姉妹喧嘩
結局、ルミナとルシフェルが揃ってジョニーに奢ってもらうだけで終わってしまった次の日、俺は下校時で帰るところだった。
生憎の雨で部活の練習は休みで、高校にもバスで登校していたのでサタン達と帰ることになった。
サタンとルル、ルミナが話しながら歩いている後ろをリヤド共に歩いていた。
昼間はかなり雨脚が強かったが、今はポツポツと降っているくらいで歩いていても制服がぬれたりしないのでありがたい。
「そういえば、お前ってルルちゃんの結婚相手については知っているの?」
特に話す話題もない俺はリヤドにふと話題を振ってみた。
前を歩くサタン達は何やらアニメの話をしているようだが、このリヤドに関してはこちらから何か話題を振らないと本当に何も話さない。
サタン達はルミナのことばかり弄っているが、リヤドも大概だと思う。
「噂程度には、かな。正直、ウィザード家とそこまで関係性の深い家柄じゃないのもあるからな。ウィザード家は純潔のイングランド人なのに対して、ヴェネーノ家はイタリアにルーツを持つ家柄だ。」
「ルーツとかそんなに関係あるのかよ?」
「まあ、それなりにはな。中世時代にイギリス国内の魔術を進歩させるためにわざわざイタリアから呼んで来たという話がある家だったはずだ。そういう意味でも、ウィザード家とあまり仲が良いとは言えない。」
「本当に面倒だな、魔術師って。ドロドロしすぎだろ。」
俺は呆れるように言う。
リヤドもそれは同じ気持ちなのか、フッと笑った。
「その通りだな。中世時代からの慣習だのをいまだに頑なに守ろうとするような奴らが多い。君もあまり関わらないことをオススメするよ。」
「関わりたくなくても無理やり関わらせられてることについてはスルーですか…。」
俺は前を歩いて、楽しそうに話しているサタンに視線を移しながら言う。
家族はもちろん親戚関係にも極力巻き込まずに俺だけの範疇で事が収まっていることが不思議でならない。
本当にいつかは、家族達に迷惑が及ぶのではないかと心配だ。
そんなことを思っていると、交差点の信号が赤になった。
俺達は並ぶようにして、信号の前に立った。
「そういえば、ルルが次にあの男と会うのはいつなのだ?」
サタンがふと思い出したようにルルに尋ねる。
昨日は、あの後にルルが直接連絡をしてジョニーに謝ったらしい。
ジョニー側も別に気にする様子もなく許してくれたらしい。
「一応、今週に会う予定ですよ。」
今までなら日程まで細かく教えていたルルが珍しく、ぼかしたような言い方で答えた。
ジョニーの都合もあって曖昧なのだろうか?
「日程はまだ分からないのか?」
「うーん、決まってはいるんですけどね。お互いが合うかどうかが微妙なので。」
ルルはサタンにニコリと笑いながら答える。
サタンが怪しいと感じたのか、少し語気を強めるようにして質問をする。
「何かはっきりしない言い方だな。何かあったのか?」
心配そうにルルに尋ねるサタン。
そんなに質問攻めする意味もないと思うが、やはりどうしても妹の結婚が認められないのだろう。
本当に過保護な姉だと思う。
「何もありませんよ。それと、もうお姉さまがわざわざ色々しなくても大丈夫ですから。後のことはちゃんと私がしますので。」
ルルがもうサタンに手伝ってもらう必要はないと珍しく断っていた。
ルルからしても毎回のように何かしら企んであれだこれだとするのが嫌になったのだろうか。
常識的に考えたらそうなのだが、これまでのルルを見ている感じ楽しんでいる風すらあったので今更こんなことを言い出すのが意外だった。
本当に何かあったのだろうか?
「なあ、ルル。本当に大丈夫か?いや、昨日の夜にかなり長い電話していたじゃないか?もしかしたら、脅されたりしたのか?」
サタンが珍しく心配そうな顔をしながらルルを問い詰める。
ルルは特に顔色に変化はないようだ。
ただ、何かを隠している時は割と表情を読まれたくないのか顔色を変えない子だ。機嫌が悪い時は分かりやすいが、それ以外の感情の変化はあまり分かりにくい。
「大丈夫ですよ。私だってもう来年には高校1年生です。自分の結婚の話くらい、自分で解決しますから。」
頑固にもう姉の助けはいらないと言い張るルル。
これは多分どっちも譲らないパターンだなと俺は思った。
サタンとルル、どっちも一度言い出すと引かないタイプだ。ルルは普段は一歩引くような人間だが、一度これだと言い出したら中々に強情なところがある。
それは身内に対してはより顕著だ。
「いや、私は本当に心配して言っているんだぞ。脅されたりしていないのかとか、何か弱みを握られたりとか。もしそうなら、私がお父さま達に言って何とかしてもらえるだろうし」
しつこく、ルルから事情を聞きだそうとするサタン。
信号はとっくの昔に赤から青に変わって、点滅も開始していた。
周りには同じように下校中の同じ制服を着ている学生が多くいた。
少しばかり、視線を感じる気もする。
サタンが、なあルルと肩を掴んで再度聞き出そうとした時だった。
「大丈夫ですから!」
ルルが突然大きな声を出して、サタンが掴んでいた手を振りほどいた。
そして、繰り返すようにもう一度サタンに言った。
「大丈夫ですから!だから、お姉さまはもう今回の件は関わらなくて大丈夫です…。」
周りを歩いていた学生達の視線が一斉にこちらを向いた。
正直言って、そんな視線のことなど気にならない程にビックリしたのは明らかだった。
それはルミナも同じだった。普段、表情がほとんど変わらないリヤドですら驚いたような顔をしていた。
サタンに至っては、少しばかりフリーズ状態になって固まっていた。
しかし、すぐにルルに言い返す。
「私はお前のことを心配して言っているんだぞ!もしかしたら、大変なことに巻き込まれているんじゃないかと思って!」
完全にムキになって言い返していると分かった。
これは、どちらも一歩も引かないパターンだ。
「だから、大丈夫と言っています!これは私の話です!だから、自分のことくらい自分で解決すると言っているのです!」
ルルも負けじと言い返す。
この2人がこんなに言い合いをするなんて初めて見た気がする。
まあ、いつもはルルがサタンの言葉に一歩引いて従っているから喧嘩にならないだけなのかもしれないが。
それでも、ここまでしっかりとお互いに言い合っているのは初めてだ。
「お、落ち着いてください!人も見ていますから!」
ルミナが慌てたように2人の間に入る。
サタンもルルもお互いに完全に興奮していて、周りが見えていない状態だった。
先程から、他生徒の視線が痛い。
ひそひそと何かを話している声も聞こえる。
サタンとルルに関してはその容姿も相まって、美人転校生姉妹としてそれなりに有名になっている。
「ほら、そんなに2人とも怖い顔をしないでください。サタン様も流石に関与しすぎていたかもしれませんから。」
珍しく、ルミナが2人を宥めている。
中々に見れない光景なので、少しばかり新鮮な気持ちだ。
まあ、サタンとルルの口喧嘩なんて言う珍光景を前にしては些細な話ではあるが…。
「…大丈夫です!本当に大丈夫ですから!」
ルルの方は少し落ち着いたのか、先程よりかなり声のトーンを落としてサタンに言う。
しかし、サタンの方はまだ落ち着いていないのか上ずった声で言い返す。
「突然、そんなことを言い出したら誰だって心配になるだろ!やっぱり、次いつ会うのか正確な日時を教えろ!私も同行する!」
「だから、その必要はないと言っているでしょう!私の人生なんです!お姉さまの人生とは違うのです!」
「お前の人生だから心配して言っているのだろ!」
サタンがルルの胸倉を掴んで顔を真っ赤にして言う。
ルミナが必死な表情でルルからサタンを引き剥がそうとする。
収拾がいよいよつかなくなってきた。
「落ち着けよ、ルミナちゃんも言っているけど周りから見られているぞ。」
俺はサタンに言う。
ただでさえ、見た目で目立ちやすい女なのだ。数日は何かしらの噂が校内でされるだろうなと思った。
サタンは流石に俺とルミナが間に入ったからか、ようやく少しは冷静さを取り戻していた。
「本当に大丈夫なのだな?」
サタンが見下ろすようにしてルルに尋ねる。
ルルもサタンの目をジッと見上げていた。
「大丈夫です。私を誰だと思っているのですか?サタン・ウィザードの妹です。危ない目になんか遭うと思うんですか?」
ようやく落ち着いたか、と思った。
まさか、公衆の面前で喧嘩をし始めるとは思っていなかった。
俺とルミナは少し疲れたように2人から離れる。
「今度、会う日にはジョニーさんとどう結婚を中止するかの話し合いをする予定なんです。だから、お姉さまに来てもらう必要はありません。」
意外な言葉が出てきた。
急にどういう展開なのだろうか。サタンも流石にその言葉には虚を突かれたようだった。
「どういうことだ?」
サタンはルルに顔を近づけて、聞き返す。
ルルはその間もサタンの目をジッと見つめていた。
「そのままですよ。ジョニーさんも私と結婚すること自体特に望んでいません。だから、2人でジョニーさんのお父さまに断りをしようと。その段取りを決めるだけです。」
サタンはルルの顔をジッと見つめていた。
嘘を言っていないか確認したいのだろうが、お前にそんな器用なことが出来るわけないだろと言いたい。
「…分かった。一応それを信じる。」
サタンもようやく諦めたのか、掴んでいたルルの方から手を離す。
しかし、まだ心配そうな。そして信じていなさそうな表情を浮かべていた。
ルルはそんなサタンに対して笑顔を向ける。
「大丈夫ですよ。上手く行きますから。先程も言いましたよね?私を誰だと思っているんですか?ルル・ウィザード。サタン・ウィザードの妹にしてその右腕になる女ですよ。」
ルミナみたいなこと言ってるな、と思った。
その名乗りの口上は割とベタなモノなのだろうか。
今度、俺も使ってみようかな。
「でも、もし上手く行かなくて結婚になったらどうするのだ?だって、ルル。お前は…。」
サタンが小さな声で言う。
「お姉さま。それ以上は言わないでください。流石にそれはライン越えですよ。」
ルルがムッとした顔をすると、信号が青に変わった交差点を先に歩き始めた。




