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ザドキエル、再来!

俺の目の前には大剣で貫かれたルミナが立っていた。

胸の付近からは、血がじんわりとにじんでいた。

そして、口から血が垂れると地面に倒れ込んだ。

目の前には片腕の男。恐らく、風貌的にサタンが仕留めそこなったと言う大天使。

名前は確か何て言ったか。ザドキエルだったか、確か。

そう言えば、数日前に天馬から何か言われてたな。

俺の頭の中は変に冷静になっていた。そして、今何をしなければいけないかを考えた。


俺は、倒れていたルミナを回収すると素早くザドキエルから距離を取る。

距離を取った背後に、誰かしらの気配を感じた。

俺は、ルミナを抱えたまま大剣でその一撃を受け止める。

信じられない光景だった。先程、ルミナが斬り捨てたはずのリカルドがそこには立っていた。

それも、先程と同じ変化した獣の姿のままで。


「…どういうことだよ!?」


俺は、叫びながらリカルドからの一撃を逃れるとルミナを抱えたまま地面を転がる。

抱きかかえたルミナからは顔を青ざめ、苦しそうな呼吸が聞こえる。

まだ息はあるのはいいが、かなり危なそうな状態だ。


俺の目の前にはザドキエルとリカルドの2人が立っていた。

正直、2人がかりで何とか倒せた男が蘇った上に大天使まで追加と来たら正直俺1人でどうこう出来る気がしない。


「剣殿。逃げてください。少なくとも、リカルドの狙いは私です。」


荒い呼吸のルミナが声を必死に絞り出すようにして俺に言う。


「リカルドが言ってたこと忘れたのか?あいつは恐らく俺にも用があるみたいだぞ。まあ、生死がどうこうの話は変わるかもしれないけど。」


俺は、ルミナを左手で抱えながら膝をついた状態で2人を見る。

ザドキエルがいるのは何となく分かる。天馬の忠告とやらで、恨みがどうこう言っていたから。

そして、リカルドがいるのはルミナを殺してクーデターを起こすためと言うのも本人が言っていた。

問題は、どうしてこの2人が一緒にいるかということだ。

正直、組み合わせとして謎が過ぎる。


「リカルド。ランスフォード家を奪うために、天使と組んだのですか?そこまで堕ちたのですか?」


傷口を抑えながら、ルミナが俺の胸辺りからルミナが何とか絞り出すような声で言う。


「堕ちたか…。フフフ、言うではないか。言ったはずだろ、ワシとてこんな事はしたくなかったと。全ては貴様の母が招いた甘さ故よ。」


笑みを浮かべながらリカルドがルミナに答える。

俺は、どうしてリカルドが生きているかの方が謎で仕方がなかった。

それなりに傷をつけていたはずなのに全くの無傷で立っている。


「その男と組んで、ランスフォード家が無事に済むとでも思っているのですか?」


ルミナがリカルドに更に問う。


「ふむ、言わなかったか。ウィザード家から我々は離脱するのだ。その為には強気存在と組むのは必然と思わぬか?」


「少なくとも、その男と組んであなた達に何かあればすぐに捨てられると思いますが?」


「と申されているが、どうかな?ザドキエル殿?」


リカルドは隣のザドキエルに問いかける。

ザドキエルはリカルドに軽くお辞儀をした。


「まさか。我々、天界は如何なる者でも受け入れる。それは、我が主の言葉。信じてもよろしい。」


笑みを浮かべながらザドキエルが答える。

どこぞの怪しげな宗教勧誘かと思う。


「それで?ウィザード家から抜けた後はどこに行く算段で?まさか、天界にでも上るつもりですか?」


ルミナがリカルドに更に問う。

やはり、傷が痛むのか辛そうに話す。

無理に話すな、と言いたいが聞く気はなさそうに見える。


「安心しろ。何も考えていないとでも思っているのか?政府にしても一枚岩とでも思っているのか?」


不敵な笑みを浮かべる、リカルド。

傷を受けた部分の服をギュッと握ると、ルミナが咳き込みながら言う。


「剣殿、大丈夫です。私はこう見えても、頑丈です。一応、急所はギリギリで外しました。だから、このくらいの傷くらい…。」


ルミナが立ち上がろうとする。しかし、傷は思ったより深いのか苦しそうに顔を歪めると、再び倒れ込む。


「無理するな!頑丈と言っても貫かれてるんだぞ。」


俺はそう言うと、立ち上がる。そして、ルミナの腕を自分の肩に回す。


「頑丈か…。例え、人間の限界を超えたところで所詮は魔力のない出来損ない。我々、魔術師は魔力を使うことで防御を行うことも出来る。そして、自身を強化することで貴様程度の頑丈さなど余裕で作れる。貴様は、中途半端なのだよ。ルミナ。魔術師としてはもちろん、次期当主となる器としても。」


リカルドは憐れむようにルミナに言う。


「…違う。私はッ!」


「何が違う!事実であろう!母娘揃ってよく似ている。貴様の母親は昔はそれは強い魔術師だった。あのウィザード家の現当主のキール・ウィザードにも並ぶと劣らない程のな。だが、貴様が生まれたことで変わった。そして、旦那を失くしたことでそれはさらに加速した。昔のあの女なら、迷いなく貴様のような出来損ないなど切り捨てただろうに。いや、自身の娘だからこそ甘さが出ているのだろうな。やはり、中途半端でしかない。貴様もあの母親も…。」


ルミナの悲痛な叫びにリカルドが被せるように言う。

ルミナは小声で違う、違うと呟いている。


“いつか、認めてくれると思うのです。と言うより、そう縋らないと自分の人生が無駄になるじゃないですか。”


ルミナが俺に言った言葉が脳裏によぎる。

俺は、ほら言わんこっちゃないと思った。

少なくとも、努力だの何だのをいくらしたとこで結果が見えなければ人は褒めてくれない。

それで褒めてくれるのは身内かよほど親しい友人くらいだろう。

お前の目の前にいるのはそんな奴らじゃないんだぞ、とルミナに言ってやりたい。

俺は肩に回していたルミナの腕を握る力を少しだけ強めた。


「…馬鹿だな。ホントに。」


俺は小さな声で呟く。

そして、ルミナを抱えてリカルドとザドキエルから逃げ始めた。


「馬鹿な男だ。素直にあの娘を渡していれば痛い目には合わずに済んだものを。」


リカルドの声が背後から聞こえる。

瞬間、鋭い爪が俺の背中を襲う。俺は、間一髪で避けると足を滑らせ、地面に転んでしまう。

そして、肩に激痛を感じた。

魔力の層が薄かったのか、リカルドの爪をモロに受けたようだった。


「…何をしているんですか?私なんて、見捨てて逃げてください。」


息も絶え絶えのルミナが俺に言う。


「丈夫なんだろ。だったら、そのまま黙って回復に努めろ。安心しろよ。俺がただ逃げてるだけだと思ってるのか?」


俺はそう言うと、再び逃げる。

背後からはリカルドの巨体が迫る。間一髪で避けながら、逃げ続ける。

正直、ルミナを抱えたまま逃げているこの状況でまともに体に魔力を回す余裕なんてない。


「この結界に逃げ場所などない。無駄なあがきだぞ。」


リカルドの声が聞こえる。

さっきもルミナに言ったが、無策で逃げているわけではない。

俺は、ルルの言葉を思い出す。

結界は解析さえ出来れば、外から侵入が出来るということを。

そして、ルルは多少時間は必要だがそれが可能であることも。

それなりに長い時間、家を留守にしていて結界が張られるようなこの状況。

あの3人が気づかないわけがない。

ならば、俺がすることはただ1つしかない。


「あの3人が来るまで、時間いっぱいシャトルランだ。」


俺はルミナに向けて言ったのか自分に言い聞かせるために言ったのか分からないが独り言のように言う。


「ほとんど、無策みたいなモノじゃないですか。」


呆れながら、ルミナが小声で言う。

そして、天を見上げる。


「先程も言いましたが、私をここに置いて行ってください。時間稼ぎくらいならします。2人で逃げるなんて到底無理な話です。」


俺はルミナの言葉を無視して走る。

後ろを振り向くと、リカルドは歩いてこちらに迫っていた。

あの巨体で一歩がデカいからと言っても流石に舐めすぎだ。

地の利はこちらにあるのだ。一番、最短距離で家からここまで来れる場所まで逃げ切ればいい。


「聞いているんですか!私を置いて行ってください!」


ルミナの言葉を無視して走っている俺に、ルミナが掴みかかる。

ただでさえ、人を抱えて走っているのだ。暴れないで欲しい。


「うるせえんだよ!どうせ、1人で逃げたとこで俺も捕まえる気満々なんだ。なら、2人で逃げればいいだろ!」


俺はルミナに言い返す。


「本当に馬鹿な人ですね!だから、私が足止めをすると言っているのです!」


「その立つのもやっとの状態でか!まずは歩けるくらい回復してからそのセリフは吐けよ!丈夫なんだろ!魔力がなくて、人間離れしたからに生まれたから!」


俺の言葉にルミナが黙る。


「私はもういいんです。多分、私がいない方がみんな幸せになれる。きっと、お母さまだって私がいなければこんなこと起こされなかった。サタン様だって、私のような出来損ないなんて邪魔なだけに決まっています。」


ルミナは少し沈黙の後、絞り出すように独り言か何かを言う。

俺はそれを聞くと、ルミナとのこれまでの会話や一緒に剣術の練習をしてきたことを思い出す。


出来損ない?少なくとも、俺が出会ったこの少女はそんなモノじゃない。

たった1人で毎日、刀を振るっていた。例え、それが誰かの目に留まらなくても。誰かに褒めてもらうことがなくても。厄介者扱いされようとも。


だったら、俺がするべきことなんて1つしかない。

肩の激痛はいまだに取れていない。あの一撃をまた受けたら、下手したら骨が折れるかもしれない。

体から大量の血が出るかもしれない。

多分、それはすごく痛いのだろう。この数週間、何度か味わってきている。

だから、分かる。あんなこと、何度だってしたいモノじゃない。

だが、目の前にいる血まみれの少女を見捨てて逃げることなんて出来やしない。


「やめだ、やめだ。」


俺は、そう言うと走るのをやめて立ち止まる。

後ろからはリカルドの足音が聞こえる。


「ようやく諦めたか、全く手間がかかる小僧と小娘だ。その出来損ないに何の価値があると言うのだ?」


俺はルミナを地面に置くと、大剣を取り出しリカルドの方を振り返った。


「この子は出来損ないなんかじゃねえよ!少なくとも、てめえみたいなゴミ野郎達に認められたいとたった1人で誰かに見られていなくても、それがたとえ誰かに褒められたことがなくても刀を振り続けて来たんだ!」


俺はそう言うと、握っていた大剣に力を込める。そして、一度息を吐く。


「よく見ておけ!てめえが10数年縋ってきたモノがどれだけ無駄なモノだったかを!」


俺はルミナに対して言っているのか、リカルドに対して言っているのかよく分からないまま吐き捨てるように言う。

無性に怒りが湧いてくる。何に当たっていいのかすら分からないような怒りだ。


「そんなに認められたいなら、俺が認めてやる!今、ここでランスフォード家だの当主だのそんなくだらないモノを全部斬り捨ててやる!」


俺はそう言い捨てると、大剣の剣先をリカルドに向けて突きつける。


「もう、逃げるのは飽き飽きだ!ここで、全部決着をつけてやる!」

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