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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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40

亜妃を気に入った叔父は、事ある毎に亜妃を部屋へ呼んだ。

そして、宴を開催する。

闇事はいつも夜に行われた。


そして、明け方には清掃を行う。

タイル張りの部屋には、毎日の様に子供が床の上に並べられていた。

体中、血と客人の体液で汚れ、震えながら泣いていた。


その子達に設置されているシャワーで、お湯をかけてやる。

傷が染みるのか、声を一層大きくして叫ぶ子も居た。

全ての子が、鎖で繋がれていた。


あの貨物船では見ていない子達だった。

いつかの部屋の前で聞いた叫び声の主達なのだろうと、亜妃は思う。


あの部屋で客人が子供を追いかけ、追い付かれた子が襲われる。

男児であろうが女児であろうが、客人は穴さえあれば良いのだ。


船内には、壁に鎖が並んでいる部屋もあった。

両手足が固定され、拷問される部屋だった。


ここでは大人の女性が、多くの男に蹂躙された。

代わる代わるの暴行に、叫び声すら上げなくなると切り刻まれる。

泣き喚き、半狂乱な様子をみて、客人達は更に興奮を得ていた。


両方の部屋に共通するのは、床がタイルである事。

要するに、掃除がしやすい作りになっていた。


血、体液、肉、骨。

子供の叫び声、女性の悲鳴、客人達の歓声。


毎日それが繰り返される。

子供達は居る時間が長くなればなる程、表情は無くなり泣きも喚きもしなくなった。

そうなってくると、客人の求める「面白さ」が無くなる。

面白さの無くなった子供は、叔父のまな板に上がるか、より非道なおもちゃにされるかだった。


「こいつ捨てておいて」


客人に子供を投げて寄越される事もあった。

大型船が近付き、物をやり取りする時もあり、その後に清掃に入った先で、泣き叫ぶ子供を見ると「あぁ、入りたてだ」と分かる様にまでなった。


たまに人形化した者を、解体するプランが出来る。

そんな時も、叔父は亜妃を呼んだ。


脳が恐怖や痛みで委縮し、叫び声も上げない人間をポーカーやルーレットで賭ける。

勝者が解体のルールを決めた。


一人で好きなだけ解体し、疲れたら交代する。

もしくは、全員にサービスだと参加型にする者もいた。

解体される側はいつも生きたままだ。


身を寄せ合って震えていた子達も、いつの間にか居なくなる。

半開きの目でブツブツと何かを唱えている子も、壁の片隅で溜まったゴミを眺め続けたあの子達も…。

皆、居なくなっていく。


「助けて」


亜妃に懇願する子も中には居た。

袖を力なく引っ張り、縋りつく様によじ登って来る。


「ごめん」


床をモップで拭きながら、そう答えては手を剥がした。


「お腹が痛い」


そう訴えられても、何もしてやることは無い。

嘔吐の始末は大抵、黒子がした。

何かあった時に『捨てれば良い』からだった。


人間を人間として扱わない場所で、亜妃は拷問と解体と言う殺人を見続けた。

縋りついて来る人間の目の中に、線虫が蠢く様を。

皮膚に赤い線が浮かび上がり、気持ち悪さなのかむず痒さなのか、のたうち回る様を。


無理やり口を開き、グラス一杯の線虫を流し込む客人達の姿を見続けた。

鋸を一引きしては笑う、あの者達の顔を。

引き攣り、痙攣し始めた者を、意識があるのか無いのか確かめる為に、鉄の棒で殴り始める姿も。


「ごめん」


亜妃は繰り返し謝った。

頭を殴られ、瞳孔不同になった子供が、海から投げ捨てられた時も。

全裸の女性がロープに吊るされ、手摺から落とされた時も。

「ごめん」と、ただ一言いい続けた。


こんな事の為に、生まれた筈じゃなかったのに。

でも、壊れかけた頭で、何もかもが麻痺して…。

身体の痛みも心の痛みも感じなくなって、まだ生きていたいか?


貨物船でみた赤子が、飾り立てられた挙句、慰み者として消費されていく。

リボンで着飾った彼や彼女達が、腸を破かれ股を裂かれ、力なく床に落ちる。


それを黒子と一緒に片付けながら、終われば飯を食った。

人の死を見ながら、自分は生きる為に、気遣われ暖かい飯を食う。


『もう、帰りたい。あっち側の人間…は悪魔だ…』


幼い声の、昀の言葉が頭に過る。

でも、もう亜妃は引き返せない。

昀も勇弥も、その指導係の河南や皓兄とも同じ道を辿っている。


そして、亜妃は何をしても消えなかった、震えて泣く子供を抱えている感覚が、いつの間にか無くなっていた。

ただ、いつも酷く寒い。

身を震わせる程の、寒さが離れない。


「亜妃様」


黒子の一人が、身を縮ませる亜妃に上着をかけた。


「様って言わないで」


後藤を思い出すから。


「分かりました」


すんなり受け入れる黒子の態度に、ようやく自分の地位が確立された事を知る。

時間は過ぎた。

地獄の時間は、もうすぐ終わりを迎える。


皓兄と昀は一族の待つ国へ帰国し、亜妃も日本へ帰る。

宮本家へ、黒子二人を連れて帰るのだ。


そこに勇弥も居るのだろうか?


怯えた彼の姿を思い出そうとするが、ハッキリとはしない。

それどころか船上での記憶も遠のいて行く。


ダメだ。


記憶の端を握りしめる様に、手に力が入った。


この記憶も感情も地位も、手放してはダメだ。


亜妃は目をぎゅっと瞑った。


だって、これを利用して、私は復讐するんだから…。


開いた目の先に、出発した時と同じ港が、朝焼けと共に光り輝いて見えた。

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