈夫か」と、側に来た皓兄の声も届いてはいなかった。


椅子に座らせ、飲み物を持って来る様に言われた他の黒子が、暖かなミルクを持ってきた所為で、亜妃がさらに暴れたが、間島が鎮静剤を腕に打った。

項垂れる様に、亜妃は皓兄の腕の中に抱えられ、ベッドへ寝かされる。


「しばらくすれば、気が付かれるでしょう」


間島が皓兄の横で姿勢よく立っている。

何人かの黒子が手際よく、遺体を運び出し、床を綺麗にして部屋を整えた。


「教育が…行き届いているな」


皓兄の言葉に「ありがとうございます」と深く、間島は礼をする。


どの黒子も、自分の命を何とも思っていない。そして、また新しい黒子が亜妃に付けられるのだろうな。と、皓兄はベッドで呆然と動かない亜妃を見て、何だか酷く後悔した。

そして、意識がハッキリした亜妃は皆が去った後の、暗い部屋の中で涙を流した。


「亜妃?」


悠衣の声が、暗闇を通って耳に届く。

いつもの幻聴かと亜妃は考えたが、悠衣は側に居た。


「大丈夫…家に…帰るよ」


涙を拭い、服を着た亜妃は、暗くなった家路を歩いて帰った。

いつもそうして来たように。

それでも、夕焼けが怖かった日々が凄く遠い昔の様な気がして、また涙が溢れた。


今は道も分からない、真っ暗な世界だ。

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