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ウィザード家からの派遣

ルシフェルと自身を名乗る女性と会った次の日、俺は学校が終わり帰ろうとしていた。

生憎の雨で部活の練習も休み。俺は傘をさしながら校門から出た。


「…一緒に帰る?」


俺は校門の前で待っていたルミナに声をかける。

ルミナはこくりと無言で頷くと俺の隣を歩き始めた。


「ルルちゃんは今日は一緒じゃないんだね。」


俺は歩きながらルミナに話しかける。


「ルル様はサタン様と一緒に報告のために本国に行きましたから。」


そういえばそうだった。昨日の出来事を報告するために、サタンとルルは急遽イギリスの方に帰って行った。

アリスだけならまだしも、ルシフェルとか言う天使を名乗る女まで現れたのだ。

流石に自分達の手では負えない案件だと思ったのだろう。


「結局、あの後ルシフェルって女はどうしたの?」


「とりあえずは、剣様のお爺さまとお婆さまの家に住んでもらっていますよ。ただ、あの見た目ですからね。基本的には姿は私達以外には見せないという条件ですが。」


それはそうだよな、と俺は思った。

何せ、フワフワと宙を浮かんでいるのがデフォルトの移動手段なのだ。

そして、あの服装。とてもまともな存在とは一般の人間には認識されないだろう。

というか、俺だってこんな状況に巻き込まれてなければ落ち着いた判断など出来るはずがない。


「とりあえず、バレないようにはしないとな。」


俺もルミナに同意する。


「ただ、アリス殿がかなり懐いているようでしてね。まあ、そこだけはよかったかなと。なぜか、クレアまでも意気投合して一緒に楽しんでいますから。」


「それはよかったな。ただ、俺達以外に姿は見せたくはないな、本当に…。」


「それについてもまあ、今のところは大丈夫かと。基本的には霊体化しているようで私とクレア、アリス殿の前にしか姿を見せないので。」


「食事とかどうしてるの?」


「受肉しているならまだしも、天使の体そのものですからね。食事とかそう言った人間がしなければいけない衣食住の行動は必要としないそうですよ。」


便利な体だな、と思う。

それなら、とりあえず俺達以外には見られる心配はほぼほぼないなと思った。


「しかし、大天使か…。また、面倒な予感しかしない…。」


俺は思わずつぶやいた。


「面倒ごとになるかは分かりませんが、とりあえずルシフェル殿に関しては敵意もありませんのでそこは安心かと…。」


「まあ、そこは昨日の話では分かっているけどさ。」


そういう意味ではないんだよ、と言いたい。

どうにも、あのルシフェルと言う女はアリスに関して異常な執着を見せている気がする。

だから、そういう意味ではアリスと言う存在が俺達と共にいる限りは敵として対峙する可能性はないなと思う。

そこだけは唯一の救いだと思う。

ルルが言うには、トンデモない魔力量と共にウィザード家が丹精込めて作った特製の結界を一瞬にして破る魔術の腕。

始まりの大天使、と自負するのも分かるレベルらしい。

恐らく、今まで戦ってきた大天使の誰よりも強いとも評価をしていた。

正直、魔術の到達点とも評価までしていた。あのサタンでも戦ったら五体満足で無事に済むかは分からないとまで言っていた。


「…ただ。」


そんなことを考えていると、ルミナが少し疲れ切ったような顔をしていた。


「明るい性格なのはいいんですよ。えぇ、いいと思います。ただ、無駄に煽り癖があるって言うんでしょうか。クレアと2人でいるとうるさくてたまらないです…。」


「何?バカにされるの?」


正直言って、サタンとルルとの関係もそうだが基本的にいじられ役だなと思う。

自分も大概、クラスの中だといじられキャラであることは多いのだがどこか共通しているような気がする。


「うーん、別に魔力がないこととか魔術を持っていないとかの私の地雷踏み抜くようなことは言わないんですよ。というか、そもそもそれについては別に興味ないみたいな感じなんですよね。そこはいいんですけどね。」


そう言うと、ルミナは自分の胸の部分に目を落とした。

俺も同じように全く成長の兆しが見えない胸に視線を移す。

…その時だった。


「呼びましたか!」


突然、甲高い声が俺とルミナの背後から聞こえた。

そして、ルミナの背中に抱きつく。

昨日、俺達の前に現れたルシフェルだった。

服装も昨日から特に変わっていない。


「呼んでいないですよ。というか、街中ですからあまり出て来ないでください。勝手に来そうだなと想定して、あえて裏道から帰っていましたけど。」


「もう、ルミちゃんったら。恥ずかしがっちゃってー。」


抱きつきながら、グリグリと自身の顔をルミナの頭に擦りつける。


「ルミちゃんって。随分と打ち解けてるんだな…。」


俺は少しだけ迷惑そうな顔をするルミナと、特に気にする様子もなくスキンシップを取るルシフェルを見ながら言った。


「昨日からこんな感じですよ…。」


ため息をつくと、ルミナが言う。

ルミナの頭から自分自身の顔を離すとルシフェルは右の中指を自身の頬に当てていた。


「もう。相変わらず、反応が悪いですね。」


不満そうに顔を膨らませる、ルシフェル。


「あなたが、急に距離を詰めすぎなんですよ…。私はクレアほど、人付き合いはよくないんですよ。」


普段から人とのコミュニケーションがあまり得意ではないルミナがルシフェルから距離を取りながら言う。

ルシフェルは指を頬に当てながら首を傾げる。


「そんなことばかり言うんだから、ここもあまり成長しないんじゃないんですか?」


そう言うと、ルミナの胸を両手で突然掴んだ。

豊満な胸を持っているルシフェルと違い、ルミナのまっ平らな胸は全くルシフェルの手で盛り上がった感触が見られなかった。


「余計なお世話ですよ!私にはそんな脂肪の塊は必要ないんです!私は、剣士です。無駄な脂肪の塊など、動きが悪くなるだけです!」


顔を真っ赤にしてルミナがルシフェルに言う。

俺からしたら、胸なんて大きければ大きいほどいいと思うんだが。

そんなこと言ったら、殴られそうなので言わないことにしよう。


「あらあら、それは負け惜しみですね。男なんて生き物は大きければ大きいほどいいんですよ。」


自身の胸を持ち上げてルシフェルがルミナに言う。


「別に負け惜しみで言っているのではありません。私の考えを言っているのです。」


「ダメですねー。そんなことでは剣様は振り向いてくれませんよ。」


そう言うと、ルシフェルがニヤニヤしながら俺の方を見てくる。

正直、この状況で俺の方を見てくるのはやめて欲しい。

ルミナからの視線が怖い。


「べ、別に振り向いてもらう必要などありません。あくまで、私は剣様の付き人なだけです。何度も言いますが、恋愛感情なんてありません!」


顔を真っ赤にして、ルミナがルシフェルに言う。


「何ですか?剣様も大きいのがいいんですか?」


「俺に殺意を向けて来るんじゃない!今日に関しては俺は何も言ってないだろ!」


俺はルミナに言い返す。

ルミナが涙目でルシフェルを睨む。

ルシフェルは、気にも留めない様子でヘラヘラしている。


「相変わらず、騒がしいですね。」


聞き慣れた声がする。

振り向くと、そこにはサタンとルルが立っていた。


「あれ?帰って来てたんだ。」


俺はサタンに声をかける。


「報告だけして、急いでな。家に帰ったらお前がいないから帰り中かと思って学校の方に行ってみたらこんなところで油を売っていたのか。」


呆れるようにしてサタンが俺に言う。

そう言えば、この2人は傘をさしていないと思った。俺は空を見上げた。

すでに雨は止んでいてどんよりとした雲が広がっていた。


「本当は真っ直ぐに変えるつもりだったんだよ。コイツが勝手に出てくるからさ。」


俺はルシフェルを見ると、言う。


「暇だったので、つい散歩をしたくなりまして。」


ニコニコとした表情でサタンに言う。


「あまり、勝手に出歩かないでください。下手に一般人に見られると面倒ですので。」


ルルがルシフェルに言う。


「大丈夫ですよ。ルーちゃん。この辺りに人が近寄りたくなくなるような結界を張りましたから。」


「…それならいいですが。あと、そのルーちゃんって呼び方やめてください。子供みたいな扱いで嫌です。」


「私からしたら、子供のようなモノですよ。背も小さいですし、お人形さんみたいで。」


ルシフェルはそう言うと、ルルに近づいて抱きしめると頭を撫でる。

ルルは、ため息をつくと手で離れるようにジェスチャーをする。


「結局、コイツはどうするんだ?」


俺は距離感のバグった詰め方をするルシフェルを見ながらサタンに尋ねる。


「一応、要観察だ。アリスに対して敵意がないどころかむしろその逆だからな。下手に刺激するよりも様子を見つつ、そのままにするのが一番だという結論になった。」


そう言うと、後ろから3人の男が現れた。

サタンは来たか、といった表情を見せる。


「紹介する。ウィザード家でお父さまの直属の部下の3人だ。」


自己紹介をしろ、と目で合図を送る。

3人の中の真ん中にいる男が俺の前に近づくと、手を差し出してきた。

俺はその手を握り、握手をする。初めて会う人間と大体握手をしている気がするなと思う。

ウィザード家でのパーティーで何度か見たことある3人組だった。


「こうして話をするのは初めてですかね。私の名前は、アレウス。そして、後ろにいるのが右からゴレイヌとバルバトスです。今回のアリス殿の件でキール様よりあなたのご家族の安全を任されました。」


紳士らしい口調でアレウスが俺に自己紹介をする。

後ろの筋骨隆々の男2人も俺に頭を下げる。


「うちのウィザード家の名実とともにトップ3です。強さは本物ですから安心してください。基本的には日中、遠目で剣さんのご家族とアリスさんを見守ってもらう予定です。」


ルルが俺に耳打ちする。

確かに、この3人の見た目なら大丈夫そうかなと思う。


「というか、見守るって言うけど何か襲われる可能性とかあるの?」


俺はルルに尋ねる。


「バチカン辺りの動きが怪しいんですよね。ただ、いきなりこちらに来るとは思わないですけど。ただ、用心をですね。」


「やっぱり、面倒ごとじゃん。」


俺はチラリとルミナを見る。


「知らないですよ。私が言ったからみたいな目をするのはやめてください。」


ルミナはそう言うと、顔を膨らませる。

俺は、どんよりとした曇り空を見上げると少しだけ憂鬱な気持ちになった。

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