夕方の帰路
結局、その後は世間話と最近のお互いの近況報告程度の話に終始して終わった。
特に自分から喋る話題もない俺としては、時々話を振られた際に軽く答えるくらいであった。
その間もずっと、イヤフォン越しからサタン達のうるさい声を聞かされたので予想以上に疲れが溜まっている気がする。
あれだけ指示を出していたサタン達も早々に帰っており、俺とルルはフォードとジョニーの父子と別れると日が暮れ始めている夕暮れ時に2人で自宅に向かって帰ろうとしていた。
帰りに乗る予定の電車までまだ少し時間がある。
そこまで急いで駅にまで向う必要もないだろう。
俺は、隣を歩いているルルに視線をチラリと向けた。
今日は終始、機嫌がいいなと感じた。
そこそこの付き合いから、このルルという少女。機嫌が悪い時は顔の表情が分かりやすいほど変化することに気づいている。
逆に機嫌が良い時はずっとニコニコしている。
恐らく、本人は常に笑顔を絶やさずにいい人であることを演じているつもりなのだろうが意外と感情が分かりやすいタイプだと思っている。
そういう意味では、サタンにしてもルミナにしてもこの3人はよく似ているなと思う。
「今日は随分とご機嫌なんだね。」
俺は、気分良く歩いているルルに声をかけた。
こちらとしては、何かそんな気分のいい出来事が今日あったのかと聞きたい気持ちだ。
初対面のイケメン相手に仮の婚約者の真似事をさせられて、挙句の果てにイヤフォン越しにずっと指示を言われ続けてこちらとしては疲労困憊と言った状況だ。
今日は、帰ったらさっさと夕飯とシャワーを済ませて寝るとしよう。
「そうですか?いつも通りと思いますけど?」
ルルがニコニコとした表情で俺の方見上げると、答えた。
そうだな、確かにいつも通りの機嫌が良い時に見せる表情だと思う。
俺はそんなことを思いながら、ルルの歩くスピードに合わせながら駅までゆっくりと歩いていた。
「逆に、剣さんの方はかなり疲れていますね。」
何が面白いのか、ルルが楽しそうに言ってくる。
「それ、分かっていて言っている?だとしたら、中々に性格が悪いぞ。」
俺は、ルルに不満げな表情を見せながら言い返す。
誰のせいでこんなに疲れたのだと思っているのだろうか。
正確に言えば、サタンが原因なのだがルルもあそこの場面で断ってくれていればあの場所に行かなくて済んだはずだ。
「さあ、分からないですね。」
クスリと笑いながら言うルル。
嘘つけ、絶対に分かっているだろう。
「まだ、帰りの電車までは時間がありますね。」
ルルが時計を見ながら、俺に言う。
すでに往復のチケットを買ってあるのでわざわざ改札前でチケットを購入する手間も必要ない。
そのまま、改札を通ってホームで先に乗る予定の電車を待っているのもいいかもしれない。
「30分くらいあるな。ちょっと、中途半端な時間に解散になったからなー。」
俺も自分の腕にはめている腕時計を見ながら言う。
フォードは色々と用事があるから帰る予定らしいが、ジョニーの方はルルと何度か会う予定があるらしく残るつもりらしい。
そこまでして、熱心に自分の息子とこのルルを結婚させたい理由は何なのだろうか?
まあ、色々と事情があるのだろうなと思う。
少なくとも、一般人の俺には到底分からないような世界だから正直言ってどうでもいい話である。
「剣さんは今日は楽しかったですか?」
少しばかり沈黙が続いた後、ルルが俺に尋ねて来る。
この表情をしている俺に楽しかったですか、と聞くのはどんな神経をしているのだと思う。
こういう所はサタンの妹だなと思う。
そんな所にまでサタンの影響を受けなくてもいいのに、とも思ってしまう。
「楽しかったと思うのかよ…。もう、次からは俺行かないから。リヤドにでも頼んでよ。」
俺はうんざりとした表情で言う。
ルルはやはり、楽しそうな表情のままでいた。
「リヤドじゃダメですよ。顔が割れすぎていますからね。私と腐れ縁なのも知れ渡っていますから、今更婚約者ですなんて連れて行ってもすぐにバレちゃいますよ。」
「サタンも似たようなこと言ってたな。」
それなら、俺ならいいのかという話だ。
全く、いい迷惑だ。
「少し時間ありますし、ここのベンチの上で座りませんか?」
気づいたら駅に着いていた俺達はちょうど目の前にあったベンチの上に2人で座った。
夕日ももう沈みかけていて、段々と空も暗くなりつつある。
やはり、今日はいつも以上に疲れた気がする。よく眠れそうだ。
「私は楽しかったですよ、今日は。」
ルルが空を見上げながら、そんなことを言う。
何が楽しかったのだろうか。ただ、世間話をして近況報告していただけだろう。
正直、マッチングアプリというモノが存在するがこんな感じなんだろうなと思いながら普段食べれない高級料理を食べていた記憶しかない。
「それは良かったね。あんなことを時々してるの?」
俺は疲れた体を癒すためにベンチにダランと座っていた。
いつもは寒い夕方だが、今日は疲れて体が熱いおかげか逆にこれくらいの寒さがちょうどよく感じる。
「そうですね。以前は半年に1回とかでしたけど。最近は月に1回くらいはこういった話が来るんですよね。」
照れくさそうにルルが答える。
良家のお嬢様も大変だなと思う。やはり、普通が一番だ。
面倒な身分のしがらみとか大変だなとしか思えない。
「わざわざ息子に同伴なんて、随分と熱心なんだな。あちらの父親さんは。」
「そうですね。よほど、私と自分の息子さんを結婚させることにメリットを感じているんでしょうね。」
ルルはそう言うと、少しばかり黙った。
電車の時間までまだ、20分くらいある。時間潰しとしてはちょうどいいなと思う。
わざわざ、姉妹3人の内の姉2人ではなく一番末っ子のルルを狙っているのも不思議な話だなと思う。
ましてや、この子に関してはウィザード家の血を引いていない養子のような存在なのに。
「私は、剣さんと仮とは言え婚約者ごっこみたいなことが出来たので満足ですよ。」
突然、ルルが俺に言った。
本当にこの子は突然、何を言い出すのだろうか。発言の意図が理解出来ない。
「…それは良かったね。俺は相手の男との顔面偏差値の差がありすぎて絶望したから今度するならもう少し俺と似たような顔面偏差値の男としてくれよ。」
恥ずかしさを隠すために、ルルから視線を逸らすようにして言い返す。
ルルはそんな俺の表情を楽しんでいるようだった。
「フフフ、考えておきますね。」
そう言うと、再び沈黙が流れる。
何というか、ルルの今の言葉のせいで変に緊張してしまう。
別にルルに対して恋愛感情とかは無いのだが、非リアの俺には中々に刺激が強い言葉だった。
「逆に、剣さんは私と婚約者ごっこして楽しくなかったですか?」
ルルが俺の顔を覗き込むようにしながら再び尋ねて来る。
今日はまた随分と饒舌だなと思う。
普段はそこまで喋るようなタイプではない気もするのだが…。
それも似たようなことを何度も。そんなに、俺に楽しかったと言って欲しいのだろうか。
「まあ、楽しくなかったって言うのは嘘になるけど。ただ、ガヤがうるさすぎたから今度はあいつらがいない状況にして欲しいかな。」
何だか、また都合よくこの子の手のひらで転がされているような気がする。
俺は自分の顔が妙に熱くなっているのを感じた。
何を緊張しているのだろうか、1つしか違わないとはいえ年下の女の子に手玉に取られているんじゃないと自分に言い聞かせる。
「そういえば、お姉さま達からイヤフォン越しに色々と言われていましたね。でしたら、今度は2人だけでデートでもしますか?」
意地悪そうな笑みを浮かべながらルルが俺の反応を楽しんでいるように言う。
「べ、別にルルちゃんがしたいなら全然構わないよ!というか、今日は何なのさいきなり。俺のことが好きなのか?前から思っていたけど。」
俺は、会話の主導権を取られたくないと思い、少しばかり強めの口調で言い返す。
本当にこのままだと手玉に取られたまま電車に乗って帰ることになりそうだ。
「さあ、どうでしょう?私は知っているかもしれませんけど、恋愛感情についてはかなり疎い方ですからね。」
「ルミナちゃんが似たようなこと言ってたな。ルル様はエルフの血を引いているから恋愛面は素人だ、って。」
「あら、あの人がそんなこと言ってたんですね。流石に脳内お花畑のあの人に言われるのは不本意なのですが。」
ルルが少しばかり不満そうに言う。
どっちもどっちだろ、というツッコミをしたかったがやめておくことにした。
「でも、そうですね。剣さんのことは嫌いじゃないですよ。大切な友人だと思っていますし。」
ルルがニコリと笑みを浮かべると俺に言う。
似たようなセリフを以前どこかの剣士が言っていたなと思い出した。
「ルミナちゃんからも似たようなこと言われた気がする。嫌いじゃないですよ、って。」
「そういえば、そんなこと言ったとルミナさんから聞きましたね。あの人も素直じゃないんですね。」
ルルがそう言いながらクスクスと楽しそうに笑う。
というか、あの時の会話を知っているのか。俺は言った記憶なんてないのに。
「なあ、以前から思っていたけど俺について何を話しているの?ルミナちゃんもサタン達とよく話すみたいなこと言ってたけど。」
俺は気になったので、ルルに尋ねる。
ルルは今日初めて、慌てたような表情を見せた。
「それは内緒ですよ。女同士の秘密的な話ですから。大丈夫ですよ、剣さんだけじゃなくてリヤドのことも話していますから。」
「何も安心できねえよ。絶対、悪口言ってるだろ。女性比率が無駄に高いし、このメンツ。」
俺はため息をつきながら、ルルに言う。
ルルは少し時計で時間を確認する。そろそろ、電車に乗らないといけない時間が近づいている気がする。
「いいじゃないですか、ハーレムみたいで楽しいでしょう?」
ルルが時計を確認すると、俺に再び元の表情に戻って楽しそうに聞いてくる。
「本当にハーレムだったらな。いいように使われている思い出しかないよ。」
俺はルルの視線が恥ずかしく感じて目を逸らしながら答える。
ルルはそれを聞くと、立ち上がる。
「そうですね、じゃあ最後に1つ聞いてもいいですか?」
ルルは俺の前に立つと真面目な表情で言ってきた。
俺は突然の変化に少しだけ戸惑った。
「もし、私が結婚したら剣さんは悲しいですか?」
俺は少しばかり考えた。
そりゃあ、本当にそうなったら寂しくはなると思う。
仮にも仲良くしている女の子が知らない男と結婚するのだ。男の方も自分の知り合いだったら話は別かもしれないが。
「そりゃあ、寂しいよ。でも、ルルちゃんが本当にいい人と出会って結婚するって話だったらいくらでもお祝いの言葉くらいしてあげるよ。」
俺がそう言うと、ルルは再び先程までの笑顔を見せていた。
しかし、その言葉に少しばかり寂しそうな表情を浮かべていたように感じた。
…気のせいだろうか?
「そうですか。でしたら、その時は盛大にお祝いしてくださいね。」
そう言うと、そろそろ電車の時間ですよと俺に言って先に駅の構内へと歩き出した。
タイトルの方、何となく付け方をだいぶ考えれるようになったのでこちらの作品でも付けていくことにして行こうと思います。
こちらは基本的に、一言って感じで行こうかなと思っています




