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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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46

誰をどうやって復讐するか。亜妃は考えていた。

保育士の黒崎隆也、小学校教師の田辺敦、クラスメイト…虐め首謀者の山谷大輔、通っていた園の園長…湯川美沙。


虐め首謀者の山谷には『生涯の孤独』を味わってもらう。

それだけは決まったが、他の者達の事は一向に決まらない。


写真を見つけて燃やす様に指示を出してから、三日後に「燃やし尽しました」と報告がされた。

亜希と一華以外の、他の子供の写真も有るという。


「いかがなさいます…」

「燃やして」


黒子の言葉に被る様に答え、帰って来た悠衣と交代で宮木家へ帰宅する。


「おい」


家の玄関に入ろうとした亜希は、声の方を振り向いた。

道路のアスファルトを勝手に突き破って伸びた木と、電柱の間に誰かが居た。


「宮木…」


苗字を言う。知っている人間の様だ。


「誰?」


黒い服でフードを目深に被って居る為、暗くて顔が良く見えない。


「来い!」


男はそう言うなり、亜希の右手首を掴む。

そして、薄暗くなった公園の方へ引っ張っていく。

後ろに居る黒子が亜妃を助けようと前に出たが、それを制しそのまま男について行った。


何かあれば、どうする事も出来る。


後ろの黒子の位置を、把握しながら男の方を見るが、顔はやはり見えない。

公園にはもう一人、男が立っていた。


「よう。宮木」


男が親し気に笑い、右手を上げる。

公園に居た方の男は、復讐の標的である「田辺敦」だった。


「お前、俺の客になんかしたか?」


田辺は小学生相手にすごむ。

学校で見せる明るい顔は、そこには無い。


「客って?」


亜希の声に、フードの男が顔を出した。


「お前の婆から買ったお前らの写真が燃やされたんだよ!知ってんだろ」


フードの男はもう一人の標的…「黒崎隆也」だった。

顔の右半分に包帯が巻かれていた。

左側の髪も無く、白い網が頭に掛かっている。

この二人は仲が良いのか?()()()()()()()()じゃない。などと、悠長に亜希は考えていた。


「写真?」


とぼけてみる。


「お前のおばあちゃんが何をしていたか、知ってるか?」


公園のポールに寄り掛かりながら、田辺が言う。

園に通う頃、黒崎から聞いたのを、本人目の前にして否定は出来ない。

亜希は頷く。


「それを俺達が買って、売ってたんだが…どう言う訳かこの前客の家と黒崎の家が焼かれてな」


黒崎の包帯は、その時巻き込まれての火傷らしい。

そして、客は死んだと言葉を続ける。


「お前と一華の写真だけ…持っていた奴が焼かれた。何か知らないか?…いや、子供のお前に聞いても無駄なのは分かってるんだ」


田辺がそう笑う。


「本当は姉の一華の方を拉致ろうと思ったんだが…お前が来たからな…治療費も稼がないと…な」


「若ければ若い程、高く売れる」と言いながら、黒崎が握っていた右手を離し、両肩を掴んだ。

二人は真相がどうであれ、もう一度金目当てに写真を撮る気の様だった。


「大人しく車に乗ってくれるか?」


田辺が車の鍵を揺らす。

亜希は公園外の木の陰に、黒子が居るのを確認する。


「止めて!離して!」


大げさに声を上げる。

黒子がどこかへ電話しているのが見えた。

ちゃんと応援を呼んでくれるだろう。


「大人しくしろ」


黒子が呼んだ応援が来るまで、時間稼ぎは必要だった。


どうやって時間稼ぎをするかな…。


両肩を持たれ、暴れながら亜希は考える。

暴れ続けた結果、騒がれ他者に見つかるのを恐れた二人に車に放り込まれる可能性に思い当たり、田辺が動く前に暴れるのを止めた。


「なんだ…?」

「諦めたのか?」


亜希の反応に二人が拍子抜けし、停止する。


「ねぇ…」


そんな二人に亜希が話しかけた。

拉致られかけた子供には思えない、冷静な顔で。


「他の子供の写真は?どこにあるの?」

「あ?」


亜希の言葉に、田辺が訝し気な声を上げた。


「お前にな…ってなんで他の写真の事を知ってる」

「ロリコン。ペドフィリア…児童の写真に性的興奮を覚えるなんて…気持ち悪い」

「なっ!」


肩を掴む黒崎の手に力が入った。


「離して」


すっ。と、亜希は掴まれていた手から擦り抜ける。

公園に立つ時計を見ると、宮本家から出て一時間は経っていた。


…と、言う事は指示をしてから一時間。


「田辺先生。写真保管してるとこ。今も大丈夫?」

「は?…どういう意味だ?」

「い・ま・も。大丈夫?」


亜希がにっこりと笑う。

その、子供ながらに余裕と奇妙さを携える亜希に、二人は体を強張らせた。


田辺が黒崎に首を動かすと、指示の意味を理解した黒崎が公園の横にある公衆電話へ走った。

二人はまだ、携帯を持つくらいの経済的余裕がない。

田辺と亜希は見合ったまま微動だにせず、黒崎が戻って来るのを待った。


「無駄だと…思う」


亜希が田辺に笑う。

引き攣った顔の田辺が「どういう事だ」と問う。

その問いに、亜希はさらなる笑顔で答えた。


「燃えるゴミは燃やすのよ」

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