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見せかけの勝利

俺とルミナは、リカルドの動きをうかがっていた。


「どんな魔術を使ってくるんだ?」


俺はルミナに小さな声で尋ねる。


「見れば分かります。」


ルミナはそう言うと、一瞬だけ移した俺への視線をリカルドに戻す。

俺も同じようにリカルドに視線を向ける。


リカルドは全身に力を入れたように見えた。

その瞬間、胸筋や腕と足の筋肉が異様に膨らみ始めた。

そして、身に着けていたスーツがビリビリと音を立てて破れた。

体からは獣の体毛のようなモノが生えると、顔も先程の人間の顔から狼に似た何かに変わっていた。

先程の人間の体から身長も相当な大きさになった何かがそこにはいた。


「リカルドの持つ魔術は“変化の魔術”。自身の体を生き物を模して変化させます。その中のウルフモデルです。」


歯と爪も鋭く光り、口からは白い息を吐いていた。


「来ますよ!」


ルミナはそう言うと、自身に向かってきたリカルドの鋭利な爪を刀で防ぐ。

踏み込んできたリカルドの足元には大きなクレーターのような形を作り、砂や石ころが舞い上がる。

俺は、そのリカルドの横を狙おうと大剣を振るう。


しかし、リカルドは特に気にする様子もなく俺の大剣を軽くあしらう。

逆に、俺がリカルドのパワーに弾き飛ばされた。

魔力を覆っていなかったらかなりのダメージを貰っていたかもしれない。

むしろ、カウンターは発動しているはずなのにリカルドにほぼほぼ効いている様子もない。


「見た目だけでなく、体自体も完全に獣のそれですから。パワーはもちろん生命力も相当なモノがあります。」


ルミナは俺の前に立ち、刀を構えながら言う。

そして、俺の方をチラリと見る。


「剣殿。私の道具を仕舞っている、あの空間。どのくらい離れた距離でも出せますか?」


小声で俺に尋ねる。

俺は少し考える。その隙を狙って、リカルドが俺とルミナに殴りかかる。

俺とルミナはリカルドを間に挟むようにして距離を取る。


イチかバチかだがやるしかない。何となくだが、この距離ならルミナの目の前に出せる気はする。

俺は、祈るようにしてルミナの前に空間を出そうとした。

祈りが通じたのかは分からないが、ルミナの目の前に黒い空間が現れる。


「ナイスです!」


ルミナは俺にそう言うと、空間の中に手を突っ込んだ。

そして、細い赤い糸を取り出した。

それを左手に持つと、リカルドとの距離を一気に詰める。


「…小癪なことをしようとしているな。」


リカルドはそう言うと、ルミナに対して右手を振り上げて自身の鋭い爪で切り裂こうとする。

俺は、少しでも助けになろうとしてリカルドの背後を狙う。


「先程から、気配を消しながらコソコソと…!」


少しばかり苛立ちに満ちた声でリカルドが叫ぶ。

そして、振り上げた右手を軸に両手を回転させた。

リカルドの周りに強風のようなモノが巻き起こり、俺は大剣で防ぎつつ後ろに下がらざるをえなかった。

ルミナは器用に鋭い刃のような風を避けると、懐に潜り込んだ。

そして、何やらお札のようなモノをリカルドの周囲にばら撒いた。


「しまった!動きがッ!!!」


巨体のリカルドが動きを止められた。

無理に動こうとするが、例の細い赤い糸が張り巡らされていた。

それが、四肢に食い込むと鮮血が飛び散る。


「起爆!!!」


ルミナは俺の方に下がりながら叫んだ。

瞬間、リカルドの周囲にばら撒かれたお札が光り輝くと轟音と共に爆発した。

土煙と共にリカルドの立っていた場所が燃え盛る。


「す、スゲー…。」


俺は思わず感嘆の声を上げる。

ルミナが俺の隣に戻って来た。


「…まだですよ。この程度で倒れてくれたらありがたいんですけどね。」


ルミナが燃え盛る炎を見ながら言う。

炎の中から、糸が食い込んだと思われる場所から血を流し、白い毛が幾分か黒くなったリカルドが現れる。


「あれで死なないのかよ…。」


俺は立ち上がると、再び大剣を構える。


「剣殿。私の持つ魔道具を出せる距離はあれが限界ですか?」


「多分だけど。正直、戦ってる最中でその辺の操作もまちまちになるかもしれない。」


ルミナはそれを聞くと、軽く頷く。


「了解です。でしたら、最大でも先程の距離感を維持しながら戦うとしましょう。」


「出来るのかよ、少なくとも俺はそんな器用なこと考えながら戦う余裕はないぞ。」


正直、リカルドの攻撃を防ぎながらカウンターでチマチマとダメージを与えるのが精いっぱいだ。

この数日、ルミナと剣術の稽古をしておいて良かったと今日ほど思う日はない。

明らかに、以前より攻撃を防げる回数が増えている。


「大丈夫です。少なくとも、武術については負けるつもりはありませんから。ほぼ素人の剣殿の様子を見ながらでも十分に戦えますよ。」


俺を安心させるようにルミナは笑みを浮かべて言う。


「武術では負けない、か。フン、魔力がなくそれにしか縋るしかない女が随分な口を言えるようになったではないか。」


リカルドは、全く効いていないぞと言わんばかりに舌なめずりをする。


「その割には結構ボロボロじゃねえか。」


俺はリカルドに言い返す。

正直、挑発するような余裕なんてないが多少でもいいから怒りで単調にならないかと考えて言った。


「ふむ、確かにそうだな。ならば、次は貴様らの攻撃を一切受けないようにしようか。」


そう言うと、視界から消えたと思うといきなり俺達の前に現れた。

両手を頭上から思いっきり振り上げると、それを俺達に向けて叩きつけて来た。

俺とルミナは両側に避けるようにして距離を取った。

正直、ここでルミナと離れたのは悪手だった気がする。

先程と同じくらいの距離だが同じように出せるかと思った。


「出せなかったら構いません!剣殿!」


ルミナの声が響く。

俺は、その声を聞くと大剣を持っていない左手をかざした。

そんなことを言われたら意地でもやるしかないだろ。

ルミナのすぐ横に黒い空間が再び出現する。

ルミナは俺にニコリと笑みを浮かべると、空間の中に同じように手を突っ込む。


「あまり、長物は得意じゃないんですけどね。」


ルミナはリカルドの頭上に刀を放り投げると、薙刀に持ち替えた。

ランスフォード家には、日本的な要素が入っているとは聞いたが、ルミナの持つ武器はどれも本当に日本でよく見るような武器が多い気がする。

ルミナは両手で握り直すと、一度地面を蹴りリカルドの横っ腹を狙うようにして距離を詰めた。


「言わなかったか、攻撃は受けないと。」


ルミナと同時に反対側から距離を詰めた俺の2人に向けてリカルドが言うと、リカルドの足元から突如強烈な風圧を感じる。

足元はクレーターのような大きな穴が開いていた。


「くっ!!!」


ルミナは、何とかして薙刀を振り下ろそうとするが吹き飛ばされる。

俺も同様に、ルミナが放り投げた刀を左手で掴み、右手に握っていた大剣と共にリカルドを叩き斬ろうとするが吹き飛ばされる。


「所詮は魔術も使えない時点で、ワシとの戦いにおいて圧倒的なディスアドバンテージなのだ。いい加減、現実を見ることだ。」


勝ち誇ったようにリカルドが言う。

ルミナは、薙刀を構え直してリカルドを睨みつける。


「しかし、先程からちょくちょくあの男が面倒だな。突如気配が消えるような感覚がある。貴様のような魔力がない故のモノではない分どこかにいると言う確信はあるのだがな…。」


俺は、ルミナへ話しかけていたリカルドの隙をついて気配を消すとリカルドの懐に潜り込んだ。


「…だが、攻撃に移す際に確実に硬直があるから一撃が遅れるな。お陰で、余裕を持って防げる。」


リカルドは俺を見下ろすと不敵に笑う。

同時に、鋭い爪を光らせた右手が俺を襲う。


「…私がいるのを忘れていませんか?」


右手を振り下ろされるのと同時にルミナがリカルドの背後に回る。

俺は、左手に握っていた刀をポイっとルミナに向けて投げる。


「相変わらず、小癪なことをする。」


リカルドはそう言うと、先程と同様に風圧を出す。

魔術による攻撃ではなく、肉体による攻撃の為か無効化する魔力を帯びさせている大剣が役に立たない。

俺は振り下ろされた右手を防ぐのに精いっぱいで、先程と同様に吹き飛ばされる。

ルミナはと言うと、何とか耐えて一撃を与えようとする。

しかし、左手でその攻撃を防ぐとさらに回り込んで右手に掴んだ刀を振った一撃を左足で蹴り上げる。

ルミナは勢いを殺すことが出来ずに、俺の前に叩きつけられる。


「大丈夫!?」


俺は、地面から起き上がるルミナに叫ぶ。


「大丈夫です。」


ルミナはそう言うと、服に付着した泥を払う。


「剣殿。1つ作戦があるのですが、乗ってくれませんか?」


ルミナはリカルドに聞こえないような小さな声で俺に言う。

正直、自分としては純粋なパワーで戦ってくるリカルドに対して手詰まりなので乗る、乗らないと言う選択をする余裕もない。

俺は無言でルミナに頷く。

ルミナが俺の耳元に話しかける。


「今度は何を企んでいる?」


リカルドは余裕と言った笑みを浮かべる。

何とかして、あの笑みを消してやりたい。


俺とルミナは大剣を構えると、同時に正面からリカルドに突っ込む。


「フン、芸がない。」


リカルドは馬鹿にしたように言うと、両手を広げ正面から受け止めようとする。

俺とルミナはほぼ同時にリカルドに斬りかかる。

その直後、俺はリカルドの裏に回る。芸がないと思われようが知ったこっちゃない。

だが、リカルドは俺を気にする素振りも見せずに目の前で薙刀を振るうルミナに両手の爪を立てて切りかかった。

ルミナの両肩にリカルドの爪が突き刺さったかのように見えた。

しかし、リカルドの目の前にはルミナの姿はなかった。

その眼前には、ルミナが持っていた刀が宙を舞っていた。

ルミナの得意な技である。攻撃を受ける瞬間に高速で避けて、武器もしくは衣服を投げ捨てて相手の視界を奪う。

俺は、視界が奪われたと思ったリカルドの背中を思いっきり叩き斬ろうとする。


「その程度の仕掛け、このワシが気づかぬと思っていたのか。無力な次期当主とやらの考えごとき予測など容易いわ。」


リカルドは俺の方をジロリと振り返ると、地面すれすれから左手を振り上げてきた。

確実にリカルドは止めを刺したと思ったのだろう。

しかし、その目の前には俺の姿はなかった。

リカルドの眼前には俺の大剣が宙を舞っていた。

そして、リカルドの振り上げた左手が空を切る。

瞬間、宙を舞っていた刀をルミナが掴む。そして、リカルドに向けて頭上から振り下ろした。


リカルドの体が真っ二つに切り裂かれる。

地面にリカルドの体が倒れ込む。


「ハアハア…。」


ルミナが疲れきったような息を上げる。

俺はリカルドの死体を見下ろす。


「とりあえず、終わりましたね。」


ルミナはホッと一息をつくと言った。

その瞬間だった。ルミナの体を一本の大剣が背中から突き刺さっていた。


「「えっ!?」」


俺とルミナが同時に声を上げる。

直後、ルミナがドサッと地面に崩れ落ちる。

俺の目の前には片腕の男が立っていた。

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