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復讐  作者: 樋口 涼
宮木一華と宮木亜希

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105/107

―現在―

爆発で発生した風が二人を包み、粉塵が巻き上がる中。

亜希の問いに答えられず、地面に這いつくばったままの一華を見下ろす。


会わない時間が短くても、長くても、結局は亜希を一華は分からないのだ。と、思う。


期待した私がバカだったんだ…。


ゆっくりと目を閉じて、目を開けると、一華に被って見えていた子供達は消えた。

ただ、怯える姉の姿だけがそこには在った。


一歩、足を踏み出す。

その分二人の距離が縮まる。


もう一歩、進む。

一華の目が周りを彷徨い、左右に首が振れる。

誰かに助けを求めていた。


「誰も助けてくれないよ。親も友達も、国だって助けてくれない。自分しか自分を助けられない。そうでしょう?」


足を止め、一華に諭す様に語り掛ける。


「そう…誰も助けてくれないんだ…」


亜希の遠くを見る様な目つきに、一華は震えた。

その震える肩に、亜希の靴裏が触れ、体重がかかる。

強い力に一華は態勢を崩した。


ザリッとした感触が、一華の手に伝わった瞬間、彼女の腹に重みが掛かった。

倒された一華は、亜希に踏みつけられていた。


「この国でも、国は国民を踏み付けてる…。貴女は俺が踏み付けて居るけど…な。一華ちゃん」


一華を踏みながら、顔を覗き込む亜希の目は、光さえも入らない真っ黒な瞳をしていた。

真っ黒い石。

こんな目を妹はしていたのか?と、一華は考えたが、妹の目をじっくりと見たのは遠い昔。

長年、お互い目を合わせて来なかった。


「ずっと…踏み付けられて来たんだ。やり返しても…復讐しても良いだろ?」


今朝の妹とも、さっきまでの妹とも違う、男性の様な声で自分を踏みつけ、復讐を口にする妹。

冷たい黒い目からは、何の感情も読み取れない。


「何が…あったの?亜希」


目の前の妹に、恐る恐る聞く。


貴女…そんな、こんな感じじゃ無かったじゃない。

弱くて…私にされるがままの…。


「ねぇ…この爆発とかって…亜希の所為なの?」

「そうだな。俺が、仕掛けさせた」

「私に復讐する為にこんな事を?」


一華は血の気が引いた。


妹がどこからか爆弾を手に入れて、街を…人を殺すなんて。

今までも、普通に暮らしてきたのに、いきなり…?

こんな、非日常が…妹の手で?


地続きの自分の人生の中、何もかもが普通の日常だったと、一華は思う。

一時期、殺人が身近に迫ったが、知り合いが死んだのみで、自分に関わる事は無かったと。

しかし、今は…目の前の妹が、他人を巻き込み、自分も窮地に陥っている。


「ううん、ついでだよ。ついで」


目に光が無くなったまま、軽く亜希が答えた。

声には動揺も何も無い。

本当に、たまたまついでに。と、悪びれる様子も大それた事をしていると言う自覚もない。


「…何…の?」


一華は話をしながら、亜希の足の下から抜け出す機会を待った。

しかし、右に動けば右に、左に動けば左に。

亜希の足は一緒に動き、より強い力で踏みつけて来た。


「この爆破はどうせガス爆発の事故として処理されるんだ。中に居た人達も巻き込まれただけ。ターゲットが誰か…なんて、分かる人に分かれば良いんだ…そのついで」


「お片付けのついでだよ」と笑い、亜希はコートのポケットから煙草を出した。

そこから一本出し、火を付ける。

いつの間にか煙草を吸う様になった妹は、いつもの習慣の様に咳き込む事も無く、一息吸っては吐く。


「こんな…事をして…どうすんのよ」


警察に捕まって犯罪者になるのに。


「人が…死んで…怪我をして…」


自分達の周りにぶら下がる遺体や、建物内の人達を思い、足蹴にされながらも一華は余裕面の妹を睨んだ。

その顔を見て、亜希はニヤっと笑った。


「君達は目立つ虐待事件や、分かりやすく残酷な事には『可哀想』って言いながら、自分は同じ事をする」


ぎゅっと腹を踏みしめられ、一華がうめき声をあげた。


「止めて…苦し…痛っ…」


一華の目に涙が浮かぶ。

ある日の自分が亜希にした様に…あの時の亜希が懇願した様に、止めてと繰り返した。

一華の亜希に反抗する意思が、縮んでいく。


「そんなに嫌だって…そんなに…痛かったって知らなかった!…ごめん!…ごめん亜希!」

「嫌だって言ったじゃん…痛くない訳ないじゃん。痛いし苦しいし!死んだ方がマシだってずっと!ずっと思ってた!!」

「…許して…ゆるして…よ…亜希」

「許さない。許せないんだよ!もう!」


煙草を勢い良く投げ捨て、叫ぶ。


「全部!全部!どこに行っても!誰もがあんたみたいに!何もかもを踏み付けるの!」


何度も足を上げては、一華の腹に下ろす。

その度に一華が呻き、叫んだ。

しかし亜希は勢いを緩めず、気が狂った様に何度も踏みしめた。


「居ないみたいに!」


叫ぶ亜希の両目から、止めどなく涙が流れる。

砂ぼこりや煙の所為では無い。

心が嗚咽を上げる。

亜希はふらつき、足を一華から離した。


「それに…」とよろけながら地面に足を着いた亜希が、腹を抱え苦しむ一華を見る。


「今頃、私の代わりに捕まってるわ。亜希の居場所を奪った女が、亜希の代わりに!!あはははは!!!ざまあみろ!…ってそんな目で見ないでよ…いっちゃん。」

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