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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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爆竹が騒音を立て、楽曲が弾き流され、一族総出で歌が紡がれる。

その中を棺に入った大お爺様が通り、墓地まで運ばれた。


それを見送ると、亜妃は白い礼装を脱いだ。

帰る頃には宮本家に頼んだ情報が、まとまって届いている事を期待していた。


「私はまだ帰れん。だから、皓と黒子を付ける」


訃報に急いできたお爺様が、そう言って皓兄と黒服を連れて来ては出国の準備を素早くしてくれる。


「ありがとうございます」


スーツケースやチケット、必要な物を黒子が持つと、亜妃はお爺様と暫し抱き合い、到着していた車に乗り込んだ。


「ではまた」


手を振る亜妃にお爺様も手を振る。

日本では感じた事の無い物悲しさが、体中を駆け巡る。


亜妃は寂しいと感じた。

置いて行かれた子供の様に、酷く寂しい。

大お爺様の最期に握った手の感触が、まだ残っている気がして、手の中を指で触れる。

懐かしむ様に、愛おしむ様に。


飛行機での帰国は、船よりもだいぶ速く着いた。

しかし、家には帰らず学校に様子を見に行く。


帽子を目深に被り、伊達眼鏡をかける。

黒子は目立つので、先に帰らせて皓兄と二人、校庭側から覗き込んだ。


丁度、下校の時間だ。

悠衣が出てくるのを待った。


しばらくすると、クラスメイトと笑顔で話しながら出てくる姿を見た。

自分のクラスの人間な筈なのに、悠衣よりもその子を知らない。


三年生の時、クラスメイトが変わり、安心できる教室になった。

大人しく目立たない様にして置けば、少しの関りで済む。


入れ替わりの為にそうしてきたのに…。


船の二か月と今日帰国までと、たった最初の一週間と大お爺様に会いに行くまでの一週間。

明らかに、亜季が居た方の時間が少ない。


私、あの子と話す時にあんな表情できるかな…。


亜季は自分の居場所が無くなった気がした。


「悠衣に声、かけるか?」

「いや、いい」


亜妃は首を横に振り、車に乗る。

それを追いかけ、皓兄が乗ると車は発進した。

宮本家の自室には、人物名毎に分けられた書類が机並んでいた。

ちゃんとあの黒子は、仕事をしてくれた様だった。


両親や和雄、一華。

祖母だけでなく、自分の知らない祖父の名もあった。


そして、通っていた園の関わって来た保育士達。

二年まで通っていた小学校の教師、今の学校の教師、そしてその家族。

保育士達や教師達の家族に関しては、名前と性別くらいで留めていてくれたらしい。


情報は多く、有り過ぎても意味が無い。

クラスメイトの中でも、亜希を虐めていた人間を選んでまとめられている。


亜妃は、個人情報がこんなに容易く手に入る事に、少し怖さを感じた。

その中で知りたい事をピックアップしていく。


亜妃は行き当たりばったりで、復讐したくなかった。

入念に、自分と同じかそれ以上の苦痛を味わってほしかった。


「だから」


『同じ事をただ返す』ではつまらない。


ソイツがどんな人やどんな事を大切にし、どんな事が嫌なのか。

洗い出す。

十も満たない年月で、関わった人間の多さや、それに連なる者達の多さに驚きはしたが、追加で誰かを頼む事もしなくて済みそうだった。


死んだ祖父母の事はもうどうでも良かったが、一応ざっと目を通し、思いがけない情報を得た。

祖母の顧客の中に見知った名があった。


「黒崎隆也、田辺敦」


保育士と教師だ。

二人は少女の…裸の写真を祖母から買っては楽しみ、不要になれば売りさばいていた。

今の亜妃ならば、一華の写真も赤子の亜希の写真も、売られた先まで追跡しようと思えば出来る。


「まずは回収を」


渡されている電話で黒子にかけると、全て回収した後、燃やす様に指示した。

写真と言う紙媒体であった事が幸いし、近いうちにそれらは燃やし尽せるだろう。


「後始末まで孫がしないといけないだなんて…」と、亜希はため息を吐き、祖父母のファイルをゴミ箱に捨てた。

両親のファイルには分かり切った事が書かれている。

失踪中の父親が転がり込んでいた先や、何故か母親が握りしめたレストランのチケットの事すらも。


「時間外で使用できなかったから大事に取ってんの?」


亜妃は頭を押さえて苦笑する。

二人の不倫相手の名前も、どうでも良かった。

が、母親の不倫相手…未遂だった様だが、その名前が違うリストにもある事に気が付いた。


「私を虐めたアイツの…父親?」


娘の亜里沙、息子の大輔。

姉は一華と同い年で、同じ中学の様だ。


「母親は…自殺」


一緒にファイルされた写真には、仲の良さげな家族の写真が載っていた。

この中で自殺者が出る程の事が起こるとは、到底思えないくらいに楽しそうな写真。

その端に、赤子の大輔を抱く女性が映っている。

美しいが儚さのある、線の細い母親だった。


「お母さんと全然違うじゃん」


亜妃は鼻で笑う。


「あれ?でも一緒に暮らしてない…」


よく見ると姉弟の住所と父親の住所が違い、保護者の名前も母方の伯母になっていた。


「ふうん」


亜妃はにんまりと笑う。


「可哀想に…『天涯孤独』かぁ…あ、でもまだ伯母が居るから…良いよね?」と、独り言を言いながら、亜妃は他のファイルも広げていく。

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