2人でストーカー
サタンとルルが喧嘩をしたその週の週末、予定通りルルとジョニーが俺の知る限りでは3回目の顔合わせの日になった。
正直、2回目の顔合わせに関してはルル本人は会わずにルミナとルシフェルによるナンパがあったので実際に会ってはいないが…。
そもそも、あれをナンパと呼称していいものかも謎だ。ただ、声をかけて食事をおごってもらっただけにしか見えていなかった。
今回は駅前の店で食事をするらしい。
そして、ちょうどルルとジョニーが時間通りに待ち合わせしていて店に向かおうとしていたのを俺とサタンは建物の陰から眺めていた。
「今のところは、何もなさそうだな…。」
サタンの声が頭上から聞こえる。本当に何でこんなことを俺はしているのだろうかと自問自答したくなる。
「俺まで来る必要あったのかよ…。」
俺はサタンに呆れながら尋ねる。
あの喧嘩の後、ほとんど家にいてもルルと口を聞いていなかった。
それでいて、今日の予定をどうにかしてルルに内緒で調べたそうでコッソリと隠れて様子を見ているというのが今の状態だ。
正直言って、ストーカー以外の何者でもないと思っている。
ここに警察が巡回していたら確実に声をかけられるような事案だ。
行きたくない、とサタンには朝から言っていたが無理やり連れて来られた。
これだから、筋トレをしている馬鹿力女は困るのだ。俺ももう少し、筋トレを頑張ろうかと考えざるを得ない。
「お前はルルのことが心配じゃないのか?」
サタンがルルとジョニーの様子をジッと見ながら言い返してくる。
心配と言えば、心配だが、別にただ未来の婚約相手と食事をするだけだろうと言いたい。
ましてや、そもそも両家の顔合わせすら行われていない、完全に向こう側が勝手に行っているだけの状態だ。
相手自体も悪い人間ではないのだから、そこまで神経質にならなくてもと思う。
「相手側の家の話ならそりゃあ、ちょっと心配だけど。相手自体は全然ルルちゃんに申し分ない相手だろ。お前が過剰に反応しすぎなんだよ。」
中腰で物陰に隠れて様子を見る俺はサタンに言い返す。
頭上にいるサタンが肩に体重を乗せて乗り上げるようにして様子を見ているので、先程から肩が痛い。
もう少し、力を抑えて欲しい…。
「いや、いい顔しているだけであの男の本心もどうかは分からないだろ?私は全く信用していないからな。」
「そんなことを言い出したら、一生ルルちゃんの結婚相手なんて見つからないと思うんだが…。」
もう、将来はこの女のお眼鏡に叶った男をルルに紹介してきそうだなと思った。
ルルもこんな過保護な姉を持って可哀そうに。
自分が長男であることにこの時ほど良かったと思った日はなかった。
そもそも、この女のお眼鏡に叶うような男がいるかも謎だからルルは一生独身で終わるかもしれない。
いや、ルル本人からしたらサタンの隣にずっといられるからそれはそれでいいのかもしれないが。
「別にそれでいいと思っている。怪しげな男にルルを渡すくらいなら、私の隣でずっといてもらった方がマシだ。」
「お前が俺の姉じゃなくて、本当に幸運だったと思うよ。自分の発言を録音して聞いてみることをオススメするよ。シスコン拗らせすぎてることを自覚出来るだろうから。」
「大丈夫だ、世の姉はみんな同じ考えだと思う。」
「それだけはないと断言してやるよ。そんな奴ばかりだったら、一生結婚出来ない妹が続出する地獄絵図が現れるだろ。」
俺とサタンが小声で、ルル達にバレないように言い合う。
もう、この姉は手遅れだ。今回結婚の話が無くなったとしても、こういった話が出るたびにこんなことに付き合わされるとか貯まったものじゃない。
「歩き始めたな。追うぞ。」
待ち合わせた場所でルルとジョニーが少しばかり会話をした後、歩きだしたのを見てサタンが俺に声をかける。
今の俺達の格好はどこから持って来たのか分からないサングラスに帽子という不審者にしか見えない見た目である。
これであの2人にバレないとサタンは自信満々だったが、絶対にいつもの格好をしていた方がバレないだろと言いたい。
俺としては、周りを歩いている人間に通報されないかが不安だ。
「もう有名人の密会現場を調査しているパパラッチの気分なんだが…。」
俺はため息交じりにサタンに言う。
サタンはそんなこと知ったこっちゃないといった表情をしていた。
こんなことしているのがバレたら、いよいよルルから愛想をつかされそうなのだがそれでいいのだろうか。
サタンはすでに角を曲がった2人の後を追うために隠れていた建物の陰から出ていた。
俺は聞く耳を持たないお嬢様の後を追った。
「本当に今の行動がバレたら、いよいよルルちゃんも本気で怒りそうなんだがそれでお前はいいのかよ?」
俺は再び物陰から2人の様子を見ているサタンに尋ねる。
サタンは、俺の言葉を無視して2人の様子を眺めていた。
俺は都合の悪いことは無視する人類最強の後ろ姿を見て大きなため息を吐いた。
「別にルルが本当に結婚したい人を見つけて、私の前に紹介してくれるのならいくらでも赤飯でも鯛でも何でも振る舞ってやるさ。」
突然、サタンが俺の方を見ないで言葉を発し始めた。
その言い方は俺に対して言っているのか、自分自身に言っているのかいまいち要領を得ないモノだった。
「だけどな、あいつが本当に結婚を考えているような、好意を抱いている相手はあの男じゃないんだ。私はあいつの姉だ。それくらい、あいつ自身が言わなくても何となくで察することくらい出来る。」
「そうだとしても、お互いの家の都合とか色々あるんだからそこはしょうがないだろ。そもそも、お前1人で反対したところで、ルルちゃんが互いの家のことを考えていたとしたらそれで話は完結してしまうんだから…。」
ルルの思い人が誰なのかなんて見当もつかないが、正直誰よりも周りの評価を気にするあの子が見合い結婚となったらそれを了承する未来は分かり切っている。
例え、今は断ったとしても別の誰かが次のターゲットとして狙われるのかもしれないのだから。
それがもしかしたらサタンの可能性だってあるかもしれない。そうなったら、ルルという少女は自分から名乗り出ることは簡単に想像出来る。
「だからだ。だから、あいつの相手は私が決めてやるのだ。あいつがすぐに周りのことを考えてしまうような性格だからこそ、なおさらだ。」
「それで1週間近く、全く何も会話すらしなくなるレベルの姉妹喧嘩を始めたとしたら世話がないな。」
俺はどちらも自分の意見を変える気がない強情な姉妹のことを想像しながら、その姉に言う。
ルルもルルだと思う。ここまで姉のサタンが言うのだから、もう断ってしまえばいいと思う。
そうすれば、とりあえずサタンから何も言われなくなるのは分かり切っているのに。
「そもそもおかしいと思わないか?あいつが、割と積極的にこの話を受けようとし始めたのはあの電話があった日からだ。」
サタンは俺に話を続ける。
あの電話、とはサタンとルルが喧嘩をした前日にルルへかかってきた電話のことだ。
1時間以上話していたのだけは覚えている。
ただ、ルルが外に出て話をしていたのでどんな内容だったかまでは分からないが。
相手はフォードからだったのはルルがサタンに言っていたので、覚えている。
「まあ、それはそうだけどさ。だからって、何度も言うがこんなことまでする必要はないと思うんだけど…。」
俺はルルとジョニーの様子を見る気はなかったので壁に背中をよりかけてサタンの隣で話していた。
「分かっている、こんなことしていて何をしているんだろうって自分でも。でも、怖いんだよ。ルルが知らない場所に行ってしまうのが。例え、血が繋がっていなくても私にとっては物心ついた頃から一緒にいる大切な妹なんだよ。」
サタンもルルとジョニーの様子を見るのをやめて、座り込んでいた。
俺は膝を抱えて座り込んで顔をうずめているサタンを見ながら、再び大きくため息をついた。
どうして、この姉は妹離れがこの年になっても出来ないんだと呆れる。
妹の方がよっぽど姉離れが出来ていて、大人になっているというのに。
「だからと言って、いつまでも自分の隣にいてもらうなんて訳にもいかないだろ。あの子にだって自分の人生があるんだから。まあ、あの子がお前とずっと一緒にいたい。結婚なんてする気はないって考えだったら話は変わるかもだけど。」
俺は視線を正面に向けたままサタンに言う。
休日の駅前というだけあって、子連れの夫婦や若いカップルがそこかしこで歩いていた。
そもそも、こうやってワガママを言っているサタンにだって将来はそういう相手の話だって来るのかもしれない。
その時に、妹離れ出来ていなかったらどうするのだろうと心配になる。
「…本当はそうであることの方が嬉しいんだけどな。」
「…やっぱり、ルルちゃんは今すぐにでもこの話を受けてお前の前から強制的に離れて妹離れをさせてあげた方が世のためだと思う。」
俺はどうしようもないシスコンに言い放つ。
コイツはもう手遅れなのかもしれない。
「だって、お前だって弟がいるから分かるだろ!お姉さま、お姉さまって小さい頃から慕ってくれた妹が突然自分の前からいなくなるんだぞ!」
「俺はお前ほど、自分の弟に慕われていた思い出はないよ。そもそも、俺は弟より妹の方が欲しかったと今でも思っている。」
「ムー。そんなんだから、弟から尊敬されないんだぞ。」
「シスコンかブラコン拗らせるくらいなら、今のままでちょうどいいから余計なお世話だよ。」
俺はサタンに言い返す。
この重度のシスコンをどうすれば治せるのだろうかと、真剣に悩む。
もう治すのは不可能かもしれないが…。
「それに前にも言ったかもしれないが、ルルだって本当はこの結婚を望んでいない。だって、あいつが慕っている相手は…。」
サタンが俺に聞こえないようなレベルの小さな声で何かを言っていた。
急に気落ちして、小さな声で何かを言うのはやめて欲しい。普段は気も強くて、すぐに言い返してくるような奴だ。
何だか、俺が悪いことをしたかのような気分になる。
そんなことを思って、空を見上げていた時だった…。
「随分と楽しそうなことをしているんですね。何をしているんですか?デートでもしているんですか?」
聞き慣れた声が突然どこからか聞こえてきた。
俺とサタンが同時に横を振り向くと、そこにはルルが仁王立ちしていた。
「あっ!ルル…。これはだな…。」
サタンがしどろもどろになりながら、慌て始めた。
後ろには一緒に食事をしていたはずのジョニーもいた。
ルルはニコリと笑みを浮かべると、サタンの前に立った。
「えぇ、えぇ。きっと、深い理由があるんですよね。大丈夫ですよ。ゆっくりと話は聞きますので。」
そう言うと、ルルはサタンの襟首を掴むとズルズルと引きずり始めた。
今日はこれからお説教タイムだなと思った。まあ、自業自得だから特に可哀そうだとは思わない。
「待ってくれ!ねぇ、少し顔が怖いんだが!怒っているのか?謝るから!ちょっと、剣!助けてくれ!」
サタンが俺の名前を叫びながらルルに引きずられていく。
さて、俺も帰るかと思ったその時だった。
「確か、神野剣さんでしたっけ?少し、お話しする時間はありますか?」
俺と共に2人の一部始終を見ていたジョニーが突然声をかけてきた。




