ルミナの過去
ルミナとの日課が始まり、数日が経った。
その日、夕飯の前に日課を終わらせた俺は夕食と風呂を済ませて自室で携帯を触りながらくつろいでいた。
恒例のように人のベットの上で漫画を読みながらゴロゴロしている居候に加えて、そのベットに寄りかかり地面に座ってゲームをしている妹も加えて。
最近は、ルルも時々この部屋に来るようになったせいでいよいよ俺の部屋の移動範囲が減っているように感じる。
そんな俺の気持ちを一切考慮しないサタンがふと思い出したかのように漫画を読みながら俺に話しかけてきた。
「そう言えば、最近ルミナと何かやっているそうじゃないか。」
「何で、知ってるんだよ。お前はもちろんルルちゃんにも言ってなかった気がするけど。」
サタンの隣でポチポチとゲーム機を操作するルルを見ながら、俺は言う。
「ルミナから聞いたからな。」
「毎回思うけど、女子3人組でお互いの情報を共有しすぎだろ。」
俺は呆れながら言った。
アプリのグループ通話機能を使って、俺とリヤドを含めた5人のグループの他にサタンとルルとルミナの3人だけのグループが作られているそうで毎日のように連絡を取り合っているらしい。
この数週間の付き合いで、このサタンと言う女。無駄に仲間意識が高いタイプなんだなと言うことを知った。
「で、どうなんだ?多少は強くはなったのか。」
俺の言葉を無視して、サタンが尋ねる。
俺は、触っていた携帯を机の上に置くと少しばかり考えた。
「まあ、最初に比べたら多少は強くなったんじゃないかな?今まで、我流で大剣振り回したりしてただけだし。」
俺は、軽く何も持たずに素振りをする真似を2人に見せた。
「魔力が一切ないなら別ですけど、そうじゃなくて闇属性の魔術特性を持っているならそこまで武術方面を鍛える必要性はないと個人的には思いますけど、流石に毎回のように特攻前提の戦い方だと怖いですからいいことだと思いますよ。」
ルルがゲームを触りながら口を挟む。
そして、ふと思ったのかサタンにルルが言う。
「でも、珍しいですね。あのルミナさんがここまで短期間で打ち解けるなんて。」
「まあ、そもそも私とルルと仲良くしてたから自分の居場所奪われたくない的な感じで敵意全快だったからな。コイツに対しては。そのままのノリで話せているだけじゃないのか?正直、あいつに関しては少しでも人見知りが無くなってくれればそれでいいくらいにしか思わないな。」
サタンはそう言うと、読み終えたのかそれともはたまた飽きたのか手に持っていた漫画を布団の上にポイっと置いた。
「お前の周りって何か変わった奴多いよな。ルミナちゃんにしてもリヤドにしても。」
俺はそんなサタンを見ながら言う。
「あら?それは私も変わっていると言いたいんですか?」
俺の言葉に素早くルルがツッコむ。
「ルルちゃんのことは一言も言ってないよ。でも、そう思うならそうなんじゃない?」
俺は、肩をすくめてルルに言う。
ルルは不満げに頬を膨らます。
「さあ、どうだろうな。ただ、それだとお前もその変わり者達の1人になるがそれでもいいのか?」
サタンがニヤリと笑みを浮かべると俺に言う。
正直、とびきり変人のこの女に言われるのは心外だ。
「そうだな、もしかしたら変人を引き寄せるフェロモンでも出してるんじゃないのか?お前って。」
俺はサタンに言い返す。
「ムゥ…。人を蜂やら何やらの昆虫みたいな言い方をするのは流石に失礼だと思うのだが。」
露骨に不満そうな顔をしたサタンが、寝転んでいた体を起こす。
そして、そのままルルのしているゲームを覗き込む。
「そう言えば、人見知り激しいってよく言ってるけど何でそんなことになったんだよ。」
俺はふと気になったので2人に尋ねた。
2人はそれを聞くと、お互いに顔を見合せた。
「まあ、別に話してもいいか。どうせ、いずれ分かるだろうし。」
「この流れ、どこかで見た気もしますが。まあ、実際お姉さまが訳アリな人間を引き寄せているのは事実ですからね。」
「その訳アリにお前も含まれていることを忘れるなよ。」
サタンがルルの言葉に言い返す。
ルルは聞こえないふりをしているのか、サタンの言葉に何も返さない。
「そうだな、どう話そうかな。」
サタンが何かを悩んでいる風だった。
その様子を見ていた、ルルが代わりに話を始めた。
「別に一から話せばよいのでは?どうせ、いい機会ですしルミナさんの特殊体質の話も出来ますからね。」
そう言うと、ルルはゲーム機を閉じた。
「まず、魔術師の家系で生まれて魔術師になる上で最も大事なことって何だと思いますか?」
最も大事なこと…?何だろうか。
俺が考えていると、ルルがそのままの流れで答えを言う。
「簡単です。魔力があることです。その魔力に自身の特性の魔術が刻み込まれていればなおいいです。ただ、そもそも魔力がなければ何も始まらないんです。」
俺はそれを聞くと、そう言われるとそうだなと納得した。
あれ?そうだとすると、ルミナって確か。
俺が脳裏に浮かんだ疑問をルルは察したのか話を続ける。
「そうです、ルミナさんの場合は魔力を持たずに生まれてきました。その時点で魔術師として生きる道はほぼないと言えるんです。ただ、問題はそれが仮にも魔術師の家の次期当主として生まれてきたことですね。」
「前にも言ったかもしれないが、基本的に魔力のある人間同士からは大なり小なり魔力を持つ人間が生まれる。あいつの場合は、その魔力を一切持たない状態で生まれてきた。当時の話だと、ランスフォード家は大騒動だったらしいぞ。」
サタンがルルの話に付け加えるように言う。
話の流れは理解出来た。ただ、魔力を持たなくて魔術師になる資格がないのなら別に当主にしなければいいだけなのではと思った。
「ランスフォード家は魔術師の家としてはかなり歴史が浅い家ですからね。そこら辺を気にしているルミナさんの両親の部下の大人達からしたら当主の子供からそんな異形な存在が生まれたと言うだけで家の名に傷がつくと問題視してたらしいですよ。」
正直、当主だの何だのみたいな大層な家柄の人間でもないし、周りにもそんな知り合いはいないからか実感の沸かない話である。
「何て言うか、悲しき過去を持ってます系少女ってことでいいのかな?」
俺は、サタンとルルにルミナへのイメージを素直に言った。
サタンは、まあそうだなと呟いた。
「正直、ルミナがそんな言葉を無視すればいいだけの話だったんだがな。別に、あいつの両親はそんなこと気にせずに好きに生きたらいいと優しく育ててくれていたんだし。」
「逆に甘やかしすぎたからあんな風になったのでは、と思いますけどね。」
横から呆れるようにしてルルが言う。
サタンが更に言葉を続ける。
「ちなみに、あいつの父は私のお父さまの弟に当たる方なんだよな。まあ、あいつの妹のクレアが生まれてすぐに病気で亡くなってしまったのだが…。」
「えっ、じゃあルミナちゃん達って今はお父さんがいない状態なわけ?てか、お前らって親戚だったのか。」
初めて聞く情報に俺はサタンに聞き返す。
「そうだな、元々ランスフォード家は女子が当主になる決まりらしくてな。それで、うちの家との繋がりを強化する為の目的なのかは忘れたがウィザード家から婿入りしたとは聞いた気がする。」
曖昧な感じでサタンが言う。
「そもそも、お前らっていつ出会ったのかをまだ聞いてないんだよな。」
俺は、ふと思いサタンに尋ねる。
サタンは思い出しているのか、天井を軽く見上げた。
「5歳くらいの時か。私とルルが初めてウィザード家の集まりに出席した時に挨拶回りとかに疲れてルルと一緒に抜け出した時だったかな。」
「お前って、昔から変わらないんだな。」
俺が呆れながら口を挟む。
サタンは、余計なお世話だと小声で言う。
「その時に、庭に出た時に1人で花を摘んでいるボッチがいたからな。興味を持って話しかけたんだよ。」
「何か、いきなりありがちな出会いだな。リヤドみたいにちょっと外した感じの話じゃないんだな。」
「あれは、あいつがおかしかっただけだ。そもそも、ルミナに関しては初めて会った時点で家族以外から嫌われまくっていて、ランスフォード家の同世代の子供達からも避けられていたらしいからな。」
「で、仲良くするようになったのか?」
俺はあまりにも可哀そうな話に聞く気がなくなり始めていた。
「まあ、流石に不憫すぎたからな。会ったらなるべく話すようにしていたら、気づいたらどこにでも付いてくるようになっていた。」
「それが、ルミナちゃんの人見知りが激しい理由と2人との出会いってわけか。」
俺が一通り、話を聞くと言った。
しかし、ルルがそこで口を挟む。
「いや、正確には魔力がない体質の話とどういう扱いを受けたか、それと私達との最初の出会った時の話ですね。正直、人見知り激しいと言うかコミュ障になったのはまた別にあるんですよ。」
「まだあるのかよ…。何か段々と不憫に思えて仕方ないんだが、明日から今までみたいな見方が出来なさそうなんだけど。」
俺は、ルミナに同情するかのように言った。
「まあ、もう終わるから最後まで聞いておけ。その後、小学校からずっと同じ場所に通うようになった。で、中学時代に問題が起きた。」
そう言うと、サタンはルルに視線を送った。
ルルはその視線を受けるとため息をついて代わりに言った。
「まあ、端的に言えばイジメを受けたってとこですね。正直、理由もよく覚えていませんが。」
「ルルちゃんとリヤドは助けなかったの?同級生なんだし。」
俺の疑問にルルはうーんと首を傾げると答えた。
「助ける、と言うか私達は普通にルミナさんと仲良くしていただけですよ。だから、イジメの主犯格の女の人に変な嫌がらせは受けましたけど気にせずに無視してただけなんですよね。」
「メンタル強いんだね…。」
俺は若干引くように言った。
「特に興味もない、仲良くする気もない人間からの嫌がらせ程意味のないモノはないですからね。無視が一番なんですよ。ただ、そこから私達がいない場所でルミナさん単独へのイジメが加速したんですよね。明らかに顔に傷とか付いているのに家族にも私にも言わずに我慢してたみたいで。」
だから、とルルは言葉を続けた。
「面倒だし、1人でふさぎ込んでうじうじされるがムカついたのでそこのお姉さまに言ったんですよ。」
そう言うと、ルルがサタンの方を見た。
「聞いた時は、その主犯格の奴を物理的に黙らせればいいかなと思ったんだけどな。」
「毎回思うんだが、発想がチンピラなんだよな。お前って。」
俺は呆れながら言った。
「そしたら、そこのルルがそれよりも親を通じてイジメをしていた集団を追い出した方がいいって言いだしたからそれに従ったんだよ。で、そいつらは学校から厳重注意を受けてどうしたんだったかな?校内での視線に耐えられなくなって主犯格の女は退学したんだったかな。もう忘れたけど。」
サタンとルルはどうだったかな、と思い出すかのように言った。




