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新たな日課

その夜、夕飯前の時間に俺とルミナは家の近くにある空地へと向かった。

以前、ルルが関係した騒動の起きた山に登る手前の場所である。

基本的に、周りに人の住んでいる家もないし夕方以降ならわざわざ山に登りに来るような物好きはいない。

恐らく、ルミナの言っていた条件に当たっている場所だと思う。


「結構、いい場所ですね。人も絶対来なさそうですし。何より静かなのがいい。」


ルミナは周りを見渡すと、独り言のように言った。


「言っておくけど、人が少ない云々が条件なら昼間はあまり来ない方がいいよ。もしかしたら、山に登りに来る人とか散歩の人とかくるかもしれないから。」


一応、忠告のつもりでルミナに言う。


「大丈夫です。夕飯前にするだけですので。時間も1時間とかそれくらいですし。」


一体、この子は何をするつもりなのだろうか。

背中には何やら袋に詰めたモノを背負っている。

よいしょ、とそれを地面に降ろすと袋の閉めている部分を緩めた。

中からはイギリスの方では常に腰に差していた日本刀や木刀やら何やらがあれこれ出てきた。

ルミナは日本刀を掴むと、軽く鞘から出して光沢具合を確認していた。


「何をするつもりなの?」


俺はルミナに尋ねた。

ルミナは見て分からないのか、と言った風に俺を見た


「鍛錬ですよ。実家でしたら庭でいつでも出来ますけど、こちらでは流石に泊まらせている家の庭でブンブン振り回すのも危ないですし。何より、ヤバい人だと思われたくないので。」


別に祖父母が寝静まってからすればいいじゃないか、と思ったが住宅街だからどこで誰が見ているか分からないからこれが正解なのかと自分で納得することにした。


ルミナは鞘に刀の刀身をしまうと、ポケットから懐中時計を出した。

そして、それを両手で握りしめると祈りのポーズをした。

イギリスの人だし、キリスト教徒なのだろうか。

ただ、サタンとルルと過ごし始めて2人が祈る光景を一度も見たことがなかったので割と新鮮だった。


「結構、信心深いんだね。」


俺は、ルミナの背中越しに言う。

ルミナは祈りを終えたのか、スッと立ち上がる。


「私は、かなり信心深い方ですよ。サタン様やルル様はそこまで熱心なクリスチャンって訳ではないですからね。」


そう言うと、ポニーテールに結んでいた髪からゴムを取り、垂らした。

そして、前髪を搔き上げて再び後ろに髪を結び直した。

鞘から刀を抜き、鞘を地面に置くと刀を両手で掴み、ふぅと一呼吸をした。

目を瞑り精神を統一させているのか沈黙が流れる。

数秒経っただろうか。目を開くと、左足を踏み込み、頭上に掲げた刀を力いっぱい振り下ろした。

剣道の練習でよく見る光景である。

ただ、恐らくその動作を何年。いや、何十年と続けているのだろうか。素人目にも分かるくらいの無駄のない、綺麗な動きだった。

そして、軽く息を吐くと踏み込んだ左足を戻し先程と同じ姿勢に戻る。


「それをするためだけにわざわざ人気のない場所を探していたの?」


俺はルミナに尋ねる。

ルミナは動作を邪魔されたとばかりに、少しムッとした表情を見せる。


「そうですが。これは、私のルーティンみたいなものです。日本に来たから、と言ってやめるようなモノではないのです。」


そう言うと、再び左足を踏み込んで刀を振り下ろした。


「そう言えば、イギリスでルミナちゃんの実家に遊びに行った時にもしてたな。」


俺は、思い出したかのように言う。


「そうですね、誰かさん達が邪魔してきましたけど。あの時は。」


チラリと軽く睨むルミナ。


「サタンとルルちゃんは祈りとかしたこと見たことないけど、その祈りも毎日してるの?」


「もちろん、朝起きた時と鍛錬の前。それと寝る前にですが。後は、食事の前にもしますね。サタンとルル様も一応はイギリスにいた時は教会のミサとかに毎週ご家族と行ってはいましたけどそもそもあの2人が神様なんて信じると思いますか?」


「思わない。信ずるは己ただ1人みたいな考え方だもんな。特にサタンは。」


俺は、逆に聞き返すルミナに言う。

ルミナはそれを聞くと、少し微笑んだ。


「まあ、そうですよね。あの2人は強い人達ですから。リヤド共も生まれが生まれですし。何かにすがると言うことはしない人達ですから。」


「逆に、聞きたいけど神様なんていると思うの?」


ここ数週間で天使だの何だのに会ってきた俺が言うのもおかしな話だと思う。

正直、あれを天使だと思いたくない。

と言うか、天使だとしたらそいつらに殺されかけているのだ。

その親玉の神様なんてきっとロクでもないと思う。


「そうですね、剣殿はいると思いますか?別にキリスト教の神じゃなくてもいいですよ。日本でしたら仏様になるんですかね。」


再び、ルミナが俺に逆に聞き返してきた。


「いないと思う、って以前の俺なら答えたかなー。まあ、でもここ数日会った奴らのせいでいると思い始めてる自分もいるかな。まあ、いたとこで何1つこちらの得になることしてもらってないから信仰する気もないけど。」


俺は、立つのが疲れたので地面に胡坐をかいて座った。

そして、刀を両手で構えるルミナに見上げるようにして答える。


「私はいると思っています。と言うか、いて欲しいって言い方の方が正しいかもですけど。もしかしたら、いつか私を助けてくれるかもしれないとすがるのって大事だと思うんですよ。個人的には。」


ルミナはそう言うと、再び丁寧に刀を振り下ろす動作をする。


「いるかも分からない存在にすがるって中々に虚無な気もするけどな…。」


俺は、ボソッと言う。

まだ書いている人間が誰なのか分かるだけ、怪しげなビジネス本の方がすがるならいい気もする。

ルミナは、そんな俺の言葉に振り向く。


「いいんですよ。考え方なんて人それぞれなんですし。」


「また、何か訳アリみたいな言い方だな。サタンの周りってそう言うの多いよな。ルルちゃん然りリヤド然り。」


ルミナは刀を振り下ろす手を止めた。

そして、袋に入っていた木刀を一本俺の目の前に出した。


「もしよかったら、剣殿もどうですか?一応、こう見えても武術の腕は多少は自身はあるんです。」


「今までの人生で喧嘩のけの字もしたことない俺にそれを言うのか。そもそも、俺が今までしてきたスポーツって全部球技なんだよな。剣道なんて体育の授業で軽くくらいだし。」


俺はそう言うと、木刀を受け取り立ち上がった。

軽く、ブンブンと振るった。

以前、渡された大剣よりだいぶ軽くそして剣道で使う竹刀よりは重いなと言った感じだ。


「そもそも、剣殿こそちゃんと鍛錬をしないと1人で戦えないと思えないのですが?」


意地悪気にルミナが言う。

俺の言葉が気に入らなかったのだろうか。久しぶりに、喧嘩腰な言い方である。


「別に魔術の勉強ならルルちゃんからちょくちょく教えてはもらっているんだよね。まあ、確かに多少は武器使うから体術的なことは覚えないといけないのかなとは思っているけど。」


「でしたら、私と腕試しはどうですか?もちろん、実力差は考慮してては抜いてあげます。」


随分な言いようだな、と思った。

と言うか、毎回思うがこれが人見知り激しいコミュ障と言うサタン達の評価がいまだに信じられない。

俺は前世でこの子に何かをしたのだろうか。


「言うじゃん。いいぜ、こう見えて傷だらけになりながらあの人数相手に生き残った男だぞ。流石に舐められすぎだろ。」


俺はそう言うと、木刀で肩を叩いた。


「そうですね。ですから、魔術は使わない純粋な剣術の勝負をしませんか?」



木刀に持ち替えたルミナが言う。

魔術は使えないのか。まあ、でも男性と女性だ。

正直、フィジカルでごり押しすればどうとでもなるだろと思った。


「いいよ、それで。じゃあ、するか。」


俺とルミナは胸の前に木刀を構えると、ほぼ同時に走り出した!-


-結果を言えば、惨敗だった。

ほとんど、勝負にならなかった。

魔術を使えば、多少は勝機はあっただろうが残念ながら使えない状態でその言い訳はダサい気がする。

無駄に筋肉があるサタン相手だと流石に筋力勝負はきついと思っていたが、体型的にスラリとしているルミナ相手なら何とかなると高を括っていた。

しかし、初手に俺がルミナに対して振り下ろした一撃を軽くスピードで躱されると、その後もスピードを駆使して俺に攻撃を仕掛けてきた。

正直、目で追えないレベルだった。

まさか、魔術を一切使わない戦いだとここまでボコボコにされるのかと言った感想だ。

正直、魔術使ってもスピード勝負に持ち込まれたら勝てるかも怪しいが…。

疲れて、地面に座り込んでいる俺に勝ち誇った顔のルミナが来た。


「ふふん。まあ、こんなもんですね。」


ドヤ顔をするルミナ。何かムカつく。


「でも、魔術を使ったら多分私といい勝負になったと思いますよ。私は、ほら。サタン様から聞いているように魔力が一切ない特殊体質なので。」


俺を見下ろしながら、ルミナが言う。


「確か、魔術師の戦いだと特に近接戦闘をメインで行うタイプは魔力で自身の体を強化させるんだよな?」


俺は、ルルから教わったことをルミナに言う。

自身の持つ魔力で体を強化することで、自身の持つ魔術の特性だけでなく純粋な身体能力のバフもかけることが出来る。

以前、リヤドと一緒に戦った時も覚えたてのぎこちない形であったがそれを使って何とかなった。

逆に言うと、それがないと一般人レベルだと言う話だ。


「そうですね。私の周りですと、サタン様やリヤド殿がいい例ですね。逆に、ルル様の場合は中距離から遠距離で戦うことが多いのでそこまで魔力を割いている感じはないですね。まあ、あの人の場合は精霊魔術で勝手に強化されてるからリソースを割く必要がない、とも言えますが。」


だから、とルミナは言葉を続ける。


「私の場合は魔力を持った両親から生まれたのに魔力がない体質、故に身体能力が人間の限界を超えているなんて聞こえはいいですけどそれが生きるのは魔力を持たない人間との戦闘くらいですかね。もしくは、魔力がないことを生かして魔力探知から外れるくらいですね。先程も言いましたけど、基本的に魔力で自身の体を強化するような魔術師との戦いだとほぼほぼ使い物にならない。」


そう言うと、ルミナは俺を立ち上がらせようとしてくれるのか手を差し出してきた。


「もし私でよろしければ、剣術の稽古くらいならつけてあげれますけど。どうですか?今のままだと1人で戦った場合、確実に死ぬことになりますけど。」


俺はルミナの手を掴み、立ち上がる。

確かに、今までの戦いを振り返ると基本的に誰かと一緒に戦っていた。

まだ、1人で戦う場面がないが死ぬのは嫌だ。


「じゃあ、頼むよ。まあ、基本的に部活がない日の夕飯前とかになるのかな。」


「私はこの場所は個人的に気に入りましたので、今日と同じ時間くらいでしたらいつでもいる予定ですので来ていただければ教えますよ。」


ルミナはそう言うと、俺から渡された木刀を袋の中にしまった。

こうして、俺とルミナの新しい日課が出来た。

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