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復讐  作者: 樋口 涼
―宮木亜希と宮本亜妃―

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29

真っ暗の穴の中、周りが明るくなり、急にお母様の姿が浮かぶ。

亜希が会った筈の無いないお婆様の姿が、お母様を責める。


「姉は大人しくていい子なのに」


妹は!と、亜依を立たせて怒鳴っている。

その横で悠衣は椅子に座っていた。


「どうせこの子が唆したんだ」


怒られている亜依の視点が自分に重なる。

横に座る悠衣に居た堪れなさを感じはするが、自分を庇いもしない。

本当は「部屋へ行こう」と悠衣が先に誘ったのに。


「私じゃない」


勇気を振り絞って声を出した。

その瞬間、身体に振り下ろされたのはお婆様の杖だ。


「また、そうやって口答えをする!」


何度も何度も振り下ろされる。

痛みで動けなくなっても、悠衣もお母様も助けてはくれない。


周りにいる世話人も、目を反らし俯いている。

お婆様の気が済むまで、殴られ続けるのだ。


亜依と亜希が重なる。


亜依はお婆様に杖で殴られ、亜希は母親に布団たたきで殴られる。

亜依は悠衣に見放され、亜希は一華に虐げられる。


「妹だから」

「妹なのに」


次々に言葉が投げつけられる。


「お姉ちゃんは」

「お姉ちゃんに」


亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希…。


立ち位置も記憶も、全てが交じり合い、どちらがどっちか分からなくなる。


亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希亜依亜希…亜依亜妃亜依亜妃亜依亜妃亜依亜妃…。


私は…


亜依亜妃亜希亜依亜妃亜希亜依亜妃亜希亜依亜妃亜希亜依亜妃亜希亜依亜妃亜希亜依亜妃亜希亜依亜妃亜希亜依亜妃亜希…。


何…?


グルグルと回る。

頭も視界も。

混乱は加速していく。


「お姉ちゃん」


亜依の声。


「お姉ちゃん」


亜希の声。


お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん…。


悠衣と一華の姿。


お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん…!!!


ねぇ!!!お姉ちゃん!!!

助けてよ!!


夢の中で叫ぶ。


お姉ちゃん!!!


涙を流しながら、胸を掻きむしり、引き攣られるような声で叫んだ。


お姉ちゃん!!!


亜依亜妃亜希悠衣一華。


フラッシュの様に一瞬一瞬、繰り返し繰り返し、映っては消え映っては消え、目の前に現れる。


ねえ!お姉ちゃん!!!どうして私を殴るの!?

ねえ!お姉ちゃん!!!どうして万引きさせるの!?

ねえ!お姉ちゃん!!!どうして罪を擦り付けるの!?

ねえ!お姉ちゃん!!!どうして私を脱がしたの!?

ねえ!お姉ちゃん!!!どうして私に挿れたの!?

ねえ!!ねぇ!!お姉ちゃん!!!

どうして!どうして!!あんな事させたの!!!


部屋で股をふくティッシュに、薄くなった血が滲む。

涙が止まらないまま、服を抱えて廊下に出た。

そこで出会った兄は、鼻で笑って一華が居る部屋に消えた。


ねえ!お姉ちゃん!どうして嘘を付いたの?

ねえ!お姉ちゃん!どうして貴女だけ笑ってるの?

ねえ!お姉ちゃん!!!どうして罪を擦り付けるの!?

ねえ!お姉ちゃん!!!どうして私を殴らせておくの!?

ねえ!お姉ちゃん!!!どうして!?貴女が言ったのよ!

ねえ!!ねぇ!!悠衣!!!

どうして!どうして!!助けてくれないの!!!


部屋で鏡越しに見る背中や腕は酷く腫れて、所々血が滲む。

涙が止まらないまま、用意だけはされた氷で届く所を冷やす。

部屋のドアが開いて入って来た悠衣は、自分の部屋に消えた。


「「誰も助けてくれない」」


四つん這いになり、床に付いた手に力が入る。


「「誰も助けてくれない」」


私がどれだけ傷付いても。


「「誰も助けてくれない」」


『助けてくれなかった人達が憎い。』


大お爺様の声がした。


「「助けてくれなかった人達が憎い」」


亜依と亜希の声も大お爺様の声に重なる。


『傷付いた人間から、弱い方へ加害性は流される。』


なら…。私も…。


黒い道が目の前に広がる。


「触られたくなかった」

「比べられたくなかった」


「舐めたくなんて無かった」

それも…姉の。なんて。

「私はやってないのに」

全部の罪を、私に被せようとする。


「「殴られたくなかった」」


血が滲むだけに終わらない。

ずっと、ずっと、血を流し続けている。


「「私の心は」」


お前達には見えないかも知れないが!

ずっと!!


亜妃は四つん這いの姿勢から、ゆっくりと立ち上がる。


「傷付いた人間が、違う人間を傷付けても許されるなら…私もそうして良いはずだわ」


亜妃は黒い道を、ゆっくりと歩き始めた。

足はフワフワと覚束無い、腕も感覚が無い。

それでも、痛みと鼓動の速さは感じた。

怒りが体中を駆け巡っている。


「私も…そうして良いはずだ」


『助けてくれなかった人達が憎い。』

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