表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

95/107

41

宮本家へ戻った亜妃は、家人達の今までとは違う雰囲気に気が付いた。

客人を持て成す丁寧さでも、主人に属する者への忠誠でもない。


畏怖。

まるでお父様はもちろん、お母様よりも上位の扱いで、その奥には深い恐れが見え隠れしていた。

あの船が何の為のモノか、薄々感付いてはいたが確信を持って居なかった亜妃は、ここで確信を得た。


要人達の醜聞を集め、一族が各国への影響力を強め少しずつ侵略を勧める為のモノ。と、言うだけではない。

一時の影響力では頭が挿げ替えられれば、意味が無くなる。

根深く、奥底に幅広く手中に収めなければ。


その為には手間も金も惜しみなく注ぎ、作り上げたあの『遊び場』を引き継いでいく者が必要だ。

あの船は、後継者教育の場でもあった。

亜妃はそれに合格した。


「お帰りなさいませ、亜妃様」


間島が頭を下げて出迎えた。

この男も、皓兄同様自分を守る為に奔走してくれたのだろう。と、亜妃は思った。

しかし…。


「ああいう所だと、皆知って居たのか?」


間島の…所々白く、少し地肌が見えている後頭部を眺めた。

返って来る返答など、もうとっくに予期していると言うのに、何を期待しているのだろう。


「左様でございます」


亜妃は目を瞑る。

合格できなかったらどうなるのか、わかって居た筈だろう。と、罵声を浴びせたくなった。

が、幸運にも査定者である皓兄の叔父に『気に入られ』合格できた。

間島のサポートもあって、生きながらえた結果は変わらない。


亜妃は深く溜息を吐いた。

一人の黒服が、恭し気に紅い布で覆われた何かを持ってきた。

間島の右隣に姿勢を正しく立つ。


間島は布ごとそれを掴むと、両手で持ち布を亜妃に開いて見せた。


「亜妃様の物です」


紅い布に包まれていたのは小型の拳銃だった。

亜妃にはそれが何口径で、どのタイプの銃かは分からなかったが、小さく女性や子供でも扱えそうな銃の、金色に輝くグリップの金属部分に『桜』がエンボス加工されているのを見て「美しい」と感じた。


「お手に」


間島の促しに、グリップ部分を持ち眺める。

少し重く感じたが、握り心地は良かった。


「いかがでしょう」


安全装置の場所と銃の形状を見る。

シリンダーが無く、ハンマーも無い。

グリップの下に開閉部分…マガジン装填部があった。


「ストライカー方式になっております」


方式が何か興味の無い亜妃は「そう…」とだけ答えて銃口を間島に向けた。

最後の一週間、銃を握らされたのはこれの為か、はたまたアレをクリアしたから与えられた物なのか。

判断は付かない。


銃口を向けられた間島は、狼狽える事をしなかった。

銃に弾が無いと知って居るのか、撃つ『気概』が亜妃には無いと踏んでいるのか、出会った時と同じように…否、少し老けた厳しい顔がそこには在った。


「弾は入っております」


間島がふと笑みをこぼす。


『自分の命は他人の采配で決まる』


そう、教育された黒子達と一緒だった。


「…手入れとか知らないから」

「左様で」

「…俺の部屋に保管しといて」

「分かりました」


亜妃は、間島の手に掛かった布の上に銃を置いた。


いつかは使うかもしれない。けれど、今じゃない。


「おかえりなさい」


悠衣が食堂で出迎えた。

夕食前のお茶をしている様だった。


「今日帰って来るって聞いたから…」

「そう」


悠衣の正面に座ると、同じ様にケーキとお茶が運ばれてくる。

一瞬手を着けるのを躊躇したが、口に運ぶ。

甘い匂いと優しい暖かさが、船の過酷さを忘れさせてくれる気がした。


「悠衣…」


二か月と数日。その間のすり合わせをする。

何も、問題はなさそうだった。


「ご苦労様」

「亜妃こそ…帰って来てくれて良かった」


目の前の同じ顔をした彼女は、さらっと言葉を返す。

宮木家か船か、どっちがマシか…答えは出ていた。

宮木家は無視をすれば普通の家だ。


…本当に?


瞬時に疑問が頭を過る。


人を食うか食わないかの違いだけじゃないか?

殺しかける事は多々ある。

自分がされる側か、する側かの違いで…。


グルグルと考えている間、身体は悠衣と無意識に話していた。

勇弥のその後の話を聞いたと、悠衣の口から悲惨な勇弥の結末を聞いても、その代わりに次の開催には祐基が行く事を聞いても、亜妃の耳には入っても頭に入らず通過していく。


「あのさ…」


亜妃はしゃべり続ける悠衣を制した。

相手がしゃべる事で罪悪感や居心地の悪さをどうにかしたい。と、考えている事も分かるが、亜妃にはしたい事が有る。


「間島…貸してくれない?」

「えっ?」

「調べたい事があるから」

「…」

「呼んできて」


紅茶を一口飲む。

給仕していた女中が、走って部屋を出て行った。

数分も経たぬ内に、お母様が間島と一人の黒子を伴って入って来た。


「何を調べたいの?」


お母様が言うが、亜妃は返答しない。


「貴女付きの黒子は…この黒子です」


一緒に居た若い黒子が頭を下げた。

ここにさっきの銃が有れば、話が速いのにな。と、亜妃は思う。

その黒子を殺して、居なくなったから。と、間島を要求する。

ただそれだけで、話は進む。


無言で自分を見る亜妃に、お母様はため息を吐いた。


「間島じゃなくても、調べる事は出来るわ」

「そうですか…。じゃ、私…宮木亜希に関わる全ての人の素行調査をしてください。過去の経歴も現在も、ありとあらゆる行動を仕事や人間関係含めて」

「親と兄姉?」

「いいえ、亡くなった祖母から通っていた園の保育士、学校教師もです」

「分かったわ…」


去ろうとするお母様に「もう一つ」と、亜妃は付け加える。


「次の入れ替わりの時、大お爺様に会わせてください」

「そうね…それに関しては一週間後には叶うわ」


お母様は亜妃付きの黒子を置いて、去って行った。

皓兄の様に、まだ間島を使えない事に「ちぇっ…」と、亜妃は少し拗ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ