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ナンパ大作戦

リヤドの家で作戦会議のあった、その週の週末。俺が知る中で2回目のルルとジョニーの食事会の日となった。

ルミナを除いた俺達はサングラスと帽子をかぶり、ジョニーに存在がバレないようにルルが会う予定のカフェの隅の席に座っていた。


「上手く行くのかよ?」


俺は優雅に紅茶を飲んでいるサタンに尋ねる。

サタンは机の上に飲んでいたティーカップを静かに置いた。


「まあ、そこまでは期待していない。ワンチャン、これでルルからルミナかルシフェルに乗り換えてくれたらいいかなって思っている。」


「それはそれで女としての意味合いで傷つくのでやめてほしいのですが。」


サタンの隣に座るルルがポツリと言う。

俺はそんな会話を聞きながら、外を眺めた。

ルミナがいつも以上にオドオドしながら店の外をウロウロしていた。

もうこの姿を見ているだけで、傍から見たら怪しさ満点なのだが。

ナンパなんてことが出来るとは到底思えない。


「大丈夫かな?お姉ちゃん…。」


俺と同じように外を眺めていたクレアが不安そうにつぶやいていた。

何だかんだ本人の前ではあんなことを言っているが、実際は心配なんだなと思った。

すると、視線の先からジョニーがゆっくりと歩いている姿が目に入った。

今回は完全に本人達に任せる作戦であるために、俺の時のように無線での指示はないらしい。

ルシフェルはそれでいいかもしれないが、ルミナには絶対必要だと思うのだがと思っている。


「よし、ルミナ。そろそろ声をかけろ。」


サタンが小さな声で店内から様子を見ながらつぶやく。

何でお前は少し楽しそうなんだと言いたい。

すると、ウロウロしていたルミナにジョニーが声をかける。

あれ?ナンパするのってルミナの方からだよな?

これだと逆なんじゃないのか?

2人の様子を見ながら俺は思った。


「ねえ、お姉ちゃんが声かけられているんだけど…。」


クレアが呆れたように言った。

その場に座っている全員が同じような表情をしていた。

うん、明らかに道に迷っているとか思われて声をかけられたな。これは…。


「いや、これはこれでとりあえず接触をするという所で成功だ。」


サタンが微妙そうな顔をしながら、言う。

まあ、確かにその一点においてだけは成功と言えるだろう。

すると、オドオドしたルミナが何かをジョニーと話していた。

一応、話せてはいる。どんな会話内容かは全く想像できないが。

すると、ルミナとジョニーの2人は店の方向に向かって歩き始めた。

これは予想外だった。絶対に、店に入る前にそのまま解散すると予想していたからだ。


「あれ?意外と上手く行っているぞ。」


サタンも意外そうな声を上げていた。

いや、お前だけは信じてやれよとツッコミたい。この作戦の立案者だろう。

何で成功するか分からない作戦を立案しているのだ。

ルミナとジョニーの2人は空いている席の1つに向かい合わせで座った。


「上手く行ってるのかな?あれ…。明らかに迷子の子供を一時的に保護している光景にしか見えないんだけど…。」


クレアが心配そうに言う。

どうやら、サタンもルルも同じように思っていたらしい。

微妙そうな表情を浮かべたままで、2人の様子をジョニーに気づかれないように見ていた。

俺は正直言って、飽きてきたので店内に入った際に取ってきたスポーツ新聞を広げ始めた。

昨日の野球の結果とコラム欄を読みたかったからだ。

俺は、何も頼まないのも悪いと思って注文したブラックコーヒーを一口飲んだ。


「あっ、店員に何か頼んでいますね。」


一緒に様子を眺めていたアリスが小さな声で言う。

どうやら、何かを頼むようだ。

頼んでいるのもジョニーの方であるから、ルミナは何も頼まないのだろうか。

ルミナとジョニーの元には水の入ったコップがそれぞれ置かれていた。


「そもそも、あれ話しているんですか?」


ルルが疑いの目を向けながらサタンに言う。

サタンもその言葉に浮かべていた微妙な表情をさらに強くする。

どこからどう見ても、学校の個人面談を受けている風景にしか見えない。

もちろん、教師側がジョニーで生徒側がルミナなのだが。何なら、成績が悪かったりで少し注意を受けている様子を彷彿とさせる。

そんなことを思っていると、ルミナとジョニーの元に注文したモノが店員から届けられた。

どちらも、ケーキとコーヒーだった。


「なあ、あれまさかと思うが奢られているだけだったりしないか?」


サタンがようやく気付いたのか、ポツリと言う。

全員が今頃気づいたのか、という表情をする。

一応、何かは話しているようだ。正直言って、一方的にジョニー側が会話を振って、ルミナが恥ずかしそうに答えるという図式だが。

5分ほどが過ぎただろうか、ジョニーが席を立った。ルミナはそのまま席に座ったままだった。

レシートを取ったジョニーはそのまま会計を済ませると、店の外に出た。

そして、店の外で誰かを待つためか立っていた。

うん、明らかにルルを待っているそれだな。あれは。

ルミナがジョニーが店の外から出たのを確認すると、トボトボと俺達の元に戻って来る。


「…ただいま、戻ってきました。」


か細い声だった。

気落ちしているのか、げんなりとした表情をしていた。


「どうだった…?」


サタンが一応とばかりに報告を聞こうとする。


「…ケーキが美味しかったです。」


ルミナが俯いたまま、ポツリと言う。

それはもうただの感想なんだよな…。


「店の外でどうやってナンパの言葉かけるか、考えながら周囲を歩き回っていたんですよね。そしたら、道が分からないのかと思われたのか、迷子かと思われたのか声かけられたのです。そこで、ままよと思い一緒にお茶なんてどうですかって勇気を振り絞って誘ってみたんですよ…。」


ルミナが誰にも聞かれていないのに事情を説明する。

もうナンパなのかどうかすらも怪しい、傍から見たら宗教勧誘か何かだと思われそうだ。


「そしたら、相手の方も何を思われたのか了承してくれたんですよ。ただ、正直言って話すことなんてないじゃないですか。何を話そうかとか緊張していたらケーキとコーヒーを勝手に頼んでくださりまして…。」


「…食べたのか?」


「…はい。」


サタンの言葉に顔をさらに俯かせたルミナが今日一番の小さな声で恥ずかしそうに答えた。

うん、ただケーキとコーヒーを奢ってもらっただけだな。これ。

俺達全員がどう声ををかけようと顔を見合わせていた時だった。


「まあ、ルミちゃんではその程度ですよ。ここは、この私の出番ですね!」


勢いよくルシフェルが立ち上がる。

一応、店内だからもう少し声を抑えて欲しい。

周りの客が少し驚いてこちらを見ている。


「…行けるのか?」


サタンが不安そうに言う。

正直、ルミナに関してはある程度予想出来ていたことだ。

一番の懸念点はむしろこの女の方だろう。突拍子のないことを起こしそうな匂いがプンプンする。

ルシフェルは自信満々にサタンに言い放った。


「お任せを!このルシフェル。華麗にルミちゃんの仇を取ってやりましょう!」


そう言うと、意気揚々と席を離れた。-


-「おい…。あれはどういうことだ?」


サタンが驚いたような声を上げる。


「ルシフェル様、凄い…。」


アリスも同じように感嘆の声を上げていた。

いや、恐らくこの席に座っている全員が同じ気持ちだろう。


「いや!何であんなに打ち解けているんだよ!」


俺は思わず、抑えた声でツッコんでしまった。

ルシフェルが楽しそうにジョニーと話していたのだ。

ルシフェルが意気揚々と店の外に出て、すぐにジョニーに声をかけていたことはしっかりと覚えている。

しかし、そこからの行動が早かった。

一瞬で互いに笑顔で話していると、そのままの流れで店の中へと戻って来たのだ。

そして、先程ルミナと座っていた席に座ると店員に即座に注文をし始めた。

その間、恐らく5分もかかっていないだろう。

そして、その10分後。どんな会話がされているのかは全く聞こえないが、楽しそうに話をしている2人の姿を目の前で俺達は見ていた。


「どういうこと!?流石にこれは想定外なんだけど!?」


クレアが信じられないモノを見るかのような目で言う。


「ちょっと待ってください!流石にあれは女としての何かが傷つくのですが…。」


ルミナはさらに気落ちしたのか、頭を抱えていた。

今度、もう少しコミュニケーション能力上げれるように練習にでも付き合ってあげよう…。

普段、表情がほとんど変わらないリヤドまでもが驚いた表情を見せていた。それほど、意外な光景が目の前で繰り広げられているのだ。


「おい!あいつ、酒まで頼み始めたぞ…。」


様子を眺めていたサタンが声を上げる。

店員からビールジョッキが運ばれいた。

何かジョニーに言っているようだった。そして、ジョニーは笑顔でそれを断っているかのような素振りを見せていた。

ルシフェルの机の上には頼んでいたケーキの皿が何枚も積みあがっていた。

回転寿司じゃないのだ。ケーキの皿を積み上げる光景なんて見たことないのだが。


「昼間からビール飲み始めましたよ、あの人。」


流石にルルも呆れたようにつぶやく。

ルシフェルの顔が赤くなっているのが見えた。

あいつ、酔っているな。


「いやー、話の分かる方ですね!まさか、ケーキだけでなくビールまで奢ってもらえるなんて!」


ルシフェルの声が店内に響く。

一瞬、居酒屋かと勘違いしそうになるがカフェである。

本当に何をしに行っているんだ、あいつは。

ジョニーはルシフェルに特に引いている様子もなく笑顔で会話をしていた。流石に、常識があるのかジョニーの方は普通の声のトーンで話していた。


「そうなんですね!お父さんの無理な話で結婚なんて、そんなのお父さんの頭をはたいて断ればいいんですよ!」


ジョッキを片手にルシフェルが言う。


「おい!何か人生相談みたいなことしているんだが。大丈夫なのか?あれは。」


サタンが俺に話しかけて来る。

知るわけがないだろ、と言いたい。お前が選んだ人選だ。俺の知る範疇を完全に越えている。


「大丈夫ですよ!父親なんて、子供に嫌いって言われたら泣いて謝ってくるような存在ですよ!一度きつく言わないといけないんですよ!」


ルシフェルの声が先程からずっとこちらの席にまで聞こえてくる。

愚痴を聞いて、助言をする構図になっているのだが。

というか、あのジョニーという男も何を話しているのだろうか。


「そもそも、ルーちゃんのどこがいいんですか!あんなの、小さいだけで一部の性癖に刺さりそうな人以外に需要なんてありませんよ!」


ルシフェルの声がさらに店内に響く。

これが終わったらすぐに帰ろうと思う。何だか、店員側も注意するかしないかで悩んでいるような雰囲気だ。


「ちょっと待ってください!しれっと、悪口言われたような気がします!」


流石に我慢ならなかったのか、ルルがルシフェルの方を睨みつける。

気分がよくなって、何でもいいそうだな今のあいつ。

そんなことを思っていると、満足したのかジョニーが立ち上がった。手元には先程と同様にレシートが握られていた。

ルミナはまだケーキとコーヒーだけだったか、ルシフェルに関してはケーキ5つとビールというカフェで支払うような金額ではないと思う。

そのまま、ジョニーは店員に支払いを済ませると再び店の外へと出て行った。

ルシフェルはといえば、満足そうに赤くした顔をしながらこちらに近づいて来た。


「ルシフェル、ただいま戻ってきました。」


敬礼のポーズをしながら、俺達に報告をするルシフェル。


「「「「「マジで何しに行ったんだよ(ですか)、お(あなた)は!!!」」」」」


俺達はほぼ同時にルシフェルにツッコんだ。

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