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いざ、見合いに!

俺とルルは無駄に高級そうなレストランの前に立っていた。

ルルは値が張りそうないかにも今日しか着ないような服を着ていた。

流石にドレスではないが、それでも純白のワンピースといった普段は絶対に着ないような服だった。

俺はと言えば、スーツ姿に無理やり着替えさせられていた。普通にちょっと軽めのワイシャツでいいだろと言ったが、サタンに却下された。


『よし、とりあえずこれでいいか。』


耳にはめていた無線のイヤフォンからサタンの声が聞こえてくる。

こちらの会話を全て聞くために、わざわざ俺の耳の片方に取り付けている。

もう、お前が行けよと言いたい。


『私達は向かいのカフェで監視しているから、何かあったらすぐに助けに行けるからな。』


俺は向かいのカフェの方を振り向いた。

そこには、窓側の席にサタンとルミナ、リヤド、そしてクレアとアリスとルシフェルが座っていた。

明らかにクレアとルシフェルに関してはやじ馬で見に来ているだけだろと言いたい。そして、アリスは無理やり連れて来られたんだろうなと想像した。


「何かあったら、ってどんな状況を想定しているんだよ。」


俺は無線越しに呆れるようにして言った。


『もしかしたら、お前を紹介した瞬間にルルを攫うかもしれないだろ。準備は入念にしておいて損はないだろ?』


「こんな人通りの多そうな、それも明らかに普段家族と食事に行く際にも行かないような高級レストランでそんな暴挙に出たとしたら逆に拍手を送ってやるよ。相手側に。」


そもそも、そんなことをするのなら最初から結婚の申し込みなんて回りくどいことをするわけがないだろとも言いたい。

俺は隣で相手が来るのを待っているルルを見た。

どうして、この子は少しだけ楽しそうなんだとツッコミたい。

俺は今から起きることを想像するだけで胃が痛いというのに…。


「どうしましたか?緊張しているんですか?」


ルルが俺の視線に気づくと、言葉をかける。

逆にどうしてこの子は緊張していないんだと思う。まあ、もう何度も会っているから慣れているのかもしれないが。


「そりゃあ、初めて会う人だからな。緊張もするよ。」


俺はレストランの看板を見上げながら答える。

本当はもっと高級なホテルを借りて、などという話だったらしいがそれだと見張りが出来ないということでサタンが無理やり変えたらしい。


「一応、仮の婚約者という設定ですから手でも繋ぎますか?」


ルルが意地悪そうに言う。

こういう小悪魔的な所は相変わらずだなと思う。少なくとも、こんな場所に女性と2人で来たことがない俺からしたらそんなことしたら緊張がより加速しそうだ。


「いや、遠慮するよ。というか、相手の方からしたら見知らぬ男と手を繋いでたとかそれこそどう思われるか分からないだろ。」


俺はしどろもどろになりながら言う。

ルルは楽しそうに笑っていた。


「あら、それは残念ですね。」


何が残念なんだと言いたい。

とりあえず、緊張で何も喋れませんでしたというのだけは避けないとなと思う。

それこそ、普段のルミナを笑えなくなる。


『でも、本当に大丈夫なんですか?相手は相当のイケメンと聞きますけど。』


ルミナの声だろうか。無線のやり取りは俺とサタンのイヤフォンでやり取りしているからか、少しばかり声が聞こえにくい。


『まあ、そこだけが心配だけどな…。』


サタンがルミナに答える。

少なくとも、褒められてはいないなと思う。


『だいぶ、ルックス的に格差出来ちゃう気もするんだよね。』


この声はクレアだろうか。

本人がいないからか、好き勝手言いやがって。

今からでもお前達のいるカフェに乗り込んでもいいんだぞ。


「おい、あまり失礼なことばかり言ってるんじゃねえよ。全部丸聞こえだからな。」


俺はサタンに向かって言う。

サタンが慌てたように言い訳を始める。


『いや、大丈夫だ。お前にもいい所はたくさんある。例えばそうだな、流石に今から会う男ほどではないがお前も悪い顔ではない。イケメン、とは言えないけど。』


『そ、そうですね。それに、性格も悪く…はないですね。』


「何でそこで言葉に詰まるんだよ。もう少し頑張れよ!」


俺は思わず、イヤフォン越しにツッコむ。

あの2人は後で痛い目に遭わせることにしよう。

そんなことを考えていると、隣からツンツンとつつかれる感触を感じた。

どうやら、ルルのようだ。


「来ましたよ。」


ルルが通りを歩いている中年の男と青年を指さす。

恐らく、あれが今回のルルの結婚の話が出ている相手だろう。隣の中年の男は父だろうか?

家族も同行する、という話は聞いてはいた。というか、親側の方が熱心なのだから、まあ忙しい合間を縫って日本まではるばる来るよなという話である。


「お久しぶりです、ルル殿。おや、そちらの方は?」


中年の男がルルに挨拶をすると、俺の方に気づく。

当然の反応だよな。ルルだけかと思ったら、見知らぬ男がいるのだから。


「こちらは、私の友人の神野剣さんです。少しばかり、今回の話でお2人にも話す必要があると思い連れて参りました。」


ルルが丁寧な口調で説明をする。

中年の男は少しばかり怪訝そうな表情で俺を見てきた。

俺はその視線から目を逸らし、ジョニーとサタンから教えられた青年を見た。

写真からでも相当のイケメンだと思っていたが、実物の方がさらにイケメンなんて話があるのだなと思った。

写真写りが悪い、という言葉があるが写真写りが悪くて実物の方がイケメンなんて話は中々聞かないと思う。

少なくとも、俺は初めての経験だ。


『よし、お兄ちゃん!頑張って!ガツンと言っちゃえ!』


クレアの声がイヤフォン越しに聞こえる。

何をガツンと言うのか、とツッコミたい。


「まあ、詳しい話はご飯でも食べながら聞くとしましょう。では、こちらに。」


中年の男がルルに言う。

ルルもその言葉に頷くと、レストランの中へと俺達は入って行った。-


-前菜が終わり、スープが運ばれてくる。

正直言って、こういった場での食事の作法なんて全然分からないのでそれっぽくやっているが絶対に合っている自信がない。

むしろ、何で礼儀がなってないんだと思われていないか心配だ。


「それで、この方とはどういうご関係で?あっ、申し遅れましたな。私、ここのジョニーの父親のフォード・ヴェネーノと申します。以後、お見知りおきを。」


そう言うと、俺の前に手を差し出してきた。

俺はその手を握ると、握手をした。


「こちらこそ、初めまして。神野剣と言います。」


俺は、フォードの目を見た。

柔和な笑みを絶やさない気前の良さそうな男だった。年は俺の父よりも少し若いくらいだろうか。

ただ、何だろうか目が笑っていない。正直、俺のことを品定めされているようでいい気がしない。

どうして、サタン関連で会う人間達はこうも似たような目をしているのだろうか。


『よし!今だ!ここで、ルルは俺の婚約者なので手を出すなと言うんだ!』


サタンの声が聞こえる。いきなりすぎるだろ、と言いたい。


『それじゃあ、インパクトがないですよ。サタン様。ルル様ともう一発やった仲なんですくらい言わないと。』


クレアの声も聞こえる。

頼むから少し黙っていて欲しい。高校1年生と中学3年生でそんなことしていたらそれこそ大問題だろう。


『ちょっと待ってください、クレア!いつの間にそんな言葉を覚えたんですか!』


ルミナがクレアを叱り始める声も聞こえる。

頼むから、もう少し声のトーンを抑えて欲しい。

向かいのカフェで見張ってるのはいいが、絶対に迷惑だろう。

俺はそんなうるさいイヤフォン越しの声を聞きながら、とりあえず何か言わないと思っていた。

ただ、本当に言わなければいけないのだろうか。そんな洒落たセリフなんて思い浮かばない。

そんなことを考えていると、突然隣に座っていたルルが俺の左腕を掴むと自身の体に引き寄せた。


「話したいと言うことというのは、この神野剣さんとお付き合い的な関係でしてご結婚の話はもう少し待ってもらえませんかという話です。」


ルルはフォードにニコリと笑いかけながら言った。


『ねえねえ、お兄ちゃんが日和ったせいでルル様が言っているんだけど大丈夫なの?』


『ま、まあ大丈夫だろ。想定とは違うが、とりあえずここまでは計画通りだ。肝心なところで剣がビビったのは予想外だったが…。』


クレアとサタンの声が聞こえる。


『でも、この状況でどうするんですか?お兄ちゃんがお姉ちゃんったからここから先の会話は全てルル様が主導になりますよ。』


『何ですか、その動詞!初めて聞くような言葉で私のことを罵倒するのやめてください!』


…ガヤがうるさいです。

本当に鼓膜が痛い。ただでさえ、甲高い声が直に響くから頭が痛くなって来ているような気すらする。

俺はルルに腕を掴まれたまま、ジョニーとフォードを見た。

ジョニーは少しばかり驚いている風だったが、フォードは特に顔色も変えずに少し考えているようだった。


「それは、それは。初めて聞きましたな。そのような噂すら聞いたことなかったので、意外ですな。」


フォードが柔和な笑みを崩さずに言う。

ただ、俺の方を警戒したような目つきは変わっていない。

何というか、これなら分かりやすく警戒心の高そうな表情をされる方がいい。少し怖いです…。


「そうですね、こちらの日本に来てからお付き合いをする関係になったので。まだ、周りにすら全然言っていません。ね?そうですよね、剣さん?」


突然、俺に話を振って来るルル。

俺は慌てたように返答をする。


「そ、そうだね。日本に来てから出会って、お付き合いさせていただいています。」


絶対に声が上ずっているなと思う。

正直言って、汗で背中がびしょびしょだ。


『もう、剣様が緊張でまともに話すら出来ていませんけど?』


ルシフェルの声だろうか。俺は少しばかり視線を向かいのカフェに向けた。

美味しそうなケーキを頬張っていた。

こっちが緊張して、こんな目に遭っているというのにあいつらは何くつろいでいるんだと思う。

リヤドに至っては、興味すらないのか優雅に紅茶かコーヒーを飲んでいる。

絶対に、俺じゃなくてお前がするべき役割だろ。今回に関しては。

ガラス越しのサタンとクレアのジェスチャーがうるさい。あれだけ騒いで出禁にならないのはカフェ側が寛大すぎるなどとどうでもいいことを考えていた。


「ふむ、そうですか。ジョニー、お前の考えはどうだ?」


フォードが息子であるジョニーに意見を求めていた。

ジョニーはというと、スープを飲むために持っていたスプーンを皿の上に置くと姿勢を正した。

何というか、自分との差が違いすぎて俺の場違い感が半端ない。


「いえ、私も初めて聞きました。しかし、もしそういう話でしたら私は全然ルルさんの意見を尊重したいと思いますよ。」


丁寧な口調で答えていた。

軽い笑みまでこぼしていて、本当に映画のワンシーンか何かと勘違いしてしまう。


『おい、どうする?何か相手側も一歩引いているぞ。』


『いや、ここからドロドロの三角関係の可能性だってありますから。』


イヤフォン越しのやじ馬どもがうるさい。

もう、お前らはこの状況を見て楽しんでいるだけだろと言いたい。


「ふむ、そうか。いや、ルル殿にそういった男性がいるのは初めて聞きまして。こちらとしても、少し意外だっただけです。ただ、ウィザード家のキール殿にはまだ話をしていないと思ってよろしいですかね?」


「そうですね。まだ、お父さまの方には何も言っておりません。もし、話す必要があるのならお話をしておきますけどどうされますか?」


フォードの言葉にルルが答える。

フォードはそれを聞くと、ニコニコと笑いながら首を振った。


「いえいえ、そこまで気を使わせる必要はありません。まあ、今日は私としてもルル殿と今後のお話を交えて世間話でもと思っていただけですから。料理でも食べながらゆっくりお話しをしましょう。」


そう言うと、フォードは残っていた前菜に手を付け始めた。

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