第16話 最期のお別れ
龍は聖書では、悪魔とされる。
日本の神社では龍神を祀っているところも多い。聖書でいう悪魔の神社と言っていいだろう。
そうなると、この村のカルトも悪魔を拝んでいた事になる。
今、目の前にいる龍のオブジェは、突然目が光り、話はじめたわけだが、中に悪魔が憑依しているのだろう。こういった悪魔は、誰かに拝まれる事によっても力を増す。一方キリスト教の神様は、人が何をしなくても元々全知全能だから変わりは無い。むしろ賛美する事で人間の方が力を与えられる。
「あんた、悪魔ね?」
マリアは立ちあがり、龍のオブジェ、いや悪魔を睨みつけた。
『マリア、私はお前の事は知ってるよ。本当の世界ではシスターだろう? ゲーム世界によく来たね』
「やっぱりここはゲーム世界だったのね? もしかしてあんたが作った世界?」
『そうだ。人々には仮想空間に閉じ込めて、一生ここにいて欲しいからね。人間を使ってこういうゲームを開発させたってわけさ』
「何の為に?」
『決まってるじゃないか。俺は神が憎い。神が創った世界に誰一人人間を置きたくないね。まして天国など絶対に行かせるもんか! 地獄に道連れにしてやるよ!!!』
悪魔の絶叫に膝が砕けそうになる。
でも希望が出てきた。この悪魔を倒せば、元いた世界に帰れるかもしれない。
もうこんなゲーム世界はウンザリだ。お腹も減らないし、聖女だと勘違いされて拝まれたりしてしまった。
『そんなマリアに、良い提案があるよ?』
「何?」
どうせろくでも無いものだろうが、一応聞く。
『聖女の力をあげるよ。奇跡の癒しの力と神託できる力をあげよう』
「いらないわよ! 悪魔からの声を聞けたって、単なる偽預言者よ」
マリアは、鋭く悪魔を睨みつけた。
『本当に? その力があれば、国中の民がチヤホヤしてくれるよ? 聖女様って崇めてくれるね? 気分いいよねぇ、誰かの上に立つのって』
「うっ……」
明らかに自分は誘惑されていた。
確かに自分は、聖女のように崇められた時はちょっとは気分が良かった
でも、でも……。
自分は神様ではない。自分が神様になるよりも、神様と一緒に人生を歩みたかった。
『聖女になったら、エレンにも好かれるかもね? 彼はイケメンで、君を守ってくれるよ? どうだい? この世界にずーっといた方がいいよね? 老いも悲しも無い天国みたいなゲーム世界で暮らしたいよね?』
心は揺れていた。
でも、魂はそんなものは求めていないと気づく。チープでフェイクな天国よりも神様と一緒に生きる事が大事だと魂が訴えていた。いや、魂ではなく、これは霊だ。霊が神様を求めていた。
「うるさいわ! こんなチンケな天国はいらない! 神様と一緒に生きていくんだから! イエス様の御名前で命令するわ、悪魔よ、去れ!」
全身全霊をかけて叫んだ。
同時に龍のオブジェは、目の光りを失い、声もしなくなった。
『覚えてろ!』
捨て台詞は聞こえたが、悪魔は完全にいなくなったようだ。
力が抜けてその場に座り込んでしまうが、だんだんと礼拝堂の背景が薄くぼやけて消えてきた。
メイソンやアリスの姿も消えていく。
「エレン!」
消えかけていくエレンにマリアは精一杯叫んだ。エレンは少し悲しげにこちらを見ていた。
「所詮、偶像の俺は死ぬ時が来たようだね」
「そんな……。エレン、消えないで」
「何の力もなく、自由意志も無い自分は消えるべきなんだよ……」
「そんな事言わないで。一緒にこの世界から出ましょうよ」
マリアは泣いていたが、エレンはスッキリとした笑顔を見せていた。
「それは無理だ。偶像の俺には何の力もないんだ。もちろん、俺は君を守れないし救えない」
「う、うん……。人を救えるのは神様だけね……」
今まで感じていたエレンへの感情も、仮想だったのかもしれない。
「君と食べたマシュマロやホットサンドは美味しかったよ……。忘れない、ありがとう」
それがエレンの最期の言葉だった。
エレンも、メイソンもアリスも背景の龍のオブジェも礼拝堂も全部消えてしまった。
気づくと目の前にこんな言葉が流れていた。
『ゲームクリア!』




