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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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38

二つのショーが終わり、絡み続けた客人が大人しく眠りにつく頃、四つの死体が入ったガラスケースを台車で船尾へ運ぶ。

水の入ったそれはかなり重く、皓兄と亜妃だけでは動かない。


叔父はショーが終わると、観客にお辞儀をして去ってしまった。

床はワインと体液塗れで、いっその事ここでガラスケースを倒し、水で流したい気持ちになる。

タイル張りならば、亜妃の希望はかなっただろうが、絨毯が敷かれている為、それは出来ない。


「計画に…無かった」


押しても引いても微かに車輪が動くだけで、進んではくれない台車を押しながら、皓兄が洩らす。


「あれば…場所を変更したモノを…」


二人が力を合わせて押す。


「…駄目だな」


力を抜いて、立ち尽くした。

皓兄は時計を見る。

仕事を割り振った黒子達の、進捗状況や手の空き具合を考え、携帯で電話をかけ名指しで寄越す様に指示した。


皓兄と亜妃のいる部屋は、今は換気がされて微かに残り香はあるものの、大分空気はマシにはなっていた。

皓兄は待って居る間、煙草を吸う。

亜妃も少し吸ってみる。


白い煙が、今は点けられている主照明の方へ流れる。

ガラスケースの死体は金魚が死ぬとそうなる様に、浮かんで揺れていた。


二人とも疲れていた。精神的にも肉体的にも。

しかし、まだ終わらない。

目の前のこれを捨てに行かなければ…それさえ終われば、今日は自室に戻れる。


「こんな事が…毎日?」


亜妃がへこたれる。


「ほぼ…な」


煙草を吸いながら、片方のつま先をパタパタと上下させる。

少しは苛ついている様だ。

それは黒子の人数が減った所為なのか。


「補充も早々出来やしないのに」


吸っては吐く。

皓兄は頭を掻きそうになり、止める。

前髪が降りた状態で黒子に会いたくはなかった。


「叔父様に頻度を下げたり、殺さない様にお願いは出来ない?」


出来るはずはないとは思いながら、少しの望みを期待する。


「叔父上が…コックが皿の上を「客を楽しませる為」に彩り工夫するのなら、俺達はそれをただ食べ易い様に並べるだけだ」


コックに配膳者は逆らえない。


「コックや客…『あっち側』は並べる『こっち側』の人間なんて見ていない。材料を作る準備する者達の事も見はしない。材料にすら…。気にするのはコックの料理が見目良く美味いか。ただそれだけだ」


亜妃は何となく理解できた。

所詮、コックは自分の賛辞を気にし、客は目の前の事を…演出や摂取によって得られる快楽に集中する。


何故、皓兄は叔父をコックに例えたのか、不思議ではあったが…あの宴会場や厨房でのことも含め…なのだろう。

比喩でもなく、本当に叔父がコックなのかもしれない。と、考えた。

あの、8を解体し料理した…。


「だから…終わらないんだ。この惨劇の宴は…」


ポツリと亜妃に聞こえないくらいの小声で呟いた。


「…ん?」

「いや、何でもない」


手を横で振り、紛らわす。

視線は亜妃には向けず、床のシミをじっと見ていた。


「遅くなりました」と、黒子が到着したのはそのすぐ後だった。

二人の会話は、聞かれていない。


来た黒子四人と亜妃達の合計六人で、台車の滑車もあってか漸く動いた。

これを二人で動かそうとするのは到底、無茶な話だった。


船尾楼甲板に出ると、涼しい風が胸に溜まっていた甘い匂いを飛ばしてくれる。

力仕事で火照った身体も冷め始め、亜妃はくしゃみをした。


「Bless you」


どこからかそう聞こえた。


「サンキュー…?」


亜妃が返事を返すと、声のした方に男が立っていた。

先程のスーツから着替えた皓兄の叔父だ。


「いやぁ、すまんな」


悪びれもせず、さわやかな笑顔で亜妃達の方へ向かって来た。

足に問題はない様だが、手にはいつも杖を持っている。


「いいえ」


硬い表情の皓兄が、緊張を悟られない様に取り繕う。

「怒らないでくれよ」と、叔父が笑う。

黒子を殺す事やあの男女を殺した事に罪悪感は無いらしい。


「これで、俺も首の皮が繋がるんだから」


先程の事を知らずに会えば、陽気で優しそうなオジサマに思えただろうが、軽さが怖い。


「これが終わったら二人とも食事でもどうかね?」


笑顔乍ら、叔父には有無を言わさない気迫があった。

チラリと皓兄を亜妃は見る。

食事は自室で、二人きりでしかとらない。そう決めていた。

何が入っているか。『何』で出来ているか分からないから、皓兄が作る物だけを食べて来た。


「心配し無くても人間は使わないよ」


亜妃の頭の中などお見通しだと言う様に、ふふっと笑う。


「皓も久しぶりだろう?亜妃君は初めましてだ」


どうだろうか?と問いながら、見据える目は捕食者の目だ。


「では…是非」


躊躇いながら、拒否権は無い皓兄はそう言って、頭を下げる。


「良かった!じゃあ、準備をして待って居るよぉ!」


両手を広げ、歓迎のポーズをしては船内に戻るドアへ行く。


「あ、そうだ。二人は『ちゃんと』着替えて来るんだよ」


そう言うと手を振り、船内に消えていった。

皓兄と黒子は、備え付けの荷物用クレーンに吊るされたロープをガラスケースに引っ掛ける。

そして支えながら、ゆっくりと倒していく。


水と四つの死体が、海に流された。

皓兄の、盛大なため息と共に。

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