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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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37

皓兄と訪ねた客室では、既に宴が開かれていた。

香炉が四隅と中央に置かれ、ゆったりとした煙を立ち上らせ、甘い香りを漂わせていた。


「マスクを」


皓兄が亜妃に気休めのマスクを渡す。

あまり吸わない方が良い、空気だった。


間接照明に薄暗く照らされた室内で、キングサイズのベッドが一つ設置されている。

色狂いと、下船したあの婦人に称された男が居た部屋と似た作りだ。

ベッドの上では複数の男女が絡み合い、腰を振る。


床上でもナメクジとカエルが絡み合う。

蠢くシルエットはどこが何なのか、分からない程一体化していた。


水気を含んだ音が、そこかしこから聞こえ、女の高い声が競う様に上がる。

快楽を貪る音だけが、ここでの会話の様だ。


全裸の大人の裸は、どこもかしこも毛むくじゃらで、女性ですら美しいとは思えない。

淫らに崩れた表情も、醜悪さを隠しきれずにいた。


しかし、香の匂いが欲情を更に搔き立てる。


興奮し過ぎた女が、男の肩に噛みついた。

容赦なく突き立てた歯は、沈んだ先の皮膚を割いた。

食らいついた口が離れると、歯型の血が少し滲む。


亜妃は胸が高鳴るのを、感じていた。

煙の所為か、この異様な光景の所為か。

ドキドキと動悸がしてくる。


チラリと横目で見る、横に立つ皓兄は平然としていた。

息が荒くなるのを必死に抑え、顔が火照るのを暗闇が隠してくれる事に安堵した。


喉が渇きでヒリ付く。

少しネクタイを緩め、息をゆっくりと吸う。

マスク越しでも、空気が甘い。


抱き合った女と女が、お互いの舌を絡め、乳や臍にキスをする。

その後ろで、女の尻にしがみ付く男達には眼中にないのか目もくれない。

二人の女を取り合う様に、その下半身を執拗に撫で、舐め、そこに在る穴に指や自身の物を挿れた。


ナメクジやカエルが、次第に巨大な蜘蛛の様になっていく。

枝分かれしては密着し、繋がっていった。


卵子と精子が手を取り合い踊る様に、狂った頭に相応しい体たらくで這いずり回る。

一度達した所で飽きる事は無く、長時間ずっとそれを続けていた。


不意に、部屋に流れていた曲が変わる。

幾分か静かな曲調は、興奮から冷静さを少し与えた様で、皆の動きが止まった。


「…」


亜妃も皓兄も無言だ。


入って来た方ではない、反対側のドアが開いた。

そこから、黒子達が二人掛りで、台車に乗せた何かを運び込んで来た。



それにかかっていた布を剥ぎ取ると、透明なガラスでできている箱が現れる。

上には蓋の代わりに柵で閉じられていた。


中には貨物船で見た、手足のない男女が一名ずつ入れられていた。

下には白い布団の様な物敷かれ、その上に裸で横たえられている。

透明なゆりかごの様にも見えた。

中の二人は状況が分からないらしいが、四肢が無いので動けずにいる。


「ピューィ」


どこからか口笛が聞こえた。

ゲラゲラと笑う裸の男達と女達は、いつの間にかグラスを持ち、ワインを飲んでいた。

ショーの始まりだ。


ガラスケースに近い、スーツ姿の男が上部の柵を杖で叩く。

鋭い金属音が二度響くと、その音に反応した二人の体がビクつく。

スーツ姿の男は二人に声をかけた。


「死にたくなかったら、ヤレ」と。


身震いした二人はゆっくりとお互いに近付き、胴体を擦り合わせる。

達磨がぶつかり合う様に、上手くは行かない。


勢いよくぶつかっては、転がる。

一人が合わせようとすれば、もう一人が転がり反対側へ。

縫い傷が見える太ももの先を、じたばたと前後に動かしては体勢を取り戻し、残った肩の先で這う。


抱き合ったり、引き寄せる術がない二人の様子をニヤニヤと見ていた客人の一人が、ケースに向けてグラスを投げた。

グラスが割れ、ワインが飛び散る。


それを受けて、スーツ姿の男が柵に杖を差し込み、男の尻を押す。

杖を軸に前に進むが、思うような形に成らない。

諦めたスーツ姿の男が柵を上げて、黒子が二人中に入った。


狭苦しそうな中、黒子は二人を抱え、観客に見える様に前を向けた。

こんな屈辱の中でも、手足の無い男は勃っていた。

黒子が女の股の間を弄り開けると、男のそれを近付ける。


「…」


女が何かを言ったが、客人達の囃し立てる声でかき消された。

両脇を支えられた男の腰が動く。

女は背を支えられ後退りも、何も出来ず涙を流した。


それを、目を反らさず亜妃は眺めた。

喜ぶ観客の顔も、ここぞとばかりに腰を振る男の顔も、口を大きく開けて叫びながら涙を流し続ける女の顔も。

ガラスケースの中で男女を押さえる、黒子二人の顔は皓兄と同じく無表情だった。


「何なんだ?これは」


皓兄に問う。


「悪趣味なセックスショーだ」

「本当に…悪趣味だな」


四肢の無い男女は、借金の形に売られたか、敵対するマフィアの部下か、裏切り者だと言う。

それらをお爺様のいる本国で、四肢を切り落としコンテナに乗せて運ぶ。

そして、大勢の目の前でさせるのだ。

客人達の好むショーの一つだった。


今回、あまり傷の状態が良いモノが無く2セット入れたが、どうやらもう1セットは出せる状態では無いらしい。

四体で蠢く様は、おそらく客人達の嗜虐性を大いに満足させただろう。


しかし今宵は1セットだ。

何度目かの参加者は「もっと目新しい物は無いのか」と、口々に言う。

黒子も参加し「ヤレ」と…。


命じられたら黒子はするしかないが、スーツ姿の男はそれを制し、細いホースを取り出した。

そして、上げてあった柵を下げ、鍵を掛けた。

中に黒子と男女を残して。


「叔父上の…悪い癖が出始めた…」


皓兄がため息を吐く。

黒子をこれで三人減らす事になった。と、愚痴る。

皓兄がそう言っている間に、柵の中に細いホースが入れられた。


後は分かり切っている。

水はガラスケースに溜められ、藻掻き苦しむ四人を見て喜び笑うのだ。

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